第三七話
ちょっと長いですかね?
学園祭一日目 副島健人編です。
遂にやってきた、学園祭1日目。
突き抜けるような青空。
俺らの集大成の披露にはなかなかのシチュエーションだ。
現在8時45分。生徒全員が体育館に集まっての朝礼。
「…ということで学園祭実行委員長と副委員長から話があります。」
まぁ、実行委員長という役柄、こういうときには一言言わないといけないんだよな。
と舞台袖で心の準備はしておいたが、イザ呼ばれると心臓がドキンとはねた。
…緊張しているのか?カッコ悪いなぁ。
「ケン。」
ん?と振り向くと、そこにはこれまで俺を支え続けてくれたサエ。
そして、学園祭中ぐらいには想いを伝えられればいいかなぁ、なんて思っている相手。
「緊張してるの?顔が引きつってるよ?」
「マ、マジか…」
ぐふっ。気づかれていた。情けない。
平常心を取り戻すために深呼吸をする。
「ケン、スマイルだよ、スマイル。」
そんな様子を見ていたサエが俺に向かって微笑む。
あぁ、この笑顔が俺の原動力なのかもしれないなぁ。そう思わせるほど、目の前の笑顔は輝いて見えた。
「あぁ。スマイル。」
気づけば俺も、自然に頬が緩んでいた。
よっしゃ、行きますか。
俺とサエは目を合わせて頷きあい、舞台へと足を踏み出した。
「おはようございます~。」
「パンフレットどうぞ~。」
ということで、学園祭1日目開始。空にはまぶしい太陽。
実行委員たちは各々の持ち場に移動して役割を果たす。
例えば、緑みたいなイベント班だったらイベントステージに移動して絶え間なく行われるイベントに出演したり、それを指揮したり。
例えば、広報班だったらパンフレットを配ったり何か出し物があるときは放送室からしゃべったり。
例えば、企画班だったら実行委員会主催で毎年行われる学校見学の引率や受験生の人たちからの質問を受け付けたり。
で、俺とかサエとか『オールラウンダー』(密かに自分でこう呼んでいる)、単純に言うと実行委員長・副実行委員長はどうするかというと…
「おはようございます~。」
俺は後輩に混じり、入り口でパンフレットを配っていた。
しかも、100円均一で買った安そうなたすきに『私が実行委員長』と書いたものを肩からかけている。
変なたすきをしているにもかかわらず、俺が配るパンフを取って行ってくれる人がそこそこいるのはありがたいことだ。変人にならなくてすむ。
ちなみに、サエはインフォメーションで道案内などをしている、と聞いている。
どうやら実行委員長・副委員長はいろんなところを回っていろんな仕事をするらしい。
この次は少し休憩を挟み受験質問コーナーへ行くのだ。まぁ俺に聞いても何も得るものはないと思うけどね。
「別にやるだけだったらいいよ?やるだけだったらいいんだけど、何で俺がこれつけなきゃなんないんだよ…」
「先輩、お客さんいるんですよ!?」
「あ、ゴメン…」
なんて愚痴ってたら後輩に怒られた。面目なし。
とりあえず悩んでいてもどうしようもないし、第一今は本番なのだから、目の前のことに集中するしかない。
「おはようございます~。パンフレットどうぞ~。」
「あ、もらいま~す。」
女子高生らしき軍団のうちの1人が俺が差し出したパンフレットを受け取った。
そういや、今野さんどうしているかな…
そんなことをボーっと考えていると、パンフレットを受け取った女の子と目が合った。
とりあえず、ニコッとしてみる。どうしようもないからね。
するとどうしたことか、その女の子は顔を真っ赤にして「ど、どもっ!」と言いながら走っていってしまった。
…また何かやっちまったか?本番なのに?
