第三一話
投稿遅れました。スイマセン。
やることはいっぱいあるのに時間は無常にも過ぎていくばかり…
儚いなぁ。
前半・真壁冴子視点 後半・副島健人視点 です。
『夏祭り・花火大会開催!』
そう書かれたチラシを左手に、私は部屋のイスに座って悩んでいた。
日時で悩んでいるのではない。
お金がないわけではない。
…ケンを誘ったら、来てくれるかな…
さっき駅前でこのチラシをもらったとき、不意にケンが頭に浮かんだ。
ケンと行きたい。
ならさっさと誘えば良いのに、ケンへの恋心を自覚したときからか、なんだかそれができない。
私らしくないのは分かっている。
『夏休み、最後で最高の思い出に!』
チラシにはそんな文字。
さっきから右手はずっと携帯をつかんでいる。けれど、それからが動かない。
恥ずかしいのか、断られるのが怖いのか、なんだか分からないけど、誘う勇気が出ないのだ。
「はぁ…」
溜息をつくと同時に携帯が鳴り響く。
もしかしてケンからかな、そう期待して受信したメールを見ると、私が数ヶ月前になんでもないことから登録した占いサイトからのメールだった。
「なぁんだ…」
がっかりした私は、メール削除ボタンに指を伸ばす。
『メールを削除しますか?』
画面にはこんな文字。
『削除』を押そうとしたとき、不意にそのメールのタイトルが目に入った。
『夏休み終わりまでのあなたの運勢』
…
これを見てからでも、消すのは遅くないよね?
『キャンセル』を押して、さっきのメールを開く。
『夏休み終わりまでの、あなたの運勢
金運○ 健康運○ 恋愛運◎
今のあなたは絶好調!何をやってもうまくいきそう。
ただ、判断に躊躇っているといい結果はあなたから逃げていってしまいます。
何か迷っていることがあるなら、これを見た今すぐに、その迷いを断ち切ってください!』
読み終わったあと、何故だか私の頬には笑みがあった。
誘おうか悩んでいることが馬鹿馬鹿しいと思ったのか。それともこのメッセージに背中を押されたのか?
…ともかく、このメールがタイムリーに来たということは間違いない。
メールを閉じるとすぐに、電話帳を開きケンの電話番号を画面に出す。
一呼吸してから、私は『発信』ボタンを押した。
プルルルルル、プルルルルル、…
耳に当てた携帯からはそんな音が聞こえる。
『はい、もしもし?』
規則的な音を断ち切ってケンの声が聞こえてきた。
「やっほー。私だよ。ワタシ。真壁冴子。」
『あぁ、サエか。新手の「私ワタシ詐欺」でも開発したのか?』
「ち、違うって!」
『ははは… それで、どうかした?俺に電話かけるなんて。』
これから誘うんだ。
もう一回深呼吸をして、手元にあるチラシを見つめる。
「あのね、今度の土曜日、近くで夏祭りと花火大会があるんだけど…も、もしよかったら、えっと、わ、私と一緒に行かない?」
何とか言えた。途中、恥ずかしくて詰まりそうになったけど。
ケンの返事を待つ。
『…』
何も聞こえてこない。
「ケ、ケン?」
『あ、あぁ。悪い。カレンダー確認してた。』
「そ、そう…で、どう?」
緊張の一瞬。
『うん、その日は大丈夫だ。喜んで行かせてもらうよ。』
「ほ、ほんと!?ありがとっ!」
その言葉を聴いた瞬間、私は嬉しくなってしまった。
その後も少しケンと話したけど、何を話したのか覚えていない。
電話を切った後、嬉しくなって枕に顔をうずめ足をバタバタさせる私。
そりゃそうよっ。
だって、好きな人と2人で行けるんだもん。
もう、土曜日が待ち遠しくてたまらない。
サエから『夏祭り』という単語を聞いたとき、あの日のことが鮮明に頭によみがえってきた。
今野さんと行った、あの日のことが。
だから、しばらく何も言えなかった。考えられなかった。
『ケ、ケン?』
携帯からこの声が聞こえてきたときは、正直ビクッとした。
サエが、今俺の頭に浮かんでいることを知っているんじゃないかって。
絶対サエだけには知られたくない。というか、知ってほしくない。あの夏祭りの日に、あった出来事は。
…だけどいつか、俺が恋している相手というのが分かったら、その時は今野さんにちゃんと返事をしなきゃならない。
