第八話
甘々です。多分。
副島健人視点 です。
翌日。
空は気持ちいいほど澄み渡っている。
俺はサエとの待ち合わせのために家を出た。
なぜだか知らないが駅で待ち合わせ。別に俺が迎えに行けばいいのに…
昨日は深夜まで緑のおめでたメールに付き合っていた。
あの野郎、同じ内容を6回も送ってくんじゃねぇ!
まぁ、うれしいのは分かるけど…
ということで寝るのが遅くなってしまったのだが、今日はパッチリと目が覚めた。
一年に1回あるかないかの目覚め。
やはり、サエと映画に行くと意識しているからだろうか。
服も自分で選ぶと何か笑われそうなので、美穂に選んでもらった。
『お兄ちゃん、デートかぁ!』とニヤニヤしながら言われまくったが。
人から見ても多分、大丈夫な格好だろう…と思う。
こんなことを思うのもサエと映画に行くからなのか…?
そんな考えを振り払うために、俺はイヤホンを耳に押し込み音楽プレーヤーの電源を入れた。
駅について5分ほどしただろうか。
音楽を聴きながらサエを待っていると、ふいに目の前が真っ暗になった。
あわててイヤホンを耳からはずす。
「だ〜れだ?」
聞きなじみのある声が聞こえてきた。
「サエだろ?こんな古いことやるなよ…」
「えへへへ、気づいてなかったみたいだから…」
俺はそういって後ろを振り向く。
そこには私服のサエが立っていた。
そのとき、俺の体に電流が流れた。といっても過言ではない。
俺がこんなこと言うのも何なんだが、サエが可愛すぎる。
いつもは制服のサエしか見ていなかったので見慣れていなかったせいもあるけれど、マジで可愛い。
服がすごい似合っていて、何よりサエ自身が何かいつもと違う気がする。
そんな俺に気づいたのか、サエが「どうしたの?変だった?」と聞いてきた。
「いや、すごい似合っている。可愛い。」
俺がそういうと、サエは顔を真っ赤にして「バ、バカ!今日のために新しい服買ったんじゃないんだからね!」とかなんだか言った。
何か怒ったっぽい。どうすればいいか分からん。
「ちょ、ちょっと〜…」
「…でも、ケンも似合っていてカッコいいよ。」
サエはちらりとこっちを見ながら言う。
「…ありがと。」
不覚にも顔が赤くなってしまった。
しかし、センスはさすが美穂。帰ったら宿題でも見てやるか。
「さ、そろそろ行くか!早くしないと始まっちゃうぞ!」
「うん!」
俺らは映画館が入っているショッピングセンターへと歩いていった。
劇場に入ると、席はほぼ埋まっていて結構ギリギリだったようだ。
買ったポップコーンを2,3個つまんだところですぐに上映が始まった。
今日見る映画はサエの希望で、海外のラブストーリーの映画となった。
映画に特に興味や好き嫌いは無いので、とりあえず見る俺。
『エレン!エレン!』
『な、何よ!』
夜中まで起きてたバチがあたり、今すんごい眠い。
がんばって集中して最後まで見るか。
『待ってくれ!』
そういって映画の中の男のほうが女の手をつかんだ。
俺は俺とサエの席の間に置いてあるポップコーンに手を伸ばす。
その瞬間、俺の右手はポップコーンでないものを捕らえた。
何か生暖かいな… そう感じながらそこを見てみる。が、薄暗くて見えない。
とりあえず握ってみる。
すると、「ポップコーンでないもの」も握り返してきた。
ん?
もしかして…
サエの左手?
