第四三話
テスト期間中にもかかわらず更新。赤点が見えてきました。なんだか楽しくなってきました。ヤバイです。
副島健人編です。
今日は珍しく、誰に起こされる前に目が覚めた。
朝から心臓がバクバクしている。
というのは、今日は第一志望の大学の合格発表の日なのだ。緊張しないやつがいるだろうか。
カーテンを開けて飛び込んでくる朝日でさえ敵に思えてきた。
私服に着替えて、リビングへと降りると家族も俺が早く起きるとは思っていなかったのであろう、驚いた表情を見せる。
「健人…早いな。」父親だ。
「自分で起きたの、何ヶ月ぶりかしらね…」母親の声。
「お兄ちゃん、何かあった?」美穂の声。
というか、みんなひどいだろ。
「何かあったって…今日は合格発表だよ、大学の。」
ソファーに座ってお気に入りのチャンネルにTV画面を合わせながらそう答える。
「知ってるぞ。」「知ってるわよ。」「知ってるって。」
…どうやらみんな、俺をからかっているみたいだ。
思えばあの学園祭以降、『死に物狂いで』勉強したといっても過言ではない。
塾には行かず学校で先生に教えてもらいながら、家ではサエに教えてもらいながら勉強に精を出した。
そりゃもう、これまで人生で勉強してきた時間をゆうに超えるのではないかというくらいの内容が充実した数ヶ月間。
その成果が、今日分かる。
だけど、俺の志望大学はもともと俺にとってはランクがひじょ~に上のところで。
学園祭前の模試ではそこに受かる気がしないというほどの偏差値をゲットしてしまった。
それから頑張って、最後の模試では受かるか受からないかというボーダーのラインまで何とか偏差値を上げたが…
ちなみに、サエも同じ大学を受けたが、サエはもともと頭が良いのでそこのボーダー偏差値なんか高3の春から上回っている。
もっと高い大学も狙えるんじゃないか、と思ったけれど、サエ曰く「わ、私はケンと一緒のところに行きたいの!」
その言葉を聞いたとき、勉強中だったけど、サエにすごいときめいて抱きしめたのを覚えている。
…っと、話がそれた。
とりあえず、俺は尋常じゃないくらい緊張しているのだ。
「お兄ちゃん、朝ごはんできてるよ。」
ちなみにこの美穂、既に高校受験を終えている。
美穂の第一志望の、俺とサエが通っている学校に見事合格したのだ。
ちなみに秀も同じ高校に合格だ。なんだか、俺とサエが歩んできたコースをそっくりそのままついてきているじゃないか。
「う~、緊張でモノが喉を通らない気が…」
俺はそんなことを言いながらも、ソファーから立ち上がって食卓へ移動。
まぁ、戦をするわけではないけれど、食べておくにこしたことはない。
…やっぱり緊張する。
何てプレッシャーに弱い男なのだろうか。
飯を食い、身だしなみを整えて一段落した9時過ぎ。
サエとサエの母親がやってきた。もちろん、一緒に合格発表を見に行くためだ。
「おっはよ~!」
「おぅ…」
対照的な俺とサエ。
サエはまぁ、成績面では問題なしだし、模試でもいつもいい成績だったから余裕そうだ。
対する俺。現実を直視するのが嫌になってきた。
「ケン、元気出さないと!」
「あぁ…」
俺の頭の中では、『サエだけ合格→俺落ちる』というネガティブ発想がループ中だ。
「落ちたらどうしよう…」
「大丈夫だって!あんなに勉強したでしょ!」
「でも他の受験生もあんなに勉強してるんだよな…」
「ケンは集中力が凄かったから!量より質だよ!」
俺のネガティブ言動をフォローするサエ。しかし、どれも響いてこない。
「だけど、俺なんて最後の模試でもボーダーラインだったしな…」
「ケンは本番に強いタイプじゃん!」
「いや、俺プレッシャーに弱いタイプだって…」
「そんなことないって!」
必死に俺のテンションを上げようとしてくれるサエ。
だけども、さっきから『俺だけ落ちる』というイメージが頭の中にあるのだ。
「大丈夫かな…」
「大丈夫だって!」
こんな調子で、俺とサエにそれぞれの母親の計4人で合格発表を見に出かけた。
後で分かったことだが、俺は行きの電車の中で「どうしよどうしよどうしよ…」とブツブツ呟いていたみたいだ。
完全に怪しい人だ。
電車よ止まれ、大規模事故で大学の周り封鎖されろ、誰か大学占拠して入れないようにしろ、などの数々の祈りもむなしく、気づけば大学にやってきていた。
俺らと同じような受験生が周りにはたくさん。
「ほら、元気出して!きっとあるって!」
サエと手を繋いでとぼとぼと大学構内へ歩いていく俺の姿は、知らない人が見たら『受験落ちたんだな』と思うだろう。
いや、まだ落ちたと決まったわけじゃないのだ。ウン、望みはある!
