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第二九話

クーラーつけっぱで寝てたら調子悪くなりました。

自業自得。


緑朋樹視点です。

明日、家に帰るという日の夜。

いつもは黙々と自習している時間。だけど今日は違う。

皆が外に出て打ち上げをするのだ。

いつもは(というか勉強合宿中は妙に)厳しい先生たちも、頬がゆるんでいる。

きっと、今日ぐらいは思い出作りをさせてやろう、とか話してるんだろうな。

しかしそんなことはお構いなしに、

「野郎達、楽しむぞぉっ!」

俺と副島がこの前の夜に話した河原で花火を両手に持ち、みんなの中心にいる副島が周りを取り囲んでいる男子に叫ぶ。

「おぉぉぉっ!」「楽しむぞぉっ!」「野郎とは何だ!」「勉強とか知らねぇよっ!」

副島を取り囲む輪の外側に立っている俺はその隣にある女子グループを見る。

「じゃ、せっかくだしはしゃごっか!」

こっちは笑顔の真壁が女子皆に呼びかけて、我先にと花火を手に取る。

あの夜以降、副島も真壁も何かが吹っ切れたみたいでいつもよりハイテンションだ。

…まぁ、2人とも鈍感野郎ってのは否めないんだが。

「いくぞぉぉぉっ!」

誰かの掛け声で皆がいっせいに手に持った花火に火をつける。

シュー…

その瞬間、満天の星空の下で全員の両手からきれいな光が飛び出してきた。

あちこちから漏れる感嘆の声。

俺も、思わず声を出していた。

闇夜の中、色とりどりの光があちこちから出ている。なんと幻想的。

「よっしゃぁ、次!」

副島の掛け声でまたまた花火へ殺到。

俺は苦笑しながらそんな人ごみを抜け出し、河原に座ろうと歩く。

「と〜もきっ。」

声の方向を見ると、真理がそこにいた。

「抜け出してきちゃった。」

「おぅ、俺もだ。」

1発目の花火が終わると、俺らみたいにその輪から離れて河原に座って話したりするやつがいるのだ。大抵カップルだが。

俺たちもそんななかの1組。

「…星、綺麗だな。」

「…ホントだね〜。」

河原に座って見上げた空には無数もの星。

俺はそっと、隣に座った真理の手を握る。真理の手も優しく握り返してきた。

「ねぇ、なんだか冴っち、昨日とまでは違うよね。」

「やっぱりそう思う?副島もなんか違うんだ。」

「きっとこの前の夜だね。」

「多分な。というか間違いないよ。」

俺らの視線は副島と真壁にいっている。

男子グループと女子グループが合流してごちゃ混ぜになった中、中心にその2人がいるのだ。

あいつらの今の笑顔は、心からの笑顔って感じがする。

「そういや、この前真壁と何話してたの?」

「え〜っ、言っちゃうと冴っちに悪いし…」

「じゃあ俺が当ててみるよ。…真壁が、副島のこと好きってことかな?」

「ぴんぽ〜ん。簡単に当てちゃってつまんな〜い。」

むぅ、と可愛らしくふくれる真理をみて微笑む俺。

「じゃ、俺と副島の話当ててみろよ。」

「う〜ん…副島が冴っちのこと好きってこと?」

「あたり。だけど副島は鈍感野郎だから、まだ真壁のことは『好き』って気づいてなくて『大切な存在』だって思ってるんだよな。」

真壁とじゃれる副島を見ながら言う。

きれいな光は所々から、楽しそうな話し声と共に飛び出してくる。

そんな光景をうっとりと眺める俺ら。

「ねぇ、いつから私たち、人の恋路の心配するようになったんだろうね?」

確かにそうだ。

「う〜ん、いつだろ…?ま、あいつらにはいろいろ助けてもらったし、今度は俺らの番だよな。」

そういいながら俺はあの試合、副島のあのパスを思い出す。

あのおかげで今があるんだよな。隣に、真理がいるっていう今が。

「そうだね。学園祭で何か仕掛けるとかしちゃう?」

「おっ、それいいね!しかも俺ら、イベント班じゃん!!」

「コレは神様が何かやれって私たちにいっている様なものだねっ!」

ハハハ…と顔を見合わせて笑う俺ら。

そのままじっと見つめ合う。

そして、磁石のように、顔が吸い寄せられていくにつれ、真理の顔が近く…













ならなかった。

急に、俺と真理の顔の間から花火がシュゥゥゥゥと音を立てながら出てきたのだ。

「キャッ!」「まぶしっ!あぶなっ!」

花火の方向を見ると、ニヤニヤした副島と真壁に男女数人。

「おやおや緑君、なかなかいい状況じゃないですか。」

「ホントだ。真理っち〜!ヒュ〜ヒュ〜!」

手に大量の花火を持って不敵な笑みで俺らを見ないでくれ。恥ずかしい。

「うっ、うるせぇ!」「やめてよ冴っち〜!」

よし、次はあそこだ〜!とか誰かが言ったので、その集団がゾロゾロと移動していく。

去り際、副島が俺の耳元でこういった。

「俺ら今、いい感じになっていそうなカップルの邪魔をする大会してるんだ。」

ニヤッと微笑みながら走っていく副島。

…というか、その大会でお前と真壁が狙われるべきだろ。

そう思ってその集団を見ていると若いスポーツマンの男国語教師が美人で有名の理科教師を口説いている(と俺は見た)現場に突撃していった。

「お、お前ら散れ!あっち行け!」

国語教師が真っ赤な顔で叫んでいるのが暗闇でも分かる。

「ねぇ、私たちもアレに参加して、冴っちたちを狙わない?」

「俺もそう思っていた。行くか!」

手をつかんだまま花火を取りに立ち上がる俺ら。

俺はあいつらを見ながら思った。

副島と真壁なら、絶対に結ばれる。

ただ両想いなんだけど、気づいてないのがタチ悪いんだよな…

そこは俺らの腕の見せ所。ゴールまで持ってってやるぜ。

そんなことを思った夏の夜。

感想をいただき、ありがとうございます。

この場でお礼を申し上げます。

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