でも、『俺が恋をしている相手』というのが全く分からない。
勉強合宿のあの夜、緑にそれを教えられたあの夜から考えてきたけれども。
だから俺は、そのことをもう考えたくなかったこともあって、二つ返事でサエと出掛けるのにOKをした。
だけども…
「なぁサエ〜、まだ〜?」
「あ、後少しだから!ちょっと待って!」
真壁家のリビングのソファーからそう叫んだ俺は、もはや何度返ってきたか分からないぐらい聞いた気がするサエの声を2階から聞いた。
「姉貴、ケン兄さんと出掛けるから、張り切ってるんだよ。」
隣にドカッと座ってTVの電源をつけながら秀が言う。
「張り切ってる?何を?」
「だぁかぁらぁ、姉貴は、ケン兄さんに―「秀!何か変なこと言おうとしてないでしょうね!」
突然、鋭いサエの声が飛んできた。
ビクッとする俺だが、それ以上に驚いたのは隣の秀。
「どどどどどうしたんだよ姉貴?」
動揺しまくりだ。俺はそんな秀を見て笑いをこらえる。
「う〜ん、何かそんな気がしただけ。」
「そそそそそうなのか〜。ケン兄さん待ってるから早くしたほうがいいかもよ〜?」
「わ、分かってるわよっ!」
それっきり2階から声は聞こえなくなって、代わりに慌ただしい音が聞こえ始めた。
隣でふぅ〜、と息を吐く秀。
こらえるのをやめた俺は、TV番組に目を向けながら話しかける。
「はははははっ。秀って、サエに勝てないなぁ。」
「そ、そんなことないって!勝てるって!例えば…」
「例えば?」
「…」
秀を見ると、必死に考え込んでいる。
「無いみたいだな。」
ということだった。
確かに、俺の知っている限りではサエは秀に負けているのを見たことが無い。というか、他のやつにも負けていないんじゃないか?
何でもハキハキ言うタイプのサエだからな、なんて密かに納得している俺。
「あ、姉貴が勝てない人見つけた。」
「お、誰だ?」
秀は下に向けていた目線をあげて俺を見る。
「ケン兄さんだよ。間違いなく。」
「俺が?うーん、そうなのか?あんまり実感がわかないけど…」
「だって、ケン兄さんは姉貴にとって『特別』だからね。」
『特別』?なんのことだそりゃ。
秀が更に口を開こうとした瞬間、元気よく階段を下りてくる音が聞こえた。
「おまたせ〜!」
そういいながらリビングに入ってきたサエを見る。
そこには空色の浴衣を着たサエが立っていた。
…綺麗だ。
気づけば俺は、サエのことをずーっと見ていた。見とれていたといったほうが正しいのか。
「ど、どうかな…?」
両手を前に添えてくるっと回るサエ。
窓から入ってくる風で浴衣のすそが少しはためく。
そんな姿に、俺は夢中だった。
「ケン兄さん〜?」
その声で隣を見れば、ニヤニヤした秀。
「よ、よし!準備もできたし行くとするか!」
動揺を隠しながら足早にリビングを出て行こうとする俺。
そしてきょとんと俺のほうを見ているサエの横を通り過ぎるとき、俺は耳元で囁いた。
「すっごい似合っていて、綺麗だ。」
恥ずかしくなって靴を急いで履き、「外で待ってる!」と言ってから玄関を出る俺。
すぐにドタドタと、玄関へ疾走してくる音が聞こえた。
玄関の扉が開いたとき、目に入ってきたのは真っ赤になったサエと後ろでニヤニヤしている秀と真壁家の母親。
意味ありげな2人の視線に耐え切れず、「ほら、早く行くぞ。」と階段を下りて道へと出る俺とサエ。
恥ずかしすぎて悶絶しそうな俺は、無言で歩き続ける。
サエもどうなのかは知らないが、やはり無言。
…うわっ、何か俺やっちまった?
そんなことを考えているともうすぐ駅。
「ゆ、浴衣、似合ってるって…ありがと。嬉しかった。」
そんな声が聞こえるなと隣を見ると、真っ赤になったサエがモジモジしていた。
再びサエの浴衣姿が目に入る。やはり、綺麗だ。
「…あぁ。…さ、それじゃ電車乗って行くか!」
「…うん!」
俺らは顔を見合わせて笑いながら、いつもの雰囲気で歩き出す。
今日の花火大会で、サエとの夏休み最後で最高な思い出ができそうな気がした。
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