「よっしゃぁ!なんだか元気が出てきたぜ!」
「えっと、逆にちょっと…」
急激なテンションの変化にサエはついてこれなかったみたいで、こんな感じのリアクション。
それを見て、俺のテンションは再び急降下。株価で言えばバブル崩壊。短かったなぁ。
「あぁぁぁ…見に行きたくない…」
「ほら、いつまでウジウジしてんの!早く行くわよ!」
と、サエに強引に手を引っ張られてついに合格発表の掲示板が肉眼で確認できるところまで来てしまった。
俺とサエは違う学部を受験したのだが、何の縁だか、同日に合格発表なのだ。
ちなみに、俺は経済学部。サエは文学部。
白いボードの周りを人々が囲んでいて、時折「やった!」「よっしゃぁ!」といった歓声が所々から上がる。
それと対照的に、肩を落としながら俺とサエの横を帰っていく受験生もいるわけで。
数分後の俺はどっちなのだろう?圧倒的に後者のほうが…
イカンイカン。まだ落ちたと決まったわけじゃないんだ。ふぅ。
「ほら、行くわよ!」
「う…」
でもやっぱり見に行こうとすると、一歩が非常に重く感じられる。
そして踏み出すにつれて、鮮明になっていくボードと数字。
遂に、顔を上げると数字がバッチリ見えるというポジションまで前進してきてしまった。
落ち着け俺。今までどれだけ勉強してきたと思っているんだ。
ポケットから受験番号表を取り出し、最後の確認。
この数字はもう覚えるほど見た。
よし、顔を上げ―
「あ、あった!」
る前に、隣のサエが歓喜。
ちょ、ちょっと待ってよ…
このタイミング?もう俺はプレッシャーで押しつぶされそうだよ。
「やったよケン!合格だ!数字があったよ!」
急に笑顔でそう振り向かれて、「あ、あぁ、おめでと…」という返事しか出来ない。
「あれ、ケンは見てないの?」
「うっ…勇気が出なくて…」
正直に打ち明けると、サエは「大丈夫だって!」と俺を励ましてくれた。
…よし!自分を信じるしかない!
3の2の1で顔を上げよう。そう決意し、右手にしっかりと受験番号表、左手でサエの右手を握る。
3、2、1、…
目に飛び込んできたのはたくさんの数字。
まず、自分と近い番号を見つけなきゃ。
…あ、あれか。あれの下のほうだな…
…な、ない!?
と思ったらただ掲示板の下の辺に到達しただけのことだった。
くっ、紛らわしいフェイント使いやがって!
隣の行の、一番上の数字から捜索を再開。
………
……
…
「あ、あった!」
自分の目がうそを見ているんじゃないかと思って、目をこすってもう一度。
「あ、ある!」
夢じゃないことを確認しようと思って、頬をつねってもう一度。
「ま、まだある!合格だ!」
「ホント!?やったぁ!」
俺とサエはその場で抱き合う。不意にここは邪魔だと気づき、サエの手を引いて人だかりの一歩外へ。
ちょうどそこには俺らの母親が待っていた。
「やったぜ!合格だ!」「私も!」
俺らがそう伝えると、よかったじゃない!と喜ぶ母親たち。
俺は隣でニコニコしているサエを抱きしめる。
「合格だ!これで一緒に大学に通えるぞ!」
「うん!4年間、ずっと一緒だね!」
今手に入れた幸せを確認するため、そしてこれから4年間の幸せを確認するため、俺はサエを更に強く抱きしめて、キスをする。
「じゃ、手続きに行きましょ。」
父親や学校、緑や坂上に合格を報告し終えた後、俺の母親のそんな言葉で手続きをするため事務所へと向かう。
ちなみに緑と坂上はここではない大学を2人で受験し、2人とも合格したとのこと。
試験日などのせいで発表が昨日だったらしく、俺らにプレッシャーを与えないため言わないでおいてくれてたらしい。
今何をしているのかと聞いたら『そりゃ、デートに決まってるじゃん。』との声が返ってきた。
電話を切りどこに手続きの場所があるのかを探すと、さっきの掲示板の横に、『入学手続きはこちらです→』といった看板が立っていて、俺とサエはちょっとした優越感に浸りながらその方向へと歩く。
それから後は母親たちの出番だったので、俺らは後ろのほうで待機。
母親が手続きが終わって帰ってきたと思ったら、開口一番こんなことを言われた。
「じゃ、健人と冴子ちゃんでデートでも行ってくれば?」
「「デート?」」
「そうよ。あなたたち、勉強ばっかりでのびのびとデートしてなかったでしょ?冴子も健人君も、パーッと遊んできなさいよ!」
晩御飯も2人で食べてきなさい、という言葉も付け加えて。
俺とサエは返事をした後、手を繋いで大学構内を出る。
「いやぁ、それにしても受かってて良かったよ。」
「ね。ケンったら、朝はあんなにテンションが低かったのにね。」
「あぁ。あれが嘘みたいだ。」
ハハッ、と笑ってこれからどこへ行こうか相談しながら駅へと歩く。
今の俺なら、何でも出来そうだ!
感想などよろしくお願いいたします。
終了まであと4話!
次の更新はテストが終わったらになると思います。