第三四話
ペースなかなか上がりませんね…がんばります。
まぁ、最近はなかなか忙しいんで…というのも言い訳。
感想ありがとうございます。この場で失礼ですがお礼を申し上げたいと思います。執筆の励みとさせていただいてます。
副島健人視点です。
『お久しぶりです。
近々時間があったら、少し話をしませんか?』
結局文章はコレに落ち着いた。
シンプル イズ ベストだかなんだか言うじゃないか。
そう、これは今野さんに送るメール。
彼女の告白に対し、俺はまだ返事をしていなかった。
メールで『ごめんなさい』と伝えることもできるが、俺の性格的にそれはしたくない。
会って話すのが筋だと考えている。
「送信、っと…」
久しぶりに今野さんに送るメール。
少し前まではあれほどしていたのに。あの日以来のメールだろうか。
少し前までは文面には絵文字が入っていたのに。もうそれを使う気にはなれない。
部屋の窓からは月が見える。
ひどく儚げに、静かに光を放つ月。
そんな月を少し眺めてから、俺は机に開いたままの問題集に再び没頭し始めた。
『ええ、いいですよ。
3日後の午後5時、○○駅で会いましょう。』
時は流れて3日後―つまり、今野さんと会う日。
なんとなく空の下に出たくなった俺は、昼休みに弁当を食べ終わると屋上へと向かった。
今日は晴れている。雲が適度に出ていて、まぶしくもなくなかなか過ごしやすい晴れの日だ。
屋上は生徒に解放されているが、1・2年生の姿しか見えない。
3年生はよほどの物好きでない限り、ここには来ず教室で受験勉強やら友達と話すなどで残りの学園生活を楽しんでいるのだ。
下級生たちが楽しそうに弁当を食べる中、少し離れたベンチに腰掛け、携帯を開く。
このメールを見るのは何度目だろうか。
自分を落ち着かせるために、そして決着をつける覚悟をつけるために、メールを再び見る。
「そうかそうか。じゃあ今日は早く帰るんだな。」
「あぁ、ちょっと今日は用事があって…ってわぁっ!な、何やってんだお前!」
俺はびっくりしてベンチから飛びのいた。
ベンチの後ろには、予想通りニヤニヤした緑がいる。
「いやぁ、我が友がふらっと教室を出て行ったから気になっただけ。それよりお前、今野さんと会うのか?」
まぁ、あのメールを見られちゃあそれくらい分かるよな。
「あぁ、そうだよ。」
緑が腰掛けた隣に俺は腰掛ける。
「彼女の告白を断ってくるんだ。」
俺はその言葉をかみ締めるように口に出す。覚悟は決まった。
「ほほぅ、そうか。」
「今なら緑、今野さんをゲットできるんじゃないか?」
「彼女持ちにそういうこと言うんじゃねぇよ。」
なんだかんだいって緑はやっぱり坂上みたいだ。
2人で学校を訪問したときとか、今野さんたちが俺らの学校に来たときに見とれていたくせに。
「で?どうするんだよ。」
「どうするって、何が?」
緑の質問の意味がとらえられず、聞き返す。
「今日も学園祭の仕事あるだろ?どうやって抜けるんだよ?」
あ、忘れてた…
俺は緑の顔を見て固まる。
「あぁ、副島は完全に忘れていたのか。」
「ぐっ、ご名答…」
バカだ。目的ばかりを見ていて、初歩的なことを確認していなかった。
これじゃあ覚悟が揺らぎそうだ。
しかし、隣の緑は自身ありげな笑顔で言い放った。
「まぁ任せとけ。イベント班責任者の名は伊達じゃないってことを見せてやる。」
「おい副島、そこのハサミ取って。」
「それくらい自分で取れよ…」
「んぁ?何か言った?」
「いや、空耳だ。きっと。」
俺は緑にハサミを渡し、後ろを向いて舌打ちする。
携帯の待ち受け画面にあるデジタル時計には「16:23」の文字。
…そろそろいかないとマズいんだが。
緑の作戦、それは『副島をこき使っているふりをする作戦』だった。
『第一段階!俺が副島をパシる!それを皆にアピールする!
第二段階!機を見て俺が副島に「おい、ちょっと駅前までおつかい行ってこい」と命令する!