あちゃ~、と軽く凹んでいると後輩が話しかけてきた。
「いいじゃないですか、さっきの子、可愛かったですよ?」
「え?何が?」
「さっきの子ですよ。『ど、どもっ!』って。」
どうやらこの後輩はさっきのアレを見ていたらしい。自分では何かやった自覚がないんだがなぁ、逃げられると何かやっちまったと自分を疑いたくなる。
「ねぇ、何か俺マズイことした?」
思い切って聞いてみると…
「やっぱり副島先輩鈍感ですね…」と言われた。
くそ、鈍感で悪かったな。
「これだから真壁先輩も…」
「サエがどうかしたのか?」
『真壁』という言葉に思わず反応してしまう。
「い、いえっ!なんでもないですよ!あ、お客さんだ~。」
最後のほうが多少わざとらしく聞こえたのは気のせいだろうか。まぁ考えないでとりあえずやっちまおう。
「パンフレットどうぞ~。」
次に言った俺の言葉は自分でもなんだかむなしく聞こえた。青空に消えてしまいそうなくらい。
「いや~、疲れたな~。」
「同感~。」
パンフ配りと受験生から質問を受けるいう仕事を終え、本部のスタッフルームで机に寝そべりながらだらだらとくつろぐ俺。
サエもインフォメーションをずっとやっていたらしく、俺がそこを通りかかったときちょうどサエも終わりだったみたいで、一緒にここまで移動してだらだらしている。
このスタッフルームは外部の人が入ってくる心配はないのでこんなかんじでだべっていてもOKなのだ。
まぁ、今は昼時ということもあり、俺とサエ以外の奴らは仕事が詰まっているのか、急いで昼食を食べている。
「ケン~?」
「ん~?」
「お客さん、なかなか入ってるみたいだよ~?」
「そうか~。上々のスタートだな~。」
「そうだね~。」
窓の外からザワザワと聞こえてくる音は、人がそれなりに入っていることをあらわしているのだろう。
何はともあれ、多くのお客さんに来てもらうのはいいことだ。
ちなみに、ウチの学校はこの辺では一番レベルが高い学校で、県内を見ても5本指にははいる高校なのだ。
そんな高校に俺が受かったこと自体、奇跡に近いのだが。
なのでなかなかの人気校。それなりにお客さんはやって来るのだ。
「はぁ~…」
「ふぅ~…」
サエと2人でやわらかい昼下がりの太陽光を浴びながらまどろんでいると、ドアががらっと開いて誰かがやって来る音が聞こえた。
「副島先輩・真壁先輩、次の仕事ですよ~!!!!」
うぅ、と2人で唸りながらゆっくりと体を起こす。意外に太陽光がまぶしい。
次の仕事は飲食物販売だった。
各部活と生徒会ごとに高3が中心となって中庭で食べ物・飲み物を売るのだ。
ちなみに、我がサッカー部はワッフル。
緑が(自称)豊かな発想力で考えたキャッチコピーが校内いたるところにポスターとして貼ってあるが、
「メッシーもオイシーっていうほどのワッフル!」という駄洒落は正直スベッていると思う。
そんなハンデにもかかわらず、サッカー部のテントの前には大勢のお客さんが列を作っている。
緑のアレがなかったらもっと行っただろうなぁ、なんてことを歩きながら考えていると俺が働く場所に到着した。
俺が手伝うのは生徒会のわたあめ。
わたあめなんて今どき誰が買うんだよという俺の疑問は的中しているみたいで、サッカー部とは打って変わって列はおろかお客さんの姿さえない。
たまに来て買っていくのが数人いるということだが…
「ということで、ここの売り上げアップのために副島先輩を投入します。」
サエは同じく売り上げが微妙な水泳部のピラフを売るらしい。
「じゃあ、頑張ってください。」
「え、いつまで?」
「1日目の学園祭終了が4時ですから…3時までですね。ではよろしくお願いします。」
俺の反論も聞かずに、後輩は行ってしまった。
スケジュールを管理する総務班の2年生エースだけあって、人使いが荒い。
ま、これまで2年間、こういうことはやってなかったからやるのも面白そうだな。
生徒会テントには見知った顔の同級生がいっぱいいた。
「おう副島。じゃあ店頭で『わたあめどうですか~?』みたいな感じで呼び込みと受付頼むわ。」
「お前らは?」
「ん、まぁ副島が来たから忙しくなるからな。わたあめを作る要員は多けりゃ多いほどいい。」
このお客の少なさで何を根拠に、と口から出かけたが、なんとか飲み込む。
「わたあめいかがですか~?おいしいですよ~?」
こんな感じで呼びかけてみる。目の前に並んでいるお客さんさえいないから声を遮るものはなく、その辺一帯には届くはずだ。
すると、そいつの予言どおり、お客さんがどんどんやってきた。
それと連動して後ろの作るほうも忙しくなってきているのが音が慌ただしくなってきたのでわかる。
「わ、わたあめ1つください!」
「ありがとうございます。50円です。」
「わたあめ50円?じゃあみんなの分も合わせて4本お願い。」
「ありがとうございます。」
「わたあめっていくらですか?」
「50円ですね。」
「じゃあ2本もらえますか?」
「分かりました。」
…
少しして気づいた。
なんか、気のせいかもしれないけど、さっきから女子高生を筆頭に女の子しか相手にしてない気がするのは気のせいか?
「気のせいじゃないぞ。あとわたあめ1つ。」
「はい、50円です…って緑じゃないか。」
目の前には久しぶりの男子。イベント班責任者緑。
「お前、イベント班サボっていいのか?」
「今は高2高1のイベント班の出し物だからな。高3は束の間の休息。」
「は~い、じゃあ左の列に並んで待っててくださ~い。」
「は~い。」
ちくしょう、緑の野郎休憩中かよ。
というか、なんで『気のせいじゃないぞ』って言ったんだろう?
