第四七話 (前半)
初めて1つのお話を前半後半に分けて投稿します。
まとめて書いてたらむっちゃ長くなったんで…
web拍手設置のアドバイスをいただいたんですけど、ちょっといま色々調べている最中なので設置はもう少し後になるかな~と思います。
それまではコメントいただけたら幸いです!
感想などよろしくお願いします。
真壁冴子視点です。
朝食の用意をしていると、寝室からケンが起きてきた。
今日は大事な試合だというのに、その姿からは緊張感がまったく感じられない。
まっ、それがケンらしいといえばケンらしいんだけどね。
「おはよっ、ケン。」
「おはよう、サエ。」
そのまま見ていると、パジャマ姿のままソファーに座って、二度寝をしようとしているみたいだ。
「う~ん、zzz…」
私は苦笑して、テーブルに朝食を置くとケンの隣に座った。
再び眠りに落ちる前に、起こさないとなかなか起きないからなぁ。
「お~い、副島健人さ~ん?」
「zzz…」
「今日は大事な大事な優勝がかかった試合の日じゃありませんか~?」
「zzz…そうだった!」
その瞬間、ケンの目がバッと見開かれる。
朝飯だ朝飯だ、と言いながらテーブルへと移動するケンを見て、いつも通りの幸せを感じる。
「サエ~?早く飯食おうぜ?」
「あっ、うん!」
ケンの向かいに座って、2人で朝食を食べる。
ケンはいつもの朝より、いつもの試合の日より張り切っている。私が言うんだから間違いないわ。
なぜかと言うと、答えは勿論サッカー。
今日は、ケンのチームのリーグ戦優勝がかかった一戦がホームであるのだ。
今日の相手は現在1位のチーム。ケンのチームとは勝ち点差が2ある。
つまり、ケンのチームが勝てば優勝だけども、引き分けか負けだと優勝を逃してしまうのだ。
ケンは大学を卒業し、チームに入団してからまだ2年目だけど、チームの主力として活躍している。
今は高校・大学のときにやっていたMFのポジションのトップ下で、攻撃のタクトを振るう『若き司令塔』として毎日がんばっている。
日本代表にも選ばれて、国際試合でプレーしたりもしたのだ。
そして活躍に比例するかのように、ニュースとかでもケンが取り上げられたりする回数が結構増えてきた。まっ、ケンのルックスの良さもあるんだけどね。
「ごちそうさまっ!シャワー浴びてくるっ!」
ケンはパンの最後の一切れを飲み込むとすぐに席を立ってシャワーを浴びに行った。
さっきも思ったけど、なんだかすごい張り切ってる。
私はそんなケンを見ていて、とっても頼もしく思えてきた。
ふとTVの星座占いに目をやると、私の星座が1位だった。
『今日は願い事がかなう日です!』
言うまでもなく願い事は、ケンのチームが勝って優勝すること。
そのとき私は、自分の星座の恋愛運がずば抜けてよかったことには気づいていなかった。
「よっしゃ、じゃ、行ってくる!」
「うん、気をつけてね!」
チームジャージを着たケンが玄関で靴を履いている。
ケンの近くには、サッカー用具が入ったバッグがいつものようにパンパンになってそこにある。
「そうだ、チケット渡したよな?3枚。」
「うん、緑君と真理っちと行くから、絶対活躍してよね!」
そう、今日は大事な一戦ということで、ケンから『見に来て欲しい』とチケットを渡されたのだ。
そしてケンの親友である緑君のところの2人も一緒に来て欲しい、とケンが電話すると、2つ返事でOKだった。
なので今日、私たち3人はケンの試合を見に行くのだ。
「もちろん。ハットトリック決めてやるよ。」
そこでケンは、「あ。」と間抜けな声を出して、はき終わったばかりの靴を再び脱ぎ始めた。
「どうしたの?」
「ちょ、ちょっと忘れ物してた。ここで待ってて。」
ケンは私にそういって、寝室へと戻った。口調がなんかいつもと違った気がしたけど、気にしない気にしない。
すぐに戻ってきたケンの手には、何もモノなど握られていなかった。
「あれ?忘れ物あったの?」
「あ、あぁ。あったあった。心配かけてゴメン。」
ケンは再び靴を履き、立ち上がる。
「じゃ、行ってくる。」
ケンは荷物を持ってそのまま外に出ようとした。
「あっ、ケン、ちょっと待って!」
「ん?」
ドアに手をかけたところで立ち止まったケンの唇に、軽くキスをする。
朝から私の頬が真っ赤になっているのは分かっているけど…
あぁ、恥ずかしいっ!
