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第三二話

副島健人視点です。


花火大会が行われる川に一番近い駅に電車で移動した俺とサエ。

電車内は、花火大会に行くのであろう、サエと同じように浴衣を着た女性の姿がかなり見受けられた。

…まぁ、サエの浴衣より勝っているのは無かったと思うが。

そんなことを考えている場合じゃなくて…

「なぁ、すんごい人だな…」

「予想以上ね…」

俺らは人の多さに圧倒されていた。

夏休み終盤という時期もあるだろうが、結構大きな花火大会なのだそうだ。

駅の改札を出て、川まで行くルートを歩いている、というよりか立っている。

人が多すぎて全然進まないのだ。

もちろん、警備員もいるようだがこの人数にあの少なさはおかしいと思う、絶対に。

ふと周りの人を見渡してみると、ちびっ子連れの家族とかで来ている人たちもいるようだが、

圧倒的にカップルが多かった。

俺の前では、男性と浴衣の女性が手を繋いで笑っている。

もしかして、俺とサエも、周りからはそう見えているのか…?

そう見えていたら、嬉しいかも。

…イカンイカン。変なことを考えるんじゃない。

隣を見るとサエはいつも通り、普通だ。変なことを想像して動揺した自分に恥ずかしい。

「ん?どうかした?」

信号待ちをする交差点、サエが俺の視線に気づいたのかそう聞いてきた。

「いや、なんでもないんだが…」

「だが?」

周りのカップルをもう一度見渡し、勇気を出して言ってみる。

「その…えーと、手、繋ごうか…?」

目の前にはキョトンとしているサエ。俺の言ったことが理解できません、とでも思っているのか?

「え…?」

サエはみるみるうちに顔を真っ赤にしていく。何故?そんなに俺の申し出が嫌なのか?

恥ずかしかったが、再び勇気を振り絞り、サエの右手を俺の左手でつかむ。

左手に、サエのぬくもりを感じる。それは何故か、とても自然なものに感じられた。

隣にいるサエの顔は赤いままだ。夕日のせいなのか?

「えーと、ちょっと強引過ぎたか…嫌なら離してもいいぞ、俺の手。」

弁解するように言う俺。

てっきりサエは手をすぐ離すと思っていたのだが、実際はそうではなかった。

「しょ、しょうがないわねっ!ケンが繋ぎたいなら…」

ごにょごにょごにょ。最後のほうは擬音にするとそんな感じで聞こえなかった。

が、サエは思いのほか俺の強引な行動を受け入れてくれたみたいだ。正直、嬉しい。

「あ!信号青になった!ケン、ボーっとしてないで歩くわよ!」

「お、おぅ!」

横断歩道を渡っているとき、横にいるサエの顔を見てみた。本当は嫌な顔しているんじゃないかと思って。

だけど、サエの顔はあふれんばかりの笑顔。

サエの幼馴染だけあってサエがどんな気持ちかは表情で簡単に読み取れる、と自負しているつもりだが、この笑顔からは『嫌だ』という気持ちが感じられない。何に喜んでいるんだろう?

そして、そんな笑顔を見て、胸が高鳴る俺もいたりして。


ドキッ…













「えー、あと5分ほどで、最初の花火の打ち上げを始めます。」

河原に設置された簡易スピーカーらしきものからそんな声が聞こえ始めていた頃。

今、俺はサエと座る場所を探していた。

…何故か、腕を組んで。

いや、別に俺は嫌じゃないんだ。むしろ嬉しいくらいなんだ。ウン。

だけどどうしてこうなったんだ?と思い返してみる。

腕を組んで、隣にサエを感じながら。


「ね、ねぇ、ケンは、私とどうして、手を繋ごうなんて思ったの…?」

会場について、花火が始まるまでの時間を夜店をぶらつくことでつぶしていたときのこと。

不意に、人ごみの中でサエがたずねてきた。

「どうしてって、そりゃ…」

そういえば、どうしてなんだろう?

