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第四一話

お久しぶりです。だんだんと寒くなってきました。頑張って生存してます。

ちょっと長いですが、一気に読んでいただきたいので長めになりました。

ご了承ください。

副島健人視点です。

「まっ、みんな、お疲れでした!乾杯!」

「「「かんぱ~い!」」」

緑の音頭で手に持っていた紙コップを高々とかかげ、ジュースをぐぃっと飲み干す。

そしてその数秒後、部屋のあちらこちらから「ぷは~」という、疲労と達成感が混じった声が聞こえてくる。

「じゃ~、後は各自楽しんでね~!あ、帰るときは一声俺にかけてからにしろよ!勝手にいなくなって警察沙汰とか嫌だからな!」

緑が部屋中に聞こえるようにそう言うと、乾杯の後の静寂が一気に破られ、話し出す声でにぎやかになった。

「はぁ~、終わったな。」

隣に来た緑に気づいた俺は、紙コップの中のジュースをぐいっと飲み干して言う。

「あぁ。最後の学園祭なんだよな、考えてみれば。驚くほどあっという間だった。」

「そうだな…」

緑と2人で感慨に浸る。窓の外には夜の闇の中うっすらと見えるステージ。

それにしても、あっという間だった。

よく分からないうちに実行委員長になって、よく分からないままがむしゃらに仕事して、

よく分からないうちに学園祭を迎え、よく分からないまま終わった気がする。

なんだか、委員長になった春のあの日から猛ダッシュしてきた気分だ。それも、ノンストップで。

これで、終わりなのか…

「なぁ、終わりなんだな。俺ら。」

緑も同じことを思っていたのか、そう呟いた。

「あぁ…」

背中越しに聞こえるほかの委員たちのはしゃぐ声を聞くのも、これで最後だ。

そう思うと、ポッカリと心に穴が開くように思える。

「そういやぁ、どうするのさ?」

「ん、何が?」

緑の質問の意図が読めない。

「アレだよ、アレ。」

そういって緑は視線でどこかを指す。俺も視線をそこへ持って行くと…

サエがいた。

まぁ、坂上とか、仲のいい委員数人と一緒だけど。

その瞬間、俺の頭にさっきの動画―ベストカップル賞の出来事―がリバースされる。

抱き合った俺らは、次の瞬間には磁石のN極同士のように、すぐに離れた。

そしてそれから、なんだか気恥ずかしくて、会話をしてさえもいない。

「あんなことになったんだから、ちゃんと言ったほうがいいんじゃないの?」

「うん…というか、『あんなこと』にしたのは他でもない緑君じゃないか。」

「え?あ、そうだっけ?」

とぼけやがって。このヤロー。

「ん、まぁ、自分でどうにかすることだな。」

緑は俺のオーラの変化を敏感に察したのか、風のようにどこかへ去ってしまった。

あぁ、喉が渇いた。だけども紙コップの中身は空。

しょうがないので部屋の隅っこの机の上に置いてあるペットボトルをとりに行こうと部屋の端っこをそそくさと移動していると、なんだか中央で人だかりが出来ている。

中心近くには、やはりお祭り男、緑朋樹。

そして…ん?真ん中には…どうやら後輩の男子生徒が同級生の女子生徒になんか言っているみたいだ。

何言っているんだろう?

なんて思ったが、俺としては喉の渇きを癒すほうが優先だったので、チラッとその人だかりを見てから、どのジュースを飲もうかと選ぶ。

「はいっ!じゃあ、言っちゃって!」

ふたを開けた瞬間に、緑の声。聞き流す。

「え、えっと、俺、永山のこと、す、好きだ!」

手に持っていたペットボトルを落としそうになってしまった。公然と告白かよ。

「だ、だから、もし、よかったら、お、俺と、付き合ってください!」

そんな男子生徒の言葉が終わると、ギャラリーから『ヒュ~』といった冷やかしの声が。

ジュースを並々に注ぎ終わり、ふたを閉じながら告白の行方に心を奪われていたりして。

「…こ、こちらこそ、…」

少しの静寂の後、永山と呼ばれた女子生徒は小さい声でそういった。最後のほうは、ギャラリーの声で聞こえなかったのだが…

「おめでとう!やったな!」

他人の告白で躍動する男・緑が2人をそう祝福している。

…サエは、どんな思いで見ているのか…?

ふとそう思った俺は、紙コップを口につけてサエを探すと、さっきの仲間数人とこの騒ぎを少しはなれたところから見ていた。

その笑顔の底はどんな思いがあるのだろう?