「え、えっと、ケンが活躍して優勝できるように、おまじないっ!」
「ありがと。ホントにハットトリック決められる気がしてきた。」
ケンはそう微笑んで、お返しといわんばかりに私の唇にキスをしてから、「じゃ。」と言って出かけてしまった。
なんだか、このやり取り、新婚さんみたいで恥ずかしい…!
あと少しすると、真理っち達が私を迎えに来てくれる。なので私は鏡で身支度の確認。
今日は緑君が運転する車でスタジアムまで行くのだ。
あ、そうそう、今年のはじめ、真理っちの姓が『坂上』から『緑』に変わったのだ。
つまり、2人は結婚した。
緑君は卒業と同時に私たちの母校の高校に社会科の先生として就職し、生徒たちに世界史を教える傍らサッカー部の顧問をしている。
緑君が教師だなんて意外だなぁ、とケンと話していたりもしたけど、きっと緑君なりにやりたいことがあるのだろう。
で、真理っちはそんな緑君の奥さんとして毎日幸せな生活を送ってるみたい。
たまにメールしたり電話するけど、いろんなところからラブラブな感じが伺える。
そして真理っちのお腹には、なんと新たな命がいるのだ。
まだ妊娠3ヶ月目くらいだが、やっぱり子供が生まれると分かったときは狂喜したみたい。
その証拠として、私たちが寝ていた深夜、変なテンションの緑君からケンに電話がかかってきたのは記憶に新しい。
そんな幸せな2人を考えながら、私の目はあるネックレスを捉えた。
2年前のクリスマス、ケンが私に『約束のネックレス』としてくれた、あのネックレス。
ケンが私と結婚したいと言ってくれた時はとっても嬉しかったし、私だってすぐにOKしたかったけど、ケンは『サエを一生幸せにできる自信がまだない』と言った。
だけども、『自信ができたら必ず迎えに行く』とも、言ってくれた。
そしてこのネックレスは、その言葉の約束としてケンに渡されたものだ。
ケンは、いまも約束を、覚えているのかな…?
私はあの日から、ずっと、ずっと待ってるよ。
そう伝えたいけど、その想いはそれ以来心の中にしまってある。
どうなんだろう、そんなことを思いながらネックレスを手に取って、眺めていると…
『冴っち~、迎えに来たよ~?』
インターホンの音の後に、スピーカーから懐かしい声がした。
「さて、と、行こっか。」
私は手に持ったネックレスを、一瞬箱にしまおうとしたけれども、やっぱり首につけて玄関へと向かった。
「さて、と、着いたぜ。」
緑君の一声で、駐車スペースに止まった車から降りる私たち。
『ケンの招待』ということで、一般の人は入れない特別な場所から車を入れ、特別な場所からスタジアムに入ることとなっている。
そんなシステムに、緑君と真理っちはビビりまくりだけど。
「ヤベッ、だんだんワクワクしてきた。」
「熱気がスゴくて飲み込まれちゃいそうだ!」
チケットの番号と一致する席を探しながら、私の後ろでは緑君と真理っちが2人で興奮して声をあげる。
ちなみに今日の席も、『チーム選手招待席』という特別な席なのだ。
この辺の席に座っている人は、皆選手の家族であったり友達であったり。
「あらっ、副島君の彼女さんじゃない?」
「あっ、どうも宮野下さん。」
声がした方向を向くと、そこには3歳くらいの男の子とそれを抱きかかえているお母さんがいた。
この人たちは 宮野下さんと言って、この2人はケンのチームメイトの奥さんと子供さんだ。
宮野下選手はチームのキャプテンで、DFとして活躍している選手だ。ケンと同じで日本代表にも選ばれている。確か、30歳くらいだったかな?
