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第二六話

暑いですね〜。

地球温暖化など俺には知らない、と適当な理由をつけて、エアコンは25度。


副島健人視点です。

「♪てれてて〜 てってて〜 て〜れてて〜て〜」

と、誰もいない部屋で何の意味も無いメロディーを口ずさみたくなってしまう土曜日の午後。

いや、正確には口ずさんでいると言ったほうが正しいか。

今日もサエの家で勉強を教えてもらってたが、それも午前だけ。

土曜の午後と明日の日曜は今度の勉強合宿に必要な服とかを家族と買いに行くらしいのだ。

「え?適当に選べばいいんじゃない?」

「バッカね〜。女の子はそういうモンなの。だってケンが…」

アイスコーヒーをご馳走になりながら質問する俺に顔を真っ赤にして何かをゴニョゴニョと答えるサエの姿に、またドキドキした俺がいたのは事実。

この感情は何なんだろう?と、たまに考えているが一向に答えは浮かばない。

こりゃ、どんな数学の難問よりも難しいのではないか。

そんなことを思う俺の口の中に広がったアイスコーヒーの苦味は数時間経った今でも鮮明に思い出せる。

…何はともあれ、明日は夏祭りだ!

そう、ここ最近稀に見るハイテンションはそのせいなのだ。

それもただの夏祭りではない。

なんたって、今野さんと行く夏祭り。なぜだか知らないけど勝手にテンションがあがってしまうのだ。

最後に会ったのは、確か学園祭の実行委員会に来てくれたときだったよな…

その後はお互いにテストなどがあり忙しくて連絡もしていなかった。

ということは、明日は久しぶりに会うということ。

なんだかまたワクワクしてきたよ。







日曜日の午後6時。

何かを待ち望んでいるときの時の流れは遅いものだ、と改めて実感した。

『○○駅で、午後6時に会いましょう。』

携帯を開いて今野さんから最後に受信したメールを見る。

俺が夏祭りに行く、と美穂に言ったら「お兄ちゃんも浴衣着ていきなよ!」と言われたが

結局Tシャツにジーパンと、至って普通の格好でやってきた俺。

周りを見ると男の人もちらほらと浴衣を着ているのが分かる。

大丈夫かな俺、この格好で今野さんに嫌われないかな、なんて思ったりしていると背後から、

「健人さん。」

待ち望んでいた声が聞こえた。

「彩さん!」

心の中では彼女を『今野さん』と認識していたのに、いざ目の前にすると口から勝手に『彩さん』と出てきた。小さな発見。

振り向くと、彩さんがピンクの浴衣を来て立っていた。

「お久しぶりですね。こんばんは。」

「こんばんは。」

もう一回彼女をよくみる。

ピンクの浴衣が良く似合っていて、ストレートの長い黒髪がさらさらと風に流れる。

「綺麗ですよ。」

俺は思わず声にしていた。

「え?」

「あ、いや、その、彩さんが綺麗だな、と…」

「えっ、あ、ありがとうございます…。」

なんだか変な空気になっちゃったじゃないか。

チクショー、俺のバカ。

「えと、じゃ、行きましょうか?」

「あ、そうですね。」

とりあえず俺の提案で夏祭りの会場に行くことに。

しかしこの夏祭りはこの辺だとそこそこ規模がでかいものなのか、駅にもたくさんの人がいる。

下手すれば人ごみにまぎれてしまいそうだ。

「えと、あの、健人さん…」

「はい…?」

「その、手を…」

そういわれて視線を下に落とすと、俺の左手が彩さんの右手をしっかりととらえていた。

「あ、すいません…」

知らないうちにつかんでいたようだ。

彩さんはそれで俺に声をかけたのか、と思い左手を離そうとすると、彩さんの右手にしっかり握られたままだ。

驚いて俺は視線を上げる。と、そこにはちょっと頬を赤らめた彩さん。

「ずっと、このままで…」

「もちろん。」

そういうと彼女は笑顔になった。

「では、行きましょうか。」

俺は高鳴る鼓動を隠すように、しっかりと手を握りながら、会場へと歩き出した。

俺らは周りから、どのように見られているんだろうか。

そして彩さんは隣で、今何を考えているのだろうか。

そう思って彼女を見ていると俺の視線に気づいたのか、俺と視線が合った。

『今何を考えてたんですか?』など言えるはずもなく、誤魔化しも多少含めてニコッとしてみる。

すると、彼女も笑顔で返してくれたではないか。