人ごみに視線を戻した俺を、緑がチラッと見た気がした。

…はいはい、分かったよ。

緑に背中を押された俺は、サエにメールを打つ。

もちろん、気恥ずかしくて面と向かって喋れないからだ。


『ステージで、2人で話さないか?15分後。待ってる。』


時計を確認し、そう送信する。

隠れながらサエの行動を見ていると、すぐに携帯が鳴っていることに気づいたのか、胸ポケットから取り出して携帯を動かしている。

ピクッ、と一瞬サエが動いた気がした。

周りの友達に気づかれないように、伏目がちでキョロキョロと周りを見ている。

きっと、俺を探しているのだろう。

まだ気恥ずかしい俺はその視線から逃げるように人ごみの向こう側へと移動した。






『うん。私も、そう思ってた。』


15分後。

サエから15分前に届いたメールを見ながら、ステージに腰掛けてサエを待つ俺。

見上げてみれば、周りには明かりがないからこんなに美しく見えるのか、どこまでも広がりそうな星空。

そろそろ来るだろう。そして、そのときこそ、ちゃんと伝えなければ。

ふぅ、と深呼吸をし終わると同時に、聞きなじみのある声が聞こえてきた。

「ケン。」

隣に座るサエ。

さっき深呼吸したはずなのに、隣に座るだけで、俺の心臓が再び高鳴り始める。

なかなか目を見れない。

「よっ。」

動揺しているのを気づかれないように、短く、そう答える。

「…学園祭、終わったな。」

「…うん。」

何を話そう。なんて考えていたら、口からでたのは『学園祭』だった。

ええい、もうどうにでもなれ。

「なんか、あっという間だったな。」

「私も。もう本番終わったの?っていう感じかな。全然実感がないなぁ。」

どうやらサエも同じことを思ってたみたいだ。

「…成功、ってことでいいのか?」

「いいんじゃない?ケンがリーダーにしては、満点だよね。」

「おっ、俺がリーダーにしてって…」

「フフフ…」

可愛らしく笑うサエ。暗闇で、目でははっきりと表情は分からないけど、頭には浮かんでいるよ。その笑顔が。

「…ま、サエのおかげだよな。」

「ん?」

「だって、俺だけだったら、たぶん壊滅していたぞ?やっぱり側にサエがいたから、ここまで出来たんだと思う。ありがとな。」

「そ、そんな、私なんて…」

サエはこう謙遜しているが、俺は断言できる。サエがいなかったら、ここまで出来なかった。

サエがいたからこそ、俺に出来た学園祭だ。

だからきっと、知らず内に、俺の中でのサエが占める存在が大きくなっていったのだ。

そして…これが、恋だと、気づいたのかもしれない。

そんなことをしみじみと思いながら、隣のサエと同じように満天の星空を見上げる。

チラッ、と見たサエの横顔は、頬に微笑を浮かべていた。

…今、だよな?

「あのさ…」「えっと…」

俺が口を開くと、偶然にもサエも同じタイミングで言葉を発した。

目を見合わせる俺ら。

「あ、サエからどうぞ…」「いやいや、ケンから…」

サエは一体、何を話そうとしたんだろう?

何故だかそれがひっかかる。

こうしていてもどうしようもないので、意を決して俺から話すことにした。

サエが話そうとしたことなぞ、気にしてもいられない。

今から、人生初のことをしようとしているのだから。

…といっても、『人生初』だけあって、いざ本番となるとどうしていいか分からない。

さっき教室で見たあんな派手な告白は性に合わない。

「あー、えっと…」

普段でも口下手な俺は、何て伝えればいいんだろうか。

「俺らもう、高3だろ?だから、これが実質最後の『思い出作り』ってやつなんだよな、考えてみれば。」

「うん…」

サエも思うところがあったのか、そんな返事。

「でさ、俺としては正直軽い気持ちでこれに挑んだんだけど、一生懸命汗水たらして完成させるもので、思ってたより数倍もきつかったけどさ、思ってたより数倍も濃い思い出が出来たんだよなぁ。」

