第三九話
テストとか知りません。テストとか気にしません。
テストより大事なものがあるんだ!
所詮、負け犬の遠吠えに過ぎませんが。
学園祭2日目編その2です。
副島健人視点です。
そのとき、俺が呼ばれたなんて分かんなかった。
坂上の発表を聞き流してステージから誰が出てくるのかな、なんて注目してると。
周りの奴らが俺のほうを向いているじゃないか。
特に一部は殺意のこもった視線だぞ。どうしてだ?
怖いから、それに気づかないふりをして。
「え?呼ばれたカップル、ステージから出てこなくないか?」
そう呟いたとき、マイクから緑の声が響く。
「ほらぁ、副島と真壁、照れてないで出て来いよ!」
「はぁ!?」
思わず立ち上がる。
「俺が出て来いって、どういうことなんだよ?」
「いや、だから、副島アンド真壁ペアがベストカップル賞なんだよ。」
はぁ!?と再び叫びたくなるのをぐっとこらえる。
というか、サエとのベストカップル賞が嫌なわけじゃない。まんざらでもないんだが。
だけど、俺はまずこれに出るって言った覚えはないし、今の俺とサエは『カップル』じゃないし。
もしこれでサエが気を悪くしたらどうしよう、とふと思って後ろを向くと、真っ赤な顔で目を見開いたサエが。
あぁ、やばそうだな。
「ちょっと待て。俺はエントリーした覚えは無いぞ。」
緑はそれを聞いても、平然と、何事も無かったように答える。
「うん。だって、俺がエントリーしておいたんだもん。」
「は、はぁ…?」
なんだか呆れてきた。
「ま、そんなことより、早く壇上に来いよ!」
気づけば『副島~』『いいなぁ~』『早く上がれ~』『俺に譲れ~』というような声が飛び交っている。
ここで行かないのも流石にアレなので、躊躇いがちに壇上へと進む。
サエも俺を見てか、ひょこっと後ろをついてきた。
「はい、改めまして、今年度ベストカップル賞、副島アンド真壁ペアです!」
恥ずかしさから、壇上に上がっても微妙な距離でいる俺とサエを紹介して坂上が言う。
『わぁ~!』『おめでと~!』『ひゅ~ひゅ~!』『副島くたばれ~!』『アツいぞ~!』『俺に譲れ~!』『お前はもう死んでいる~!』『いいなぁ~!』
称賛と罵声が混じった声が(主に俺に、絶対俺限定だけど)浴びせられる。
というか誰だよ、『副島くたばれ』っていったのは。
なんてことを考えるほど俺は落ち着いていたが、ふと隣のサエを見ると、そんな落ち着きもどっかいってしまった。
真っ赤な顔で、恥ずかしそうにしているサエ。
今すぐにでもギュッと抱きしめたいという衝動が俺のそこから湧き出てくる。
それにしても、サエは今どう思っているんだろう?
衝動を抑えながら思ったこと、それだけが気がかりだった。
「それでは、優勝者インタビューです!まずは冴っち!」
「わ、私!?」
坂上がサエにマイクを向ける。
「受賞したと決まったときの気持ちはどんな感じでしたか?」
ニコニコした坂上が楽しそうに聞く。
「え、えっと…」
もしかして『嫌』だったりとか?そしたらここにいる俺はなんなんだ?