周りのカップルが手を繋いでいて、それに影響を受けたことも否定はできない。

が、俺の心の中で一番大きかったことは、別にあった。

「そりゃ、サエと手を繋ぎたかったから。」

本心だ。嘘ではない。

俺がそう言うと、サエは今日何度目だろうか、顔を真っ赤にして、衝撃の一言。

「じゃ、じゃあ…ケンが嫌じゃなかったら、私と、う、腕組まない…?」

そういって俺を見つめてくるサエの瞳。

気づけば、その瞳に虜になっていた。

「大歓迎だ。俺の腕ぐらい、いつでも貸してやる。」

「じゃ、じゃあ…」

サエは恥ずかしそうに、右腕を差し出された俺の左腕に組んだ。

俺の胸は高鳴る一方。サエにばれたらなんて言い訳すればいいんだろう。

隣のサエは、夕方横断歩道で見せた笑顔と一緒の笑顔。


ってことだ。

…よく分からない。

考えるだけ無駄だと判断した俺は、サエに付き合って場所を探す。

「あっ!あそこが空いてる!」

サエが指差したのは、人が腰掛けるにはちょうどいい大きさの石2つ。

人が密集している地点から少し離れているから、花火の客もまばらだ。

俺らはその石に腰掛ける。

座っても、腕は組まれたまま。

俺の胸はさっきからずっと高鳴っている。

このドキドキは何なのか、誰か解明して欲しい。

…なんてことを考えながら無言で花火を待っている。

すると、不意に暗闇に「ひゅ〜」という音が聞こえたかと思うと、「どぉん!」という豪快な音と同時に綺麗な色とりどりの花火が空に咲き誇る。

「綺麗…」

「そうだな…」

俺らはそう呟いて、それに見入る。

美しい色合いとその大迫力に、俺らは魅了されていた。

俺が花火に釘付けになっていると、突然サエが頭を俺の肩に乗せてきた。

びっくり、というよりも、更にドキドキしてサエを見ると、うっとりした表情で空の花火を眺めている。

そんな横顔がたまらなく愛しくて。

俺が肩と腕に感じている、そのぬくもりがたまらなく愛しくて。

ばぁん!どぉん!

夜空に花火は咲き誇り続ける。

この時間が、永遠に続けばいいな…

俺は夜空にそう願うのだった。






しかし、花火大会は永遠ではないわけで。

「これが花火大会の最後を飾る花火です!」

スピーカーからそのような声が聞こえてきたときは現実に引き戻されたような感じがした。

「最後か…」

「最後だね…」

サエは名残惜しそうに夜空を見上げ、花火を待つ。俺も同じだ。

暗闇に視線を合わせ待っていると、聞き慣れた「ひゅ〜」という音が夜空のあちこちからしてきた。

次の瞬間、夜空は暗闇ではなくなった。

ばぁぁぁぁん!

これまでの数倍はあろうかという轟音が鳴り響くと同時に、空は花火で埋め尽くされた。

どぉぉぉぉん!

ばぁぁぁぁん!

まるで、花火が俺らを包んで照らしているかのようだ。

「すごい…」

隣でサエがそう呟くのが聞こえた。

サエも俺と、同じ景色が見えているのだろう。

「綺麗だ…」

俺もそう呟いていた。ただ、花火を見てではない。

花火に照らされた、サエの横顔を見て。

そんなことを思いながら再び花火に目を戻すと、最後の花火が散ったところだった。

「これにて、花火大会は終了となります。皆様、お気をつけてお帰りください。」

スピーカーから機械的な声が聞こえてきて、俺らは幻想の世界から引き戻された。

ただサエにはまだ花火の余韻が残っているのか、座っている場所から立ち上がろうとはしない。

名残惜しそうに夜空を見つめるだけだ。

俺もそんなサエに付き合って、夜空を眺めていた。

「じゃ、そろそろ行く?」

サエが隣でそういうのが聞こえた。

「そうだな。」

俺らは立ち上がってゆっくりと駅へ歩みだす。

「そうだ。」

少し歩いたところで俺は立ち止まって、サエのほうを向く。

サエは何事か?という顔だ。

「えーと、面と向かって言うのは恥ずかしいんだが、今日誘ってくれてありがとう。とっても楽しかった。」

自分の顔が熱を帯びてくるのが分かる。

あんまこういう経験ないからな。

キョトンとしていたサエは、俺の文の意味が分かったのか、すぐに返事をしてきた。

「私こそ!来てくれてありがとう。夏休みの最高の思い出になったよ!」

サエの顔には笑顔が浮かぶ。俺にとっては、花火のような、いや、花火よりも綺麗だ。

「俺もだ。」今日という日はこの夏で最高の日だろう。

サエの笑顔に釘付けな俺。


不意に緑の言葉を思い出す。

『そりゃ、恋だ。』『相手は、今野さんじゃない。』


今、全部が解けた気がした。

今なら緑の問題に自信を持って分かったと言える。



俺が恋してるのって、サエだったんだ。



そう思うと、それがなんだか自然な感じがしてきた。

きっと、俺が気づくのが遅すぎたのだろう。

物心ついたときから俺の隣にはサエがいたから。

そして今も、隣には変わらないぬくもりがある。

「サエ…」

俺は一番愛しい人の名を呟いていた。

「ん?」

隣からはいつもの声。

今すぐに抱きしめたいという衝動に駆られたが、俺はそれを抑える。

そして本心からの言葉。

「今日は、人生最高の日だ。」

感想などありましたらよろしくお願いします。

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