そういうと、頭の中にいろんなシーンがかわるがわる思い出される。

実行委員長に選ばれたこと。

委員会室に委員が勢ぞろいしてから、やっと実感がわいたこと。

サッカー部の練習となんとか調整をつけて、倒れると思うくらい頑張ったこと。

もちろん、今野さんと会ったのも今ではいい思い出、といってもいいかもしれない。

自ら各クラスを回って進行状況を確認したこと。

外の屋台もひとつひとつ丁寧に見回ったこと。

本番のスケジュールに穴が無いか何度も何度も考え直したこと。

そして、本番では3年間で1番充実した学園祭が楽しめたこと。

でもやっぱり、俺の中に、真っ先に思い浮かんできたのは…

「サエとの、思い出だ。」

「え…?」

いわれた当の本人・サエはキョトンとしたような返事を返す。

それに対し、俺の心臓はバクバク言っている。勿論、こんなことを、意識して女の子に言うのは初めてだ。

「サエと一緒に学園祭を作り上げたこととか、サッカーの応援に来てくれたこととか、サエの誕生日とか、2人で行った遊園地とか、勉強を教えてもらったこととか、サエが熱を出して家まで運んだこととか、全部が俺の中では大切な思い出なんだ。」

さっきと同じように、いろんな思い出が頭の中に浮かんでくる。

ただ違うのは一つ。どれも、サエがいるということ。

隣のサエは無言だ。俺の言葉が闇夜に消えていくのかという不安が、心を支配する。

「それで、俺、やっと分かったんだ。」

冷え込んできた外気とは対照的に、俺の頬は熱を帯び、心臓はこれ以上ないくらい心拍数を上げる。

ふぅ、と再び一呼吸して。


「俺、サエのことが好きなんだ。」


訪れる一瞬の静寂。

とうとう口に出してしまった。ただ、残ったのはなにかすっきりとしたもの。

今のままの関係じゃいられなくなるかも、なんて、そのときは全然考えられなかった。

「嘘…?」

静寂を破ったのはサエの声だった。未だに心臓は高鳴っている。

「嘘じゃないよ。幼馴染としてじゃない、一人の女の子として、サエが好きなんだ。」

幼馴染としてじゃない、一人の女の子として。

俺は心の中でその台詞をもう一回繰り返す。

再び訪れる静寂。

本人に言ってしまった、という恥ずかしさとこれをどう受け止められるか、という恐怖にも似た不安で俺はサエの顔を見ることが出来ない。

「…っと、まぁこんなことだ。悪いな、呼び出した上に勝手にこんな話して。」

サエからの返事が何もないことに少し落胆を覚えた俺は、ステージから立ち上がって言う。

「だけど、もしアレでも、今のままの関係でいてくれたら嬉しい。」

俺はそうとも付け加えた。

『アレ』とは、サエが俺の告白を拒否することだ。十分に考えうる。

拒否されても、今の幼馴染の状態でいてくれ。なんて、随分虫のいい話だ。俺のわがままなのかもしれないな。

やっと見ることが出来たサエの顔は、俯いていてどのような表情をしているのか分からなかった。

「んじゃ…「ちょっと待って。」

俺が去ろうとしたとき、サエが口を開いた。

「わ、私の話を聞かないで行くつもり?」

「え…?」

サエの声が心なしか震えているように感じる。

そういえば、サエも何か言いたそうだったな、なんてさっきのことを思い出した俺は、踏み出そうとしていた右足を元に戻す。

サエは俺の右足が元に戻ったのを見てから、ふぅと何かを決意したかのように息を吐いた。

「あのね、私も、ある男の子が好きになったんだ。」

「サエも…?」

「そう。その気持ちに気づいたのは私の誕生日の日だったの。『俺の隣にいるサエは昔のままだぜ。』って、そう言われたときに、初めて気づいた。」

あ、それって、俺が言ったことじゃないのか?

ちょ、ちょっと頭がこんがらがってきた。

「だけど私には、彼が私をどう思っているかなんて全然わからなかった。だから、もし想いを伝えて断られたときのことを考えると、なかなか一歩を踏み出せなかったの。

 それに、彼のことが好きな人がいたみたいだし。彼はその人とも普通に喋っていたりして、私はとっても不安だった。」

ちょ、ちょっと整理が必要だ。

サエには好きな男がいて、その男はサエの誕生日にあの台詞を言って、それで俺はサエの誕生日にあの台詞を言った覚えがあって…!?

え…!?

「だけどね、彼はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、いつも優しかった。いつも頼れた。隣にいるだけで、すごい安心したんだ。」

も、もしや、サエは…

いや、そういうことがあるのか…?