何で私たちと宮ノ下さんの一家が親しいかというと、外出先で会ったことがあるからだ。
ケンは元々入団当時から宮野下選手に可愛がられてたみたいで、よく家でも宮野下選手の話をしてくれたりしていたけど、私は去年の冬のクリスマスの日に初めて会った。
私とケンが『話題のおっきなクリスマスツリーを見に行こう』と、とあるショッピングセンターに行くと、ツリーの前で子供連れの家族がいたのだ。それが、宮野下一家だったというのはそれからすぐに分かった。
それ以来顔をあわせる機会にはお話したり、電話やメールだって少しだけどもしている。
プロサッカー選手の奥さんの大変さとかも、ちょっとだけど教えてくれたり。
今日も互いの近況を話して、『お互いに活躍して優勝できるといいですね』と話し終えて自分の席に戻ると、そこには私のことを尊敬のまなざしで見る緑君。
「スゲー、あの宮野下と知り合いなのかよ~。」
「まぁ、同じチームの先輩だしね。ケンと仲がいいみたい。」
マジかよ~、と感嘆の声をもらす緑君。
その横で、真理っちが私だけに聞こえる声で言った。
「朋樹、ホントは今日も部活があったんだけど、仮病使って休んだみたい。」
やっぱり、緑君はケンと同じでサッカーが大好きなんだなぁ。なんて当たり前のことを思ってしまった。
そしてもう一つ。高校生・大学生のときとは違う視線で、そんな緑君を見つめる真理っちにも気づいたのだった。
両チームのスターティングメンバーの選手がピッチに入ってくる。
ケンのチームの先頭には腕にキャプテンマークを巻いた背番号2の宮野下選手。
その後ろには同じ外国人DFのヤブロフスキ選手。背がおっきい。背番号は…5。
続いて中盤底のボランチをやってる川崎選手。背番号が…14だから、多分そうだ。
「って冴っち、パンフレット片手に怖い顔して入場シーン眺めなくたって…」
「うっ、誰が誰だか分かんないからちょっと勉強してただけだよ…」
私は再び選手たちに目を戻す。
そしてやっと、チームの一番最後に、ケンが出てきた。背番号は10。
「おっ、副島じゃん!」
「ホントだ~、冴っち、あそこだよ!」
「うん、見つけた!」
ケンに興奮する私たち3人。
普通なら周りから浮いて見えるけど、今日は優勝が懸かった大事な一戦ということもあって、私たちもスタジアムの熱気にいつの間にかのまれていた。
試合前の写真撮影をする際に、選手たちは私たちのほうに顔を向けるけど、そこで見たケンの顔は今日の朝からは想像もできないほど真剣で、精悍なものだった。
あんなケン、久しぶりに見たかも…
「あれ~?冴っち、副島に惚れ直した?」
「そっ、そんなことないってっ!」
図星。
真っ赤になった顔は、流石に熱気のせいにはできない…かぁ。
真理っちにしばらくイジられていると、急にスタジアム中が静かになった。
そして静寂の後、笛が鳴る。
『ピーッ!』
それと同時に、ケンがキックオフ。そしてすぐに、静寂を破る大歓声が耳に飛び込んできた。
「いけーっ!」「絶対優勝だ!」「頼むぞー!」
スタジアム中から応援の声が飛ぶ。
私の隣の隣、つまり真理っちの隣にいる緑君も叫んでいるけど、私は誰にも聞こえない小さな声で、「ケン」と祈った。
感想お願いします。
後半に続きます。