あいつに読心術があるとか?んなわけないない。気のせいだな。
「わたあめ1つください。」
「はい、50円になります。」
なんて考えていた緑の次のお客さんも、やはり女子高生だった。
なんなんだろ?コレ。
さっきとかは「メールアドレス交換しない?」とか言われたし、「暇になったら一緒に回ろうよ!」とも違う人に言われたし…
まぁ携帯はスタッフルームに忘れてきたみたいだし、暇になるのはとてつもなく先だからどっちも断ったけどね。
がむしゃらに仕事をしていると、時刻は気づけば3時。
「よっしゃ、副島ありがとな。」
「おう、お前らも頑張れよ。」
まだ列は続いているが、3時ということで俺はテントの後ろのほうへと下がる。
ふぅ疲れた、とイスに座る。なかなかハードな学園祭だな。
すると、後ろから聞きなれた声がした。
「副島健人さん?」
ゾクッ…
声はサエだけど、いつもの呼び方じゃない。なにか怒っていらっしゃるのだろう。
何もした覚えはないぞ、ホントに。
「な、なんでございましょうか…」
後ろを向くのが怖くて、前を向いたまま答える。
「少しここから見てたけど、わたあめの売り上げに貢献してたみたいだね?」
「そ、そのようでございますね…」
「と・く・に!女の子がいっぱい並んでいたよね?」
あぁ、俺も途中で思っていたけどね。サエも思っていたのか。
「実は、自分もそういう風に途中で思っていたんですよ…どうしたものかな、って。」
正直に答えると、返答がない。
「サ、サエさん?」
振り向くと、そこには立ったまま冷たい目線を俺に突き刺すサエがいた。
「…ふん!」
サエは俺に一瞥をくれてからどこかに歩いていってしまった。
やっちまった。怒らせた。何でか分からないけど。
「ちょ、ちょっと待てってサエ!」
人込みの中を行くサエを追いかける。俺の本能が追いかけろと言っているのだ。
人を避け、避け、追う。
「ありゃ、嫉妬だな。」
いつの間にか俺の隣でわたあめを持ちながら俺にくっついてきている緑が言った。
「うわぁっ!いつの間に!」
驚いている間にも、サエは校内へと入っていてしまった。
俺はそれを追い続ける。緑も俺についてくる。
「で、嫉妬ってどういうことだよ?」
「はぁ~、ここまで言っても分からないか、鈍感君は。」
緑の言い方にムカッとこないわけではないが、とりあえず今は緑から聞き出すほうが大事。
「つまり、真壁は副島がたくさんの女の子を相手にしていたことが気に食わないわけだ。」
緑は何か続けようとしたが、時計を見るなり…
「うわっ!あと3分で行かなきゃ!というわけで頑張れよ!じゃーね!」
と元気よくステージのほうへ走っていってしまった。
その後姿を見送りながら、遠くに見えるサエを追う。
これはどうやらスタッフルームへと行く道のりだ。
それにしてもサエが俺に嫉妬か…悪くないな。
そんなことを考えると自然とニヤけてしまう。端から見たら気持ち悪い男子高生だろう。
「サエ!」
ついにスタッフルーム手前で追いついた。
ドアを開けようとしたサエは俺の声でピタッと動きを止める。
きっ、とこっちを向いたかと思うと、
「次から次へと女の子の相手して、ニヤニヤして…」
暴言を吐いた。
「し、してないって!あれは仕事だぞ!」
「してたでしょ…!」
どうにもならない。信じてくれないみたいだ。
一瞬にして俺の頭の中に サエが怒る→明日も怒っている→もう破滅だぁぁっ! という図式が出来た。
「分かった分かった!じゃあ違うっていう証拠見せてやる!」
その言葉を聞いてキョトンとしているサエに近づいて、強引かと思うが手をとって握り締める。
自分でもなんでこんな言葉を言おうと思ったのか知らないが、次の瞬間、俺は口をサエの耳に近づけてこう呟いた。
「俺は、サエしか見てないぞ。」
その言葉を聞いたからか、俺が見ていても真っ赤になっていくサエ。きっと俺も同じようなものだろう。
サエの手をつかんだまま今来た廊下のほうへと歩き出そうとすると、サエが動かない。
赤くなったまま口をパクパクさせて固まっているようだ。
…可愛い。
いやいやいや、そうじゃなくて。
「お~い、サエ?」
「…ケ、ケンっ!」
はっ、と我に戻った様子のサエ。
じゃあ、行くか?と指で廊下の向こう側を指す。
「ケ、ケンが行きたいっていったんだからね!私はついていくだけだからねっ!」
サエは俺にそういうと、廊下を歩き出した。
繋いでいる手に引っ張られるようにして俺も歩き出す。
階段を下りるときに見えたサエの横顔は、すごい嬉しそうだったのは俺の見間違いか?
窓から差し込んでくる太陽がまぶしかったから、よく見えなかったけど。
サエが嬉しそうに人込みの中を手を繋いだまま突っ切っていったおかげで、
1日目の学園祭終了後にいろんなやつから冷やかされたのはいうまでもない。
まぁ、別に嫌じゃないんだけどね。
そして明日は2日目。
俺は後呂にサエを乗せながら帰りに自転車をこいでいるときに決意した。
明日、想いを伝えよう、と。
ちょっと長いかも…と改めて思っちゃったりしました。
分けるのもなんだかアレだったんでいっぺんに。
感想などよろしくお願いします。