「学園祭の1日目のとき、『俺は、サエしか見てないぞ。』って言われて、とっても嬉しかった。」

ビックリしている俺をおいて、サエも立ち上がる。

ま、まさか、サエが好きなのって…


「私も、ケンのことが好きよ。」


サエの瞳と、俺の目が重なる。


そのままどれくらい見つめ合っていただろうか。

自然と、俺らの頬には笑みが浮かんでいた。

「なぁ、俺ら、気づくの遅かったんだな。」

「うん。あんなにちっちゃいころから一緒だったのにね。」

幼馴染。昔から一緒にいるのが当たり前。

俺とサエは知らず知らずのうちにそう思い込んでいて、相手に対する僅かな心情の変化に気づかなかったんだ。

照れくさくなった俺はちょっと下を向いて、再びサエのほうを向く。

「改めて、サエ、好きだ。」

「うん、私も。」

俺らの想いは、こんなにも簡単に、短い言葉で通じ合った。

自然に俺らの距離は狭くなっていく。

ステージの上っていうのは変わらないけど、もう一回、抱きしめよう。

ゆっくりと手をサエの背中にかける。

俺より一回り小さいサエを、俺だけのものにするように、抱きしめる。

手にかかるサエの綺麗なサラサラの髪からは女の子特有の甘い香り。

そんなサエの香りを感じた俺は、サエと同じタイミングで一旦離れ、再び見つめ合う。

「ねぇ。」

「ん?」

身長差のせいで、少し上目遣いのサエにドキドキしながら答える俺。

「私、キスしたことないんだ。」

「意外だな。サエならしたことあると思ってたのに。…とか言う俺も、したことないんだけどね。」

今ならサエが何を求めているかなんてたやすく分かる。

本能的に、サエの唇を見つめてしまう。

「私にとってのファーストキスなんだから、とびきり甘いのじゃないと嫌よ?」

「任せとけって。」

言葉はそれだけで十分だった。

俺はサエをしっかりと抱きしめて、自分のそれとサエのを近づけていく。

その距離が縮まると共に、更にドキドキする俺。

徐々に互いの吐息が感じられてくる。

あと、10センチ。

サエと初めて会ったのは何歳だったかな。2~3歳だったかな?

あと、5センチ。

確か、同じ時期に今の家に引っ越してきたんだよな。それで家も近いし、仲良くなったんだ。

サエが微笑んだ。

あと、3センチ。

子供のころは、日が暮れるまで2人で遊んだっけ。

サエが目をつぶった。

あと、1センチ。

小学生になっても、毎日一緒だったなぁ。

あと、5ミリ。

中学生のときも、俺の隣にはずっとサエがいた。

あと、1ミリ。

そして今も、これからも…















パァァン!

