第三五話
なかなか暇を見つけられなくて…すいません。
もうちょい努力します。
副島健人視点 です。
「ここで、話しません?」
そういって俺が連れてきたのは駅から徒歩10分もかからない、広い公園の丘の上のベンチ。
丘の下の芝生では小学生らしき男の子がサッカーをしている。
あぁ、最近ボールに触ってないなぁ、と思いながら腰掛ける俺。
その隣に、今野さんもちょこんと腰掛けた。
ここは密かな俺のお気に入りスポットで、今日みたいに夕焼けが綺麗に見える日などは絶好の場所だ。
そしてなんだか、この場所は俺に勇気を与えてくれる気がしたんだ。
だから、ここに来た。
…のはいいのだが、何をしゃべればいいのか分からない。
「夕焼け…」
不意に今野さんがしゃべる。
「え?」
「夕焼け、綺麗ですね。」
そういって微笑む彼女の笑顔を見ていると、どこかで今野さんに惹かれている自分がいるのではないかと疑ってしまう。
だけど、もう俺の心は決まっている。
そのために、学園祭の仕事を抜け出してまで、ここに来たんじゃないか。
「…えぇ。特に、今日は。」
俺も夕焼けに視線をやる。
憎らしいほど、綺麗なオレンジ色を放つ太陽。
そんな太陽と彼女を交互に見て俺は思う。そろそろ、話をしよう。
ふぅ、と小さく呼吸を整える。
もう、戻れないんだ。俺の心は、決まっているんだ。
そんなことを思って一言目をしゃべろうとすると、サエの笑顔が心に浮かんだ。
そうだよ。俺はその笑顔に惹かれたんだ。目の前の彼女の笑顔じゃない。幼馴染の笑顔に惹かれたんだ。
どうして気づかなかったんだろう。こんなにも間近にサエはいたのに。
そこで思った。太陽みたいなものなんじゃないかって。
太陽は毎日昇って毎日俺らを照らして毎日沈んでゆく。俺らにとってはそれが当たり前で。
だから、じっくり見ないんだ。今日みたいにじっくり見ると、その美しさが、綺麗さが分かってくる。
サエもだ。毎日一緒に登校して、毎日一緒の学校で過ごして、毎日一緒に下校する。
俺はそんなサエとの日常を『当たり前』と認識していたんだ。
だけど、サエへの想いに気づいたときから、些細なことでも胸が高鳴るんだ。
サエの優しさ、可愛さ、美しさに。
「今野さん。」
心を決めた俺は、彼女の顔を見据えた。
「…はい。」
彼女もこれから何が起こるかわかっているようで、その顔に笑みは無かった。
「俺の中で、やっと答えが出ました。あの日の答えが。」
「…ええ。」
目の前の、真剣な顔をした彼女は何を考えているんだろうか。
なんてことを『あの日』も思ったなぁ、と思い出す。
「私にお気遣い無く、健人さんの答えを聞かせてください。」
どうやら彼女も覚悟は決まっているようだ。
じゃなきゃ、俺と会いはしないだろう。
コクリ、とうなずく俺。
「すいません。俺、今野さんの気持ちは嬉しいんですが、応えることはできません。」
「…」
秋風が俺らの間を吹きぬける。夏だと思っていたのに、既に風は秋の匂いを運んできた。
彼女はゆっくりと下を向く。
俺は視線をそんな彼女に定めたまま。
「あの後、自分なりに考えたんです。これは悩みに悩んだ俺の答えなんです。ごめんなさい。」
その言葉を聞いて、今野さんは顔を上げる。
「…あの幼馴染さんですか?」
「へ?」
いきなり何を聞くんだ?
「健人さんが好きなのは、副委員長の幼馴染さんですか?」
そう聞いてくる彼女の顔は、俺が想像していた悲しげな顔ではなく、何故だか笑顔だった。
「…ええ。」
少し恥ずかしいので、下を向いて答える。
なんだかサエの笑顔が浮かんできたじゃないか。
「…そうですか。なら、健人さんのこと、諦めがつきます。」
「え?どういうことです?」
下を向いた顔が思わず上がってしまった。
というか、ほんとにどういうことなんだ?