副島は買出しにいくふりをして抜け出せばいいのだ!』
緑が屋上でこう叫んだときにはなるほどそうだなぁと思ったものだが、一瞬でもそう思った俺自身を俺は後悔している。
…だって、なんかマジでパシられてるじゃん。
「ねぇ、なんか緑君にこきつかわれているようだけど、大丈夫?」
自分のいつもの席に大きな溜息と共に座ったとき、隣のサエが聞いてきた。
予想通り、こんなときの返答の仕方もちゃんと習ってある。
『大丈夫。トランプで緑に負けてその罰ゲーム中なんだ。 って言えば完璧だぞ。』
「大丈夫。トランプで緑に負けてその罰ゲーム中なんだ。」
…まるまる言ってしまった自分が怖い。
そんな俺の心を知ってか知らずか、サエは「ふ〜ん…」とつぶやいて俺の顔を覗き込んだ後、仕事に戻っていった。
ま、ばれてない…よな?
サエとは幼馴染だけあって、どちらかが嘘をついても大抵は見通されるのだ。
だけど大丈夫。今日はポーカーフェイスに徹したんだから…と意味のない言葉で自らを慰める。
「副島ぁっ!」
空気を切り裂くような、あいつの声が飛んできた。
「今度はなんだよ?」
ぶっきらぼうに返事をする。これも演技だ。
この時間帯に呼ばれるということは、作戦実行ということだろう。
「ちょっと修正テープなくなっちまった。ということでお前、駅前で買って来い。」
緑がえらそうに指示する。もちろん、これも演技。
「それくらい自分で買って…」
「ん?何か言ったか副島?」
「いーや、買ってきますよ…」
ぶつぶつ文句を言うふりをしながら、傍らにあったバッグに手を伸ばす。
「お出かけみたいだね。」
「あぁ。もうあいつと何かを賭けたトランプ勝負はしないよ。」
サエが俺の様子に気づき声をかけてくる。
こいつは俺の嘘を見破っているのだろうか?
「じゃ、頼むぞ〜。あ、幅は6mmのやつね。そうじゃなかったら…」
ちくしょー、『ふり』といえどもどこまで俺をパシるつもりなんだ。
行ってらっしゃ〜い、というやけにご機嫌な緑の声を背に俺はかったるそうに教室を出た。
ガタン…
ドアを閉め、廊下に出ると一目散に下駄箱へ向かう。
携帯のデジタル時計は「16:38」と表示されている。
…チャリンコをかっとばさないとキツいかもな。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
よく間に合った、と自分で自分をほめたくなる。
それもそうだ、ここまで信号に引っかからずに来れたのは奇跡に近い。
駅の大時計はまだ5時前だ。
駅の駐輪スペースに自転車を止め、改札前の柱にもたれかかって流れ出てくる人ごみを注視する。
それと同時に、俺が緊張していくのが分かる。
無理もない。あの日以来会うのだから。そして決着をつけるんだから。
大きな深呼吸をすると、不意に改札がにぎやかになった。
電車が到着したのだろう。
大勢の人々が改札をくぐって駅へと出てくる。
そんな中、俺は一番向こう側の改札を出てくる彼女を見つけた。
この辺では珍しい、あの制服。
彼女のほうも周りを見渡した際に俺に気づいたのか、ゆっくりと歩いてきた。
俺も柱から体を起こし彼女のほうへ歩く。
「…今野さん。」
「…健人さん。」
思わず口にした言葉は、やはり『彩さん』ではなく『今野さん』だった。
何ともいえない静寂。
俺の胸は緊張で押しつぶされそうだ。
目の前の人は何を考えているんだろう?
こうして目の前に彼女を見ると、あの日の帰り際、駅のホームのことを思い出しそうになる。
「…どっか、移動して話しましょうか。」
コクリ、とうなずく彼女。
それを見た俺は彼女に背を向け、近くにある公園へと歩き出した。
あの日つながれた、俺と彼女の手は離れたまま。
もう、後戻りはできないんだ。
サエへの想いに気づいた今、今野さんへとちゃんと言わなきゃいけないことがある。
夕日が俺らをオレンジ色に染めていたのには、なんとなく気づいてた。
感想などよろしくお願いします。