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第三六話

寒くなってきましたね~。

私はなんとか生きてます。ペースあげます。


学園祭前日の真壁冴子編です。

最近、ケンの雰囲気が変わった。

といっても、悪いほうにじゃなくて、何かが吹っ切れたというような感じ。

以前よりもエネルギッシュな感じがして、決断に迷いがなくなった、とでも言うのかな?

気のせいかもしれないけど。

…なんてことを思いながら、実行委員会室の窓から外を覗く。

外ではイベント班や運動部がテントやステージを設営している。

今の時間は午後2時過ぎ。

学校中、いよいよ明日に迫った学園祭の準備をしている最中だ。

「パンフの部数は大丈夫?」

「ねぇ、イベントのスケジュールの最終版、俺に提出するよう緑に言っといて!」

「ゴミ箱の設置場所?よし、あの辺に置いとこう。」

ふと後ろをを見ると、机に座って矢継ぎ早に指示を出すケン。

その姿は就任当時とは全然違う、まぎれもない『実行委員長』。

そんなケンを見ていると、なんだか、私の知らない遠くにいる感じがする。

「おおっ、冴っち~!」

「んん、真理っち~!!」

後ろから真理っちの声がしたので振り向く。

今朝会ったはずなのに、準備が忙しすぎたからか、久しぶりに会った気がするのは気のせいかな?

「あれ?イベント班の仕事は?」

「してるよ~?ここに書類を取りに来たんだもん。」

真理っちはそういって右手に持っている数枚の書類を見せる。

ほぉ、と覗き込む私。

「これから下に戻るの?」

「うん、まだイベント班は結構やることがあるからね。」

「じゃ、私も行っちゃおうかな?」

と言ったのには理由がある。

まぁ、外の空気を吸いたいとかいうのもない訳じゃないんだけど、それが一番の理由かといわれるとそれは違う。

ま、まぁ、自分で言うのは恥ずかしいんだけど…

その…ケ、ケンの事を相談しようというかなんというか…

「サエ、下行くのか?」

「ひゃぁっ!」

なんて考えていたら急にケンに呼びかけられたから変な声を上げてしまった。

「い、いや、なんでもないわよ?」

「ふーん…」

ケンは私と隣の真理っちを交互に見渡す。

「サエ、下行くならついでに緑に上に戻ってくるように言っといてくれ。10分もかからないぞ、とも頼んだぞ。」

「りょーかい!」

敬礼のポーズをする私に、微笑むケン。

そんな笑顔にドキッとする私。

頬が紅潮するのを悟られないように慌てて後ろを向いて教室を出る。

「あっ、2人ともサボるなよ~!」

真理っちが出てくると同時に、中からそんなケンの声。

「サボるわけないっつーの。」

真理っちが私だけに聞こえるような声でそう呟く。

廊下は準備のためだろう、生徒が駆け回っている。

「じゃ、行こっか!」



「そういや冴っち、どうするのさ?」

向こうから走ってくる生徒を左によけながら、真理っちは私に聞いてきた。

「何を?」

「副島のこと。」

ビクッ。心臓が跳ねるのが分かる。

だって、私はそのことを相談するため、教室を抜け出したんだから。

「学園祭終わったらもう受験だよ?このときぐらいしか、告白のチャンスはないって!」

真理っちが説得するように私に話してくる。

『告白』。相手に想いを伝えること。

されたことは高校に入ってからもあるけれど、したことは小学校の頃から1度もない。

きっと、いつも隣にケンがいたから、それで満たされてたんだろうと思う。

高校に入ってからもそう。

誰かに告白されても、『彼氏がほしい』なんて思ったことは一度もなかったし、それこそ男子を好きになるなんてことさえなかったから、毎回断った。

それも、きっとケンがいたから。

「そうなんだけど…」

「だけど?」

正直、怖いのだ。

もしもケンに断られたときを考えると。

そのときは、今の『幼馴染』っていう関係さえ危なくなって、いつものようにケンを起こしにいくどころか、喋れなくなるんじゃないかとも思っている。

そうやって失敗したときを考えると、今のままがいいんじゃないかって、思ったりもするんだ。

いつものようにケンを起こしに行って、自転車の2人乗りで学校まで来て、ノートを見せて、ふざけあって、

お昼ごはんを一緒に食べて、帰りもケンにつかまって自転車で、家の前でおろしてもらう。そんな今が。

「怖いの。もしフラれて、今の関係じゃなくなるのが。」

真理っちに正直に打ち明けた。

「そっかぁ…」

自分のつたない言葉で表現したけど、伝わったのかな?

私たちの間には静寂。

気づけばもう、下駄箱まで来ていた。

昇降口からは昼下がりの心地よい光が差し込んでいる。

「でもさぁ。」

外に出るため革靴に履き替えたところで、真理っちが言った。

「冴っちの、そんな心配は、きっと無用だよ?」

「え?凄い真剣に悩んでいるんだけど…」

拍子抜けするような真理っちの答え。

「大丈夫。冴っちより恋愛には敏感だって、自負しているからね。」

「ま、まぁ…」

と、少しうろたえる私を横目に、真理っちは走って昇降口を出て行ってしまった。

それにしても、何を根拠に『無用』といえるのだろう…?