「私、幼馴染さんと2回しか会ったことないんです。しかも、そのうち1回は遠目から見ただけです。」
そういやそうかもしれないな。
1回目は確かドーナツをサエにおごったとき。偶然トイレで会ったんだった。
2回目は彼女たちの学校の学園祭実行委員が俺らの学校に来たとき。多分、そのとき話したんだろう。
「はぁ…」
全く話の流れが読めない。
だから、気の抜けた返事になってしまった。
彼女はそれにクスッと笑い、話を続ける。
「だけど、なんだか幼馴染さんには勝てないな、って思ったんです。」
「勝てない?どういうことです?」
何かゲームでもして勝敗を決めるのだろうか。確かに、サエはボードゲームは強いからな。
そんなことを考えていることを知ってか知らずか、彼女はクスッと再び笑った。
「健人さん、鈍感ですね。」
「鈍感…ですかぁ。はぁ…」
全く思い当たる節はない。ウン、ない。
「私がいくら健人さんを想っても、幼馴染さんが健人さんを想う気持ちには全然勝てないんです。」
「はぁ…?」
ちょっと、どういうことだか分からない。
「全然分からないんですけど…」
正直に言ってみた。
今野さんはまたまたクスッと笑って、こういった。
「大丈夫です。きっと、そのうち分かりますから。」
「何で分かるんです?」
不意に彼女はベンチから立ち上がり、夕日を見る。
「女の勘、っていうものですかね?」
今野さんはそういうと、ベンチに座って呆然としている俺に頭を下げ丘をくだって行った。
俺は何もできず、ベンチに座ったまま。
不意にあの日の別れ際を思い出す。
もし俺が、あの時彼女を抱きしめないで、今みたいに呆然としていたら、未来は変わっていたのだろうか?
なんで俺は、彼女を抱きしめてしまったんだろうか?
そんなモヤモヤをどこかへ吹っ飛ばすかのような、今野さんの言葉。
『なら、健人さんのこと、諦めがつきます。』
この言葉を思い出して、あの日から今まで続いていた何かが終わったんだな、そんな気がした。
♪〜
携帯が鳴る。今野さんからのメールだ。
『これからも、友達でいてくれますか?』
俺はフッと微笑むと、すぐに返信をした。
『もちろんです。』
時間を確認すると、学校に戻るには遅すぎる時間。
なら、自転車が置いてあることだし、駅までゆっくり帰りますか。
俺はベンチから腰を上げた。
変わっていないはずの夕焼けがさっきより鮮明に見えたのは気のせいだろうか。
そしてさっきのメール、今野さんが涙を流しながら打った文面だとは今の俺には思いもよらなかった。
本屋やファストフード店に寄り道しながら駅に戻ると、帰宅ラッシュの時間帯になってしまったのか、改札から多くのサラリーマンや学生が出てきた。
そんな人ごみを抜けながら自分の自転車を探す。
あったあった、と思って駆け寄ると、そこには誰かが立っていた。
「サエ?」
振り向いたのは、やはりサエだった。
「ケン!遅かったじゃないの!」
「い、いやぁ、緑に頼まれたヤツが何故かしらどこにも無くてな。結局見つかんなかったんだが、こんな時間になっちまった。」
と言い訳。サエには真実を話せないよ。
というか、この作戦、こうやって追及されたときのことまで考えて無かったよな。
そんな緑を少し、うらんでみた。
「だからって!実行委員長がこの忙しい時期に1日消えていいと思ってるの!?」
ヤバイ、結構怒られてるぞ。
幸い帰宅ラッシュ時なので、俺らに足を止める人はいないが、公衆の面前で普通に怒られているのは恥ずかしい。
「す、すいません…」
「もうっ!」
プンッ、と後ろを向いたサエ。
その姿がなんだか可愛くて、俺の胸がドキドキと高鳴り始めた。
「今度なんかおごるから、今日はもう帰ろうぜ?な?」
チラッ、と俺の姿を見たサエの手を強引につかみ、自転車に乗せる。
「ちょ、ちょっと、ケン!」
「さっ、帰るか!」
自転車を走らせる俺。
後ろでは、「も、もうっ」とか言いながらも俺の背中にギュッと抱きついているサエを感じる。
そんな幼馴染に再び胸が高鳴る。
自転車に乗っていて感じる秋の風は、俺ら2人を包み込むような優しい風だった。
感想などよろしくおねがいします。