そう思った瞬間、なんだか恥ずかしくなって、すぐに手を引っ込めた。
サエも同じように思ったのか、同じタイミングで手を戻す。
それ以降、俺は映画に集中できなかった。勿論眠気も吹っ飛んだ。
残ったのは、右手にある感触だけ。
それから1時間20分ぐらいたって、映画が終わった。
もうすでにさっきの出来事は忘れている。
「よし、映画終わったけど…どっか行きたいところある?」
そういうと、サエは目を輝かせていった。
「うん!私に付き合ってくれる?」
「別に行きたいところないし、いいけど…」
と言った瞬間、サエに俺の右手をつかまれ引っ張られた。
「さ、行くわよ!」
「焦らなくても店はつぶれないって…」
といって引っ張られていたのは女の子に人気っぽい服を取り揃えている店だった。
中には女子高生っぽいのがいっぱい。
なので俺は店に入るのがためらわれた。
「なぁ…俺も、入んなきゃだめ?」
「当たり前でしょ!ほら、つべこべ言わない!」
とサエに引きずられて店内へ。
うわぁ、これホントに俺がいていいのか?というくらい女の子向けの店だった。
サエはそこでうれしそうに服を見始める。
俺はそれをちょっと離れてみていた。ここにいていいのかという不安とともに。
すると、後ろにいた店長らしき20代の女性が声をかけてきた。
「ほら彼氏さん、彼女の選んであげなきゃ!」
「いや、僕彼氏とかじゃ…」
「ケン?これどうかな?」
「ほら、彼女が呼んでるわよっ!」
「は、はぁ…」
大体俺は彼氏じゃないっつーの。と思いながらサエのほうへと行く。
というか他人から見るとカップルに見えるのか?
そう思うとなんだか恥ずかしくなってきた。
「ねぇ、これ似合う?」
「うん。」
「ホント?じゃあこれにする!」
といってサエはレジへと行ってしまった。
随分早いなぁ、そう思っているとさっきの店長がまたも話しかけてきた。
「ねぇ、何で彼女さんがすぐ買うの決めたか分かる?」
「いや、まったく。」正直に答える。
「彼氏さんが『似合う』って言ったからよ!フフ、いいカップルじゃない!」
といって店長はどっかいってしまった。
まぁ、確かに似合うとは言ったが… 店長、多分そうではないぞ。
しかも何だか俺のほう見てあそこの女子高生の集団がキャーキャー言ってる。
服のセンスでもマズかったか?ポップコーンでも口についてるか?
そう思ってると手に袋を持ったサエが戻ってきた。
「随分早かったな。」
「うん、じゃあ行こうか!」
サエは笑顔とともに店を飛び出した。
「あぁ。」
俺はその笑顔につられるがまま、ついていく。
その後俺らは、ファストフード店で飯を食って、サエのショッピング第二部に付き合い、
最後はゲームセンターに行った。
サエはむちゃくちゃガンシューティングが上手くて、200円で全クリしたのには驚いた。
「サ、サエ、すごいな…」
多分、見てたやつらも思ってるだろう。
「えへへ…家で秀と似たようなやつやってるからね。」
そしてサエが『欲しい!』と言ったヌイグルミがUFOキャッチャーの中にあったので、俺はサエがトイレに行っている間に頑張ってとろうとしてみた。
3回やってもちょっとしか動かない。俺はプロじゃないんだから…
次取れなかったらやめよう、そう思って挑んだ4回目。
アームは見事にヌイグルミを持ち上げる。
「いけ!そのまま!」
俺は気づかぬうちに叫んでいた。
ヌイグルミはぐらぐらゆれながら、アームにしっかりと捕まえられている。
「いけ!」
俺の願いが通じたのか、ヌイグルミはアームに捕らえられたまま、穴に落とされた。
「よっしゃ!」
ちょうどそのとき、サエが帰ってきた。
「ん、何してたの?」
「あぁ、さっき欲しいって言ってたヤツこれだろ?たまたま取れたから、サエにやるよ。」
「え、でも…」
「まぁまぁ、いいからもらっとけって。」
そういって俺はサエの手にヌイグルミを押し付ける。
「…ありがと。ケン!」
そういってサエは笑顔で俺の手を握った。
「うん、じゃ、いこっか。」
俺らは手をしっかり繋いだまま帰路につく。
俺の心は、サエの笑顔でいっぱいだった。
感想よろしくお願いします。