確かに私は恋愛などに鈍感だけど…



「おぉ、真壁。」

「あ、緑君。」

ボーっと歩いていると、全然人の気配に気づかなかった私はあとすこしで緑君に追突しそうなところまで来ていた。

「えっと、ケンが上まで来いだって。10分かからないらしいよ?」

「副島が?なんか俺ミスったっけなぁ…まぁいいや、行ってみるよ。サンキュー。」

緑君はそういうと後輩たちにテキパキと指示を出して、昇降口へと駆けていった。

なんか、学園祭目前になると男子がいつもより頼りがいがあるように見えるのは気のせい…?

頭にケンを思い浮かべながらそんなことを思った。





イベント班の女子がやっていた装飾を30分ぐらい手伝って、教室に戻ろうと歩いていると、向こうからケンが来た。

「おぅ、遅かったじゃないか。」

「真理っちの手伝いをしてたからね。それより、そっちはどう?」

嘘ではない。

「あぁ、実は今から高1のクラス企画回らないといけないんだよね…」

ケンが嘆く。今いる場所から高1の教室は多少距離があって行くのが面倒くさいのだ。

「なら、私も…」

「あぁ、外を手伝って体動かしてきたんだろ?だったら次は教室で書類と格闘しててくれ。」

ケンはそういって腕をぐるぐると回してみせる。

きっと、私のことを気遣って休ませようとしてくれるのだろう。

「やっぱり俺は、書類は苦手だな。フィールドワークというか、走り回るほうが性に合っている気がする。」

ケンはそう言うと私の肩をポンと叩き、私が今来たほうへと歩いていった。

私の心はケンの優しさを感じている。

「ケン!」

思わず呼び止めてしまう。

曲がり角を曲がったケンが、ひょこっと壁から顔を出してくる。

「えっと…頑張ってね。」

ケンは私の声が聞こえたのか、ニコッと笑うと顔を引っ込めて歩いていってしまった。

ほら今も、私の胸が高鳴っている。





実行委員室は数人の委員しか残っていなかった。

ここに残っているのはいわば『司令塔』的役割を果たすためで、いろんな場所で作業をしている各部署・各個人に携帯や無線で指示を出すのだ。

私はいつもの、ケンの隣の席に座る。

筆箱からお気に入りのシャープペンシルを取り出して目の前の書類を手に取ったところで、あるものが目に入った。

ケンの携帯。

どうやら忘れていったようだ。

それをぼーっと眺めていると、不意にそれが光りだした。

挙句の果てには着信音まで鳴り始める。

とりあえず、音が皆の邪魔になるかもしれないし消そう。

ケンの携帯を手にとって開くと、画面には『着信 緑朋樹』と表示されている。

ケン、大丈夫かな?

やっぱりケンはケンだった。なんて変なことを考えながら、ボタンを押して着信を勝手に切る。

『着信を終了しました。』

画面にはそんな表示が。

これでOKかな。そう思って、携帯を閉じようとすると、画面が変わって待ち受け画面となった。


ふーん、誰か笑顔の女の子の画像が待ち受けだー。

それが私が抱いた最初の感情。

だけど、よくよく見ると、この浴衣を着ている女の子、どこかで見た気がする。

そしてその女の子が誰かということに、気づくのはそう遅くはなかった。

もしかして…わ、私!?

「~~~~!」

私は声にならない声を上げる。

急に心臓が高鳴り、頬が真っ赤になっていくのが分かる。

慌てて周りを見てみるが、誰も私のそんな様子に気づくことなく、黙々と仕事をこなしている。

きっと、夏休みの終わりに一緒に行った花火大会のときに撮ったのだろう。

ケ、ケンったら…

なんだか恥ずかしいような、だけど嬉しいような…


そのときだった。

ガラガラと音を立てて、ドアからケンが入ってきたのは。

慌てて携帯を閉じ、元の位置に戻して平静を装う。

「あれ~?携帯忘れたらしいんだけど…お、あった。」

ケンは私が見ていたことに気づいてないみたいだ。よかった。

「ケ、ケン。急に、も、戻ってきて、どうした、の?」

動揺している私。変な喋り方になっちゃう。

「あぁ。携帯を忘れているぞって指摘されて…」

ケンは自分の携帯をヒョイっと取り、開く。

「べ、別に画面とか見ていないんだからね!あと電話が来てたよ!画面なんて絶対見てないんだからね!」

「あ、あぁ…」

ケンはよく分からないといったような顔をして、携帯をいじりながら再び部屋を出て行った。

ふぅ…

ちょっと落ち着こう…

それにしても、何で私の画像がケンの携帯の待ち受けに…?

恥ずかしいと感じるけれど、どこかで嬉しいと思っている私がいるのは事実。

だって、好きな人の携帯の待ち受けが私なんだもん。

ケンは私のこと、どう思っているんだろう…

にしても、ケンの待ち受けが私…

思わず、机に顔をうずめてバタバタしたくなってきた。




その後の仕事が手につかず、ケンにやってもらったのはいうまでもない。





そして、私は、学園祭を迎える。

次から学園祭編。

学園祭編は数話に分けるので結構長いかもしれませんが、お付き合いよろしくお願いします。

感想など、随時お待ちしております。

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