16話 スライム
スライムの生態がエールによって解き明かされます。
翌日から、エールのスライム観察が始まった。
「はーい、スライムさーん。葉っぱですよー(笑)」
観察した結果、スライムは基本的になんでも食べることがわかった。
例外として、土やスライムからできた石は食べないようだ。
「特に見た目に変化はなしか」
「増える気配はありませんね(笑)」
今の目標は、スライムの増殖である。
雄と雌を同じ穴に入れておけば増えるのではないかと考えたが、見た目では全く判断ができない。
そもそもスライムに性別があるのかすら謎である。
「調子はどうだい?」
タマキがこちらに来てスライムを覗き込みながら聞いてきた。
「繁殖する気配はないです」
「スライムに性欲ってあるんですかね(笑)」
「ふむ。試してみるか」
タマキの魔法は性欲を増減することも可能だと言っていたのを思い出す。
うーん。性欲全開のスライムとか、見たいような見たく無いような......
「ふっ」
タマキがスライムに人差し指を向ける。これで魔法がかかるのだろう。
しかし、見た感じスライムは一切反応しない。
「ふむ。無いな」
「わかるんですか?」
「ああ、魔法がかかった時の感覚が無かったからな」
ヤスにはわからないが、あるらしい。
「ではこっちか」
タマキがもう一度人差し指を向けると、スライムが一瞬ビクッとした。
「何したんですか?」
「食欲を上げた」
「はーい、スライムさーん。葉っぱですよー(笑)」
食欲を上げたら草をよく食べるようになった。
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数日後
「大きくはなりましたけど、増えませんね(笑)」
「このサイズのスライムは見たことがないわ」
当初、人の頭位の大きさだったスライムはヤスと同じくらいの大きさになっていた。穴は随時タマキが広げているらしい。
「ヤスさん、増やさなくてもこの大きさなら使えるんじゃないですか?」
「でも、一度攻撃すると動きが早くなって逃げられちゃうしな」
問題は分裂後のスライムの素早さである。
「この大きさのスライムが速く動いたら面白いですね(笑)」
「もしかしたら、この大きさだと速く動けないかもな」
「まあ、まだ数匹いるので1匹くらい逃げても平気ですよ(笑)」
試してみる価値はありそうなので、ルンを呼んでスライムを分断してもらった。
「動きは遅いままですね(笑)」
スライムは攻撃されることで危険を感じて素早くなると思っていた。
しかし、実際は分裂して小さくなることで素早さが上がっていたようだ。
「なら、もっと大きくしよう」
「永久機関ですね(笑)」
スライムを無理に繁殖させる必要がない事がわかった。
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次の日
タマキに頼んで山に縦穴を掘ってもらった。場所は洞窟のすぐ隣である。
この中にスライムを入れて、蓋をすれば多少大きくなったとしても逃げられないはずだ。
「できたぞ」
タマキは穴掘り後も顔色一つ変えない。
「やっぱり魔法使ったんですか?(笑)」
「もちろんだ。そうでもしないと穴掘りなどしたくないわ」
綺麗な女性が快楽を求めてひたすらに穴を掘るというシチュエーションは、誰かに特殊な性癖を植え付けそうだ。まあ、タマキは見た目が変わらないのでセーフだろう。
「タマキさん、ここに小さ目の穴開けてもらって良いですか?」
「ふふん。良いだろう」
心なしか頬が少し赤い気がする。
山肌に小さな穴開けて少しずつ出して利用する事にした。使わない時は石で蓋をすれば良い。
「なんだか残酷かもしれないな」
「食用の家畜みたいなものですね」
罪悪感が無いこともないが、とりあえずスライムで色々作る準備が整った。
「椅子とかテーブルが欲しいですね(笑)」
「もう好きな家具作り放題だからな」
一気に生活の質が向上しそうだ。
「エールは引き続きスライムの世話を頼む」
「はーい(笑)」
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数日後
「ヤスさーん。大変です(笑)」
「どうした?」
「実験用に育てていた5匹のスライムが大きくなりすぎて逃げちゃいました(笑)」
「大きくなりすぎた? どれくらいだ?」
「4mくらいです(笑)」
エールの後ろを見ると、巨大化したスライムが5匹逃げいていくのが見えた。
町とかに行ったらやばい気がする......
スライム達は幸い町とは反対側に向かっているようだ。
「ルン! 何とか止められないか!?」
ヤスが声をかけると同時にルンはスライムに攻撃を仕掛けていた。
「ダメです! デカすぎて棒で打ち込んでも分断できません!」
「どうしましょう(笑)」
スライムはどんどん洞窟から離れていく。
「スライムの端から削っていくんだ!」
「わかりました!」
ルンとヤスで手分けしてスライムを端から削っていく。
エールはともかく、タマキも非戦闘員みたいだ。
戦力が乏しい。
「くそっ! キリがないな」
スライムが5匹かつ大きいため、1匹を相手にしている間に他のスライムが再生してしまう。
「ヤスさん! 何でこんなに再生が早いんですか!?」
「私がスライムの食欲を上げたからな! ......ふむ。なら下げれば良いのか」
この人見た目は出来る人オーラを出しているが、結構ポンコツな気がしてきた。
もしかしたら性欲の魔法を使いすぎて脳が萎縮しているのか?
「ヤスさーん、さすがに失礼ですよー(笑)」
「何のことかな」
やはりエールは考えが読めるのだろうか?
むしろ読んでいなかったならエールも同じことを考えていたことになるので、こいつもなかなか失礼なやつだ。
「再生力は衰えたみたいですね(笑)」
「ルン! これ以上再生することはなさそうだ!」
「ヤスさん! これ以上洞窟から離れるのは危険だと思いますよ!」
スライムを削りながら随分遠くまで来てしまったようだ。この辺のことは詳しくない。もしかしたらヤス達の知らない危険なモンスターもいるかもしれない。
「とりあえず合流してくれ!」
「わかりました!」
ルンが合流しヤスの判断を待つ。
その間もスライムはどんどん遠ざかっていく。
「タマキさん、あそこまで大きなスライムは普通いないんですよね?」
「ふむ。長年生きているがあそこまで大きいのは初めてだ」
タマキが食欲を上げたからあそこまで大きくなったのだ。
ならば食欲を元に戻した今のスライムであれば、そこまで脅威にはならないはず......たぶん。きっと。
「恐らく普通のスライムの成長スピードは遅いんだと思う。だったら放置してもこれ以上大きくなることは無いんじゃないかな?」
「なら帰りましょう!」
ルンは相変わらず切り替えが早い。
「スラ男やスラ子達は自然に帰すんですね(笑)」
4mのスライムが5匹、旅立っていった。
「名前つけてたんですね」
「感動のお別れです(笑)」
このスライムたちが退治されるのはまだ先の話である。
お読みいただきありがとうございます。
逃げ出したスライムは、後で関わってくる予定です。
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