02話 冒険者になろう
生き残ることが先決です。
「さっき、この世界に来たことあるって言ってたな」
「はい。少し前に旅行で来ました(笑)」
旅行って......
「この町に見覚えがあったってこと?」
「この町には初めて来ましたよ(笑)」
「え? じゃあ何でわかったんだ?」
「言葉が同じだったので(笑)」
「なるほど」
言葉が同じなら以前エールの来た世界で間違いないのだろう。
「とりあえず、エールの知っているこの世界の情報を教えてくれよ」
「えっとですね......」
エールの知っていた情報をまとめると
・この世界には魔王がいるが、特に討伐対象ではない
・天使が旅行に来るくらいは平和
・ただし、町の外にはモンスターがいるので、あまり出歩かない方がいい
・貴族や領主のせいで物価が高い
・この町に来たことはない
・チャーハンが美味しい
「前に来たときはお金もあったのですが、今回は無一文です(笑)」
見た感じ、エールは手ぶらだ。
「やっぱり、まずはお金だよな」
「次にチャーハンですね(笑)」
「それ重要?」
「大事なのは、衣食住ですよ。その中で一番大切なのが食です(笑)」
「いや、まあそうなんだけど」
何故、チャーハンに拘るのか?
「この世界に来たらチャーハンってガイドブックに書いてあるんですよ。それで、前来た時食べたら本当に美味しかったので、また是非食べたいなと思いまして(笑)」
こんな話していると腹が減ってきた。
考えてみたら、この世界に来てから何も食べていない。
「天界にはあんな美味しいチャーハンが食べられないんですよ。で、何でかって考えた時にお米が違うってことに気がついたんですけど、天界のお米って粘性が高くて、どう調理してもここのチャーハンみたいにパラパラにならないんですよ。それと、天界の味付けって全体的に薄くて、私的にはもっと濃い目の方が好みで――」
エールのチャーハン談義が延々と続く。
止めないと長くなりそうだ。
「わかったから! でも、とりあえずはお金が優先な?」
「そうですね。で、どうやって稼ぎましょうか(笑)」
「......さっぱりだ」
会話が途絶えてエールを見ると、ニコニコしながらこっちを見つめ返してくる。
しばらく見つめ合っていると
「私の顔を見ていても仕方ありませんよ。あそこのお爺さんに聞いてみましょう(笑)」
エールがそう言い残して、お爺さんの元へ行ってしまったのでヤスも後を追う。
「今日この町に来て、右も左もわかりません。私達みたいな人向けの相談窓口はありますか?(笑)」
「ああ、君たちみたいなのはとりあえず冒険者ギルドに行くと良い。身体が丈夫なら相談に乗ってくれるよ」
「御親切にありがとうございます(笑)」
「いやなに、助け合いは神の意思だよ」
お爺さんが指差す方向には石像が立っている。
「では、神様にもお礼を言っておきますね(笑)」
お爺さんと別れ石像の元へ向かう。
石像は3mくらいの大きさだ。
「エール、この世界の神様って女神だよな?」
「そうですよ(笑)」
「何か立派なモノが付いているんだけど......」
ヤスとエールの視線の先には女神には無いモノが付いていた。
「あらあら(笑)」
これは一体どういうことなのか?
「神様を間違えてますね(笑)」
「この世界の女神は間違った神様で信仰されているのに放置しているのか?」
「存在しない神様信仰させて楽しんでいるんじゃないですかね(笑)」
それは楽しいのだろうか?
「どんなに一生懸命信仰しても、その想いは絶対に届かないってこと?」
「噂通りのイイ性格した女神様ですね(笑)」
えぇ......
「そんな女神が喜びそうなことって何なんだ」
エールの試練を達成できなけれな、ヤスとエールは延々とこの世界を彷徨うことになる。
「ヤスさん、先ずは一歩一歩ですよ(笑)」
そうだった。このまま無一文では寿命が来る前に死んでしまい、結局彷徨うことになる。
「それじゃあ、お爺さんの言う通り冒険者ギルドに行こうか」
「はい(笑)」
✳︎✳︎✳︎
冒険者ギルドは神の石像の近くにあった。
カランコロン。
扉を開け建物に入ると、先ず食堂が目に入った。空腹のヤス達にとってこの光景は厳しい。
「相談窓口ってどこですかねー(笑)」
「あっちに受付っぽいとこがあるぞ」
ヤスの目線の先には暇そうな窓口があった。
「お腹空きましたね(笑)」
目の前に飯はあるが、金はない。
ここは我慢して窓口に向かう。
「こんにちはー(笑)」
「こんにちは。初めましてですよね? ご用件は冒険者登録ということでよろしいでしょうか?」
「それでお願いします(笑)」
「かしこまりました。私、アリスと申します。クエストを受ける際はこの窓口になりますので、今後も顔を合わせる機会は多いと思います。よろしくお願いしますね」
「エールです。こちらこそよろしくお願いします(笑)」
エールが勝手に話を進めてくれているのでヤスはすることがない。
暇なので建物内を観察する事にした。いかにも異世界というような光景に胸が躍る。ふと壁際を見ると数人が掲示板を見ながら相談していた。見るからに冒険者っぽい。
「それでは登録をするので、ここにサインをお願いします」
気がつけば登録も済みそうだ。
「はーい。あ、ヤスさんの分も書いておきますね(笑)」
「これで登録は終わりです。では、お二人の似顔絵を描くのでもう少々お待ち下さい」
冒険者登録のメイン作業は、窓口での似顔絵作成だった。
「わー、アリスさんお上手ですね(笑)」
「これも仕事ですからね」
アリスの手元を見るとヤスとエールの似顔絵がほぼ完成していた。
写真とかないと登録も大変だな。
「何だか賞金首みたいになってますね(笑)」
「もし、何かやらかしたらこの絵が町中に貼られますよ」
身元不明の怪しい人をとりあえず登録させて、何かあった時に使う。
冒険者システムは防犯的な側面もあるのだろう。
「そうならないことを祈っていますね」
アリスはそう言うと、ペンを置いた。
お読みいただきありがとうございます。
美味しい食べ物も物語的に意味があります。