俺は再び前を向く。心はなんだか幸せだ。

そして、自然と頬が緩んでいた。きっと彼女も。







「健人さん、いろんな屋台がありますね!」

一通り見て回ったところで彩さんがそういった。

「そうですね〜。この夏祭りってこの辺じゃ規模がでかいやつみたいですし…」

「じゃ、行きましょうか!」

俺の言葉をさえぎって彩さんは手を引っ張って行った。

…意外と彩さん、お祭りとか好きなのか?

そう言いながら2人で歩いていると、周りの景色は金魚すくいなどゲーム系の屋台になった。

「彩さん、金魚すくいとか得意ですか?」

「いえ、さっぱりです。」

「あ、俺もですよ。あんな薄っぺらいアミでどうやってとるのか不思議でならないですよ。」

「ホントにそうですよね〜。」

など、他愛もない会話を交わしながら歩いていく。

「…それにしても、ホントにいろいろあるなぁ…」

適当に立ち止まって周りを見渡しながら呟くと、

「おぅお兄ちゃん!彼女にイイとこ見せたらどうだい?」とよく聞こえる声でどっかの屋台のおじさんが誰かに向かってしゃべっているのが聞こえた。

ちょっと気になってその声の方向を見てみると、射的の看板のしたから声がしたようだ。

しかも、そのおじさんは俺の事を見ているではないか。

「そうだよ、お兄ちゃんのことだよ。」

「あ、お、俺?」

ということは、『彼女』って彩さん?

彩さんを見ると、それに気づいたのか顔を真っ赤にしていた。

そうかぁ、周りからはそういう風に見えているのか。

なんだか嬉しくなった俺は、おじさんに「よっしゃ、挑戦するよ!」と宣言。

「そうこなくっちゃぁ!」

彩さんの手を引いて射的の屋台へ向かうと、おじさんが銃を手渡してきた。

お金を払い、しっかりと狙いを定めて定めて…

パァン!

いい音と共に放たれたコルク玉は狙っていた可愛いぬいぐるみの僅かに横を通っていく。

「あぁ残念〜。はい、あと2回!」

「ちくしょ〜…」

再び狙いを定めて定めて…

「健人さん?」

急に彩さんが声をかけてきた。

「あ、なんかほしいやつとかあります?頑張って狙いますよ?」

「あ、そういうことではなくて…」

俺は間髪いれず言う。

「なら、俺が取ってプレゼントしますから、待っててください。ね?」

「あ、ありがとうございます…」

と彩さんは言うと、顔を真っ赤にしてしまった。

またなんかやっちまった…か?

何はともあれ、目の前のぬいぐるみを狙って…

パァン!

パフッ…

「あぁ〜当たったのに…」

「お兄ちゃん惜しいね〜!次でラスト!」

狙いに狙った玉は的のぬいぐるみに当たったのだが、巨体には無意味だったのか、びくともしなかった。景品は落ちないともらえない。

あの巨体をどうやって落とすんだよ…

攻略法を考えながら、後ろの彩さんをチラッと見る。彼女は両手を合わせて俺のほうを見ていた。

よっしゃ、期待に応えないと男が廃るな。

狙って狙って…

俺が息をのむと同時に、一瞬だけだが風が吹いた。

ぬいぐるみがほんの僅かだが、動く。

パァン!









「ありがとうございます、健人さん。」

奇跡的にとれたぬいぐるみを彩さんに手渡すと、笑顔でそういわれた。

風が吹いてぬいぐるみが一瞬動いた隙を狙い玉を発射したところ、ぬいぐるみはゆらゆらと揺れて台から落ちた。

なんだか俺、冴えてるなぁ。

「いえ、もともと彩さんのために取ったんですから。」

これは本当だ。嘘などではない。

「あぅ、え、えと…かっこよかったです。」

「そりゃどうも。」

なんだか顔を真っ赤にして言葉をしぼり出したように見えるなぁ。

ふと携帯に目をやるともう午後10時近い。

周りの人もちらほらとしかいないように感じる。

「それじゃ彩さん、そろそろ帰りませんか?」

俺は彼女の手を取り、一歩を踏み出す。


「待ってください。」


そして、彩さんにそう呼び止められたのだ。

「どうかしました?」

何かあるのか、疑問に思った俺が聞くと、彼女は大きく息を吸い込んで、はいた。

「何かあるんですか?」

コクリ、と小さくうなずいた彩さんは、一歩前に出た。


「私、健人さんのことが好きなんです。


 初めて会った日からずっと、あなたのことを見てました。


 初めて会った日からずっと、あなたのことを考えてました。」


…!?