空気を読んででもいいから『嬉しかったです』ぐらいのことを言ってくれよ?と変なところで冷静になっている俺。
しかしサエは、そんな俺の予想に反して、真っ赤になって、
「え、えっと、ケンと一緒で、とっても嬉しかったです…」
最後のほうは蚊の鳴くような小さい声だが、坂上のマイクで拾われて会場全員に聞こえた。
『うぉぉぉぉぉぉ~!』『ヒュ~ヒュ~!』『副島くたばれ~!』
サエの恥ずかしげな、可愛らしい仕草に会場の男は(俺も含めて)そんな姿にキュンとなる。
この言葉が本心なのかどうかは俺には判断しかねるが、そういってもらえて嬉しくならないわけが無い。
しかも、自分が恋をしている相手に言ってもらえたのだから。
というか誰だよ、さっきからどさくさに紛れて『副島くたばれ』と言っているヤツは。
「はい、ありがとうございました~!」
ニヤニヤした目で恥ずかしそうなサエを見ながら、マイクを俺に向ける坂上。
「では次に、副島っ!」
「は、はいっ!」
心の準備はしていたつもりだが、大人数の前で自分の名前を呼ばれて緊張してしまった。
そういや、1日目の朝礼のときもそうだったな、なんて関係ないことを思い出す。
「どうだった~?」
なんと抽象的な質問。
「ど、どうだったって…」
横目でサエをちらっと見ると、サエは真っ赤な顔をしながら俺のことを見ていた。
そして俺と視線があうと、慌てて視線を下に向ける。そんな感じだった。
「で、どうだった~?」
坂上がマイクをぐいっと近づけてくる。
俺はこういうところで嘘をつくのが極端に下手なので、嘘を言ってもすぐにばれてしまうだろう。
なら、サエの気持ちとか関係なく、本心を言うまでだ。
「う、嬉しいよ。しかも相手がサエだから…」
ゴクッ、と思わず唾を飲み込む。
「相手がサエだから、もっと嬉しい。」
みんなの視線とかいろいろ恥ずかしくて、少し下を向いて答える俺。
だけど、やっぱり声はマイクに拾われて。
『ひゅ~ひゅ~!』『いい感じだな~!』『副島覚悟ぉぉぉぉ!』『おアツいぞ~!』『斬ってやるぅ!』
一部殺意のこもった罵声を浴びせられたが、こんな声が客席から返ってきた。
「流石、ベストカップル賞ですね~?」
坂上がニヤニヤしながら俺とサエを交互に見る。
もう恥ずかしくて、サエと顔を合わせられない。
「じゃあ、ここでベストカップル賞の証でも見たくないですか?」
…は?
いや、それはまずいよね。
という俺の心の叫びとは反対に、客席からは『見たい~!』の声が。
いやいやいや、勘弁してくれよ。
恥ずかしくて火照り死にそうだ。
「皆さん見たいそうですよ~?」
坂上が再び、意味ありげな視線を俺らによこす。
どうしようかな~、そう思って客席を眺めていると、一部から『キスとかするんじゃね?』という話し声が。
マズイぞ。
それが周りに伝わったら、『キス』の大合唱になるかもしれん。
「キスするんだったら、2人だけのときがいいのに…」
サエとキスをしたくないわけじゃなくて、ここではそういうことはしたくないのだ。
別に俺はそれでもいいけど、もしサエが嫌だったらこれからサエの顔も見れない。
俺の呟きは海上の熱気のおかげもあってマイクに拾われず、風に流れていく。
ならば。
「サエ。」
俺はそう呟いて、体をサエのほうに向ける。
恥ずかしくて目を見ることが出来ない…
会場中がピタッと静まり、俺とサエの動きに注目し始めた。
遅れてサエも、恥ずかしそうに俺のほうに体を向ける。
サエの目線がしたからどんどん上がっていき、遂には俺の眼を捉える。
その瞳に、吸い込まれそうで。
しっかりとその瞳を見てから、俺は一歩を踏み出し、サエの背中に両手を回した。
「!!!」
サエが驚くのが分かる。
そんな俺らを見て、会場は熱狂の渦に。
『うぉぉぉぉぉ~っ!』『副島ぁぁぁぁっ!』『いいな~、真壁さん!』『ひゅ~ひゅ~!』
いろんな声が飛び交うのは分かるけど、何と言っているかまで気が回らない。
サエの温もりを全身に感じているから。
不意に、サエが俺の背中に両手を回した。
これはサエも、俺が抱きしめることをOKしてくれたサインかな。
ちょっと照れくさくなりながらも、さっきよりもギュッと、俺はサエを抱きしめる。
「サエ、今日の学園祭の打ち上げ中、この場所で2人で話したいんだ。」
後夜祭が始まる前、坂上の声で言えなかったことを、サエの耳元でささやく。
サエはそれを聞いて、俺だけにしかわかんないように、顔をコクンと小さく上下させた。
「ありがと。」
この時が、止まってしまえばいいのに。
愛しい人を腕の中に感じて、俺はそう思った。
ちょっと急いで書いたんでアレですが…いかがでしょうか?
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