第四話
副島健人視点 です。
ホームルームが終わったあと、俺はまだ大役を引き受けてしまったという責任感を感じられずにいた。
学級委員長からは、「今日の放課後 初の役員会ですよ!」といわれたが、
果たして皆、俺がトップでちゃんと動いてくれるのだろうか。ちゃんとした学園祭は出来上がるのだろうか。
心の中では期待よりも不安が先行していた。
ふと、サエはどうしているかと思ってそっちを見る。
見ると、多くの女子に囲まれて楽しそうに話していた。
「真壁さん、いつも副島君と一緒にいるんだから今回ぐらい譲ってよ〜!」
「も〜、真壁さんっ!」
なんで俺の名前が出るんだ?
「いや、当たりくじを引いちゃったし…それに、仕事って大変そうだよ?」
「副島君がいるからい〜のよっ!真壁さん、憎いなぁ!」
おいおい、俺がいたって仕事の戦力にはならないぞ。
そんな感じで会話を盗み聞きしていると、数学の先生が入ってきた。
さぁ、睡魔との勝負だ。
ばっちり寝て目がギンギンにさえた放課後。
俺ら学園祭の新役員は一室に集まって自己紹介、今後の活動などについて話し合った。
始まる前は不安だったが、和気藹々と会議も進みよかったと思う。
「ねぇケン、今『会議が明るく進んでよかった〜』とか思ってるでしょ?」
「あったり〜。ってかよく分かったな。」
「私が何年ケンの幼馴染やってきたと思うのよ?」
今、俺とサエは駅に向かっている。
朝思ったとおり、サエに何か奢ってやるためだ。
サエにその話をしたら、『もちろん!』と返ってきた。
「で、何か奢ってやるけど、何がいい?」
「う〜ん、アイスもいいし、クレープもいいし、カフェラテもいいし…」
そんな風に悩むサエの横顔を見て、俺はなんだか幸せな気分になった。
「でも、何でいきなり奢ってくれたりするの?」
「ん〜…まぁ、いつもいろいろと世話になってるからそのお礼と、これから学園祭の準備とかで世話になるから、よろしくなってことで。」
「そんなことだろうと思った。」
読まれてた。
「でも、ケンが初めて奢ってくれるって言ったんだし、楽しまないと!」
そう言って俺らは結局、「なんでもあるから」ということで評判のいい駅前の喫茶店に入った。
サエは「ケンのおごりだから」とか言って、いろんなものを頼んだ。
それを食べる姿を見て、また、俺はなんだか幸せな気分になった。
「…ん?どうしたの?何かついてる?」
そんな俺の視線に気づいたのか、サエが聞いてくる。
「いや、ただお前を見てただけだ。」
正直に答えると、
「バ、バカ!何なのよっ!」と顔を赤くしてケーキを食べ続けた。
そんなサエもサエらしい。
ただサエ、俺の財布の中身考えてくれよな?
で、俺らは駅から帰路についていた。
すると、前に俺らより小さい2人組の男女がいるのが分かった。
俺はその2人に心当たりがあったので、サエのほうを見る。
サエも同じことを考えているようだ。
というわけで、俺らはその2人に忍び寄った。
が、気づかれた。
「誰だ!」
その言葉とともに俺に竹刀が突きつけられる。
「俺だよ俺、健人。」
「あっ、健人兄さん!姉貴!」
「お兄ちゃん!と冴子お姉さん!」
こいつはサエの弟の真壁秀。中3、剣道部。剣道の腕は市内に敵なしといわれるほど強い。
で、隣にいるのが我が妹の美穂。
2人は俺らのような幼馴染で、同じ中学に通っている。
ただひとつだけ、俺らの関係とこいつらの関係で違うところがある。
付き合っているか。
それだけ。他は全くといっていいほど同じだ。
1年前から恋人という関係になったらしい。
秀から告白された日の夜の美穂のはしゃぎっぷりを、俺は今でも鮮明に覚えている。
「恋人同士の時間を邪魔して悪いわね〜!」
サエがいたずらっぽく、秀のほうを見ながら言う。
「う、うるせぇ!それより姉貴は、健人兄さんとはどうなんだよ!」
「なっ、どうもしないわよ!たださっきお茶しただけで…」
おいおい、俺が奢ったんだろ。
「へ〜。お二人で〜。」秀がニヤニヤしながら俺らのほうを見る。
んん、俺は奢っただけで、何も飲み食いしてないぞ。
と思ってサエを見ると、弟の首をしめてた。
「しゅ〜う〜!!!」
「わわわわ、ごめん姉ちゃん!」
あんなに剣道が強い秀でも、サエにはかなわないらしい。
おおこわっ。多分俺でも勝てないぞ。
そんなことを思ってもう一人の女子・美穂を見ると、
「お兄ちゃん。私は大丈夫だから。」と、俺の期待した答えを返してくれた。
良かった。家の中では何とか安全にすごせそうだ。
そんなことを思いながらサエ姉弟と俺ら兄妹は別れた。
また明日も、サエの笑顔が見れればいいな。
玄関で、そんなことを考えている俺がいたことに気づいた。