第一感想はこれだ。

これはどういうことだ?

頭が混乱して考えられない。

どういうことなのだ?

分からない…

彼女は俺のことが好きだといいたいのか?

そういうことなのか?


混乱している俺に追い討ちをかけるように、彩さんは俺に抱きついてきた。


俺はいきなり女の子に抱きつかれて冷静さを保てるほどクールではないが、

なんとか思考回路を復旧させる。

すると、目の前の彼女が、とても愛しく思えてきた。

愛しい。

俺の手を伸ばせば彼女をたやすく抱きしめられる。


そう思ってゆっくり、ゆっくり手を伸ばす俺。

すると、頭にある人の顔が浮かんできた。


サエだ。


サエが悲しそうな表情をしている。

なんでだろう。

俺のほうを向いて何か言っているみたいだ。

…俺は、サエのそんな顔なんて見たくない。

気づけば、伸ばした手は、腕を伸ばしきらないあたりでピタッと止まっていた。


「健人さん…」

彩さんが俺の胸に呟く。


どうすればいいんだ。

俺は彼女を抱きしめようと思えば抱きしめられる。抱きしめたい。

が、サエの顔が頭に浮かんできて手は自然と止まってしまう。

かといって彩さんを振り払うわけにもいかない。


沈黙を破ったのは、俺の携帯の着信音だった。

俺と彩さんはビクッとそれに反応し、急いで離れる。

慌てて携帯を出して耳に当てると…

『もしも〜し。起きてる〜?』

他でもないサエだった。

俺はできるだけ冷静さを装い、声に動揺が出ないよう心がける。

「あ、あぁ。当たり前だろ。」

『そ〜だね。じゃなきゃいつもねぼすけさんじゃないもんね。』

「うっ…」

『それはそうと、こんどの勉強合宿についてなんだけど…』



サエからの電話が終わると、再び沈黙が俺らを支配する。

まともに彩さんの目を見ることができない。

「…行きましょうか。」

「…そうですね。」

行くときに繋いでいた手は、気づけば離れたまんまだった。

耳を澄ませば、隣を歩く彼女の息遣いしか聞こえない。

こんな状況じゃ、俺の胸のドキドキでさえも聞こえそうだ。





駅で電車を待つ俺と彩さん。

彼女が乗る電車が来る1番ホームに無言でたたずむ俺ら。

周りにはほぼ人がいない。向こうに1人サラリーマンの姿が見えるだけだ。

周りが何かしゃべっていると俺らの沈黙がまぎれるのに、

周りでさえも完全な静寂。

俺らの奇妙な雰囲気に拍車をかける。

隣で彼女は何を考えているんだろう?きっと、行きの時とは違うことだろうな。

そう思って彼女を見ると、前を見たまま。


ププーッ


線路の上を電車がやってきた。

どうやら1番ホームに止まる電車のようだ。

「…彩さん、電車が来ましたよ。」

彩さんはゆっくりと俺のほうに顔を向ける。


と次の瞬間、再び彼女は俺に抱きついてきた。

「彩さん…!?」

「…わがままでしょうが、もう少しだけ…」


ぎゅっ、と抱きしめられる俺。


俺はこの彩さんのことが好きなのか?

好きなのなら、なんで頭にサエの顔が浮かんでくるんだ?

ほら、今も。



自分が分からない。

そうだ、俺は分からないんだ。

これからゆっくり考えればいい。



適当な理由をつけて、


俺は、


震える自らの両手を、


彼女の背中に回した。

急展開…といったところでしょうか?

サエ一人称を書きたいんですが、書けるかどうか…


感想お待ちしております。

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