唇が重なり合う寸前のところで大きな破裂音。

ドキッとした俺らはすぐに離れる。

「や、やべ、タイミング早かったか!」

「朋樹、早すぎだって!なんで焦ってんの!」

「緑先輩!」「先輩!」

「す、すまん!」

近くの草むらからそんな声がしてきたら、嫌でもそこに誰がいるかは分かる。

それと同時に、急激に恥ずかしくなってきた。

「ち、ちくしょっ、もう出るしかないか!」

とうっ!という掛け声と共に、やはり緑が出てきた。

緑というのは分かっていたのだが、見られていたのかと思うと、なんだか恥ずかしくて。

「おぅおぅ副島君。」

緑に遅れて飛び出してきた坂上もいる。

「あらあらっ!」

その後ろには数人の後輩。

不意に校舎から視線を感じさっきまでいた部屋を見上げると、窓からは多数の人間が。

「お、おお、おおお前らっ!」「な、なな、なな何やってるのよ!」

俺とサエは動揺しまくっている。

「いやぁ、見てのとおり…ねぇ?」

俺とサエを交互に見ながらニヤッとする緑。そして同意を求めるように、後ろの委員たちに向かって意味ありげに目をやる。

顔が真っ赤になる俺とサエ。

恥ずかしい。こんなところを人に、あろうことか緑に見られていたなんて。

教室で見たあの告白より、よっぽど派手になってしまった。

「で?どこまでいったの~?」

坂上がニヤニヤしながらサエに近づく。

「ど、どこまでって…」

対するサエは真っ赤な顔を俯かせて恥ずかしそう。そして、そんな光景を見ている俺も恥ずかしい。

「「じゃ、ゆっくり聞かせてもらいましょうか~!?」」

「「に、逃げろ~!」」

緑と坂上の掛け声で委員たちが俺に襲い掛かる。

逃げようとサエの手をとって反対側をむいたが、すぐに追いつかれてしまった。

「こ、このっ、実行委員長に逆らう気か~…」

闇夜にむなしく消えていく、連行されるときの俺の声。










「いやぁ、さんざんにしぼられたな…」

「ね…」

緑主導の尋問を何とか交わし、暗い夜道を自転車を押しながら歩く俺。隣には、勿論サエ。

尋問の興奮が冷めてしまうと、サエを意識してしまう。

もう今は、彼氏彼女の関係なのだから。

お互い気恥ずかしいからか、無言のまま夜道を歩いていると、吸い込まれそうな暗闇で不意にあの夢を思い出した。

学園祭実行委員長になる日の夜に、見た夢を。

それは、どこで、何をかは分からないが2人の男女が向かい合って話している場面の夢だった。

確か、周りは暗闇だった気がするな…

そんなことを思い出したという話をサエにすると、サエは何故か嬉しそうに言った。

「それって、さっきの私たちじゃないの?」

「さっきの俺ら?」

「そう。ステージで話してたときの私たち。」

ほほぅ。言われてみればなんだかそう思えてきた。

ということは…夢は俺とサエがこうなることを予言していたということか?

「『正夢』になったみたいだな。」

「うんっ!」

サエはそういって、自転車と反対側の俺の腕にサエの腕を絡ませてきた。

一瞬で、夜の肌寒さが柔らかな温もりへと変わる。

俺とサエは顔を見合わせて、互いに幸せそうに、いや、幸せだと確信して微笑みあう。




「よしっ、サエの家に到着~。」

「到着~。」

他愛もない話をしながら歩いていると、あっという間にサエの家の前だ。

時が流れるのが早いと思うのは気のせいか?

俺は押していた自転車のスタンドを立てる。

「送ってくれてありがとう。」

あぁ、とサエに答えながら、俺は再びあることを思い出す。さっきとは違うことだが。

じゃあ、また明日。そんな挨拶を交わし玄関扉への階段を上っていくサエを呼び止める。

「お~い、忘れ物してるぞ~?」

「えっ!?」

慌ててバタバタと戻ってきた。

「わ、忘れ物って?」

俺を見上げるサエにニコッと微笑み、俺は唇を重ねる。

触れるだけのキス。

俺にとっても、サエにとっても、ファーストキス。

終わって顔を離すと、さっきまでキョトンとしていたサエの顔はちょっと赤みがかかっていた。

「ほら、さっき緑たちに邪魔されたろ?そのときの、忘れ物。」

「…忘れ物、よくわかんなかったな。」

「ん?」

サエは再び俺を見上げる。

「だからっ!忘れ物、もう少し長くないと、分かんないよ?」

悪戯そうに微笑むサエ。

「あぁ。」と俺は呟き、今度はサエを抱きしめてからキスをする。

「ん…」

色っぽいサエの声がしても、俺とサエはまだ唇を重ねたまま。

不意に俺らは離れて、また見つめ合う。

そして何も言わず、もう一回、重ね合わせる。さっきよりも、長めに。

俺はサエを触れている唇で、抱きしめている腕で、包み込んでいる胸で、全てで感じているんだ。

世界の時間という時間をとめて、サエとずっとこうしていたい…

「姉貴?」「お兄ちゃん?」

不意に横からそんな声がして、俺とサエは抱き合うのをやめ、唇を離す。

そこには、俺らの妹弟がいた。

「しゅ、秀!?」「み、美穂っ!」

2人は俺らのほうを見てなんだか意味ありげに笑っている。

「へぇ、姉貴と健人兄さんがそういう関係だったなんて知らなかったよ。」

「うん。いつからなの?」

キスシーンを見られた俺とサエは再び顔が真っ赤に。今日何度目だろうか。

じりじりと迫ってくる2人に対し、俺らは恥ずかしくて何も答えられない。

どうにかして、逃げたい…

「あっ。男だったら、女の子を家まで送るのが常識だよな?」

俺は質問に答えずに、秀にそういう。

「ま、まぁ、そうだけど…」

「ということで、美穂を家まで送ってきてな。頼んだぞ。」

俺は自転車にまたがり、逃げる用意。サエもそれを察したのか、家の階段を登る。

「あっ!ちょっと、待っ…「「じゃ~ね~!」」

秀の言葉をさえぎるように、俺とサエは同時にその場から逃走。

秀は美穂を徒歩で送ってくるだろうが、俺は自転車に乗っているので確実に家には早く着く。

美穂が家に着くまでに部屋に立てこもろう。そんなグレイトな作戦なのだ。

「サエ!また後で連絡する!」「うん!分かった!」

自転車に乗った俺は家に入ろうとするサエにそう叫ぶ。うしろからは、バタバタと走ってくる秀と美穂の足音が。

さっ、闇夜に逃げますか!

終盤の『夢』ですが、第一話とリンクさせたつもりです。

下手ですね…


さて、彼氏彼女にになったケンとサエです!

そして!残り後数話です(予定ですが)!最後まで応援よろしくお願いします!


感想などお待ちしております。

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