第二五話
暑いです。
扇風機を『強』にしながらPCに向かうこの頃。
ずっと扇風機にあたっていると頭が痛くなるこの頃。
「よしっ!今日はここまで出来れば大丈夫でしょ!」
「ふぁ〜ぃ…」
「…ってケン、聞いてる?」
「ん…あぁ!聞いてたよ!」
夏休みがはじまって1週間程度が経過したころ。
俺は毎日、サエの家で勉強を教えてもらっているのだ。
しかしこの数日間で(恥ずかしながら)高3に入ってからの俺の勉強時間を軽くこえたスパルタ教育にちょっと疲れていたのか、ボーっとしていたようだ。
「ふ〜ん…」
疑いの視線を俺に向けるサエ。
「き、今日もありがとな!じゃまた!」
俺はそんな視線に耐え切れなくなって、慌てて荷物をまとめてサエの家のリビングを出た。
「あっ…!」
後ろからサエの驚いたような声が聞こえるが、気にしない気にしない。
…なんて言っているが、俺が今慌てて出てきた理由は他にもある。
サエだ。
サエに教えてもらっているとき、無意識にサエのことを考えてしまう自分がいる。
ドキドキしている自分がいる。
このような変な感情は生まれて初めてだ。しかもそれが、単なる幼馴染のサエ。
何かあるのか?
はっきりとそれを示さない自分に苛立ちを感じる。
そうだ、何も無い。何も無いんだ。
玄関を出ると、昼とはうって変わってひんやりとした空気を肌に感じた。
少し薄暗い空を見上げ家へと歩き出す。
………
響いているのは俺の足音だけ。
自分がひどく孤独に感じられた。それが何かを暗示しているかのように。
それから2日後。
今日は珍しく学校登校日。といっても、全員ではない。
うちの学校は高3対象で夏に4日間の日程で『必勝!夏・勉強合宿』というものがあるのだ。
それに申し込んだやつらが今日は登校しなければならない。今日はその説明会。
…まぁ、なんだかカッコいい名前の合宿だけど遊んだりして結構楽しいらしい。
サッカー部の先輩の話によると、午前と午後はみっちり勉強して、夕食後は先生たちも交えて皆で遊んだという。
単純に面白そうだと思ったのもあるし、期末テスト前にサエが「一緒に行こう!」と言って来たからな。俺も申し込んだ。
説明会が行われる教室にサエと行くと、既に30人ぐらいが友達と久しぶりの対面を果たしていた。
「副島!」
声の方向を向くと、緑や坂上など数人が固まっていた。
「なんだか久しぶり、だな。」
「あぁ。まだ2週間も経ってないのにな。」
再会を喜び合う(?)俺ら。
そのとき、パンパンと手をたたく音が聞こえた。
「よぅし、コレで全員だな。では今より、勉強合宿の説明会を行う!特に副島と緑、よく聞いてろよ!」
何故か俺らだけピンポイントで狙われた。しかもまだうるさくしていないのに。理不尽だ。
そんなことを思いながら、俺はサエのパンフレットを覗き込んだ。
…カバンから出すのが面倒なだけさ。
「あぢぃ〜…」
暑さにうだりながら家に帰ると、携帯が鳴っているのに気づいた。
地球温暖化なんぞ関係ない、と言わんばかりに22℃に部屋のエアコンを設定して床にばたんと転がり、乱暴に携帯を取り出す。
『Mail 今野彩』
小さい画面にはそんな文字が。
俺は思わず上体を起こしていた。
携帯を開き、メールを確認する。
『今度の日曜日に夏祭りがあるんですけど、良かったら2人で一緒に行きませんか?』
胸が弾むのが分かる。
急いでカレンダーを確認し、その日の3日後から勉強合宿であること、そしてその日はサエの家で勉強を教えてもらう日でないことを確認すると、すぐにメールを返信する。
『もちろん!俺でよければ、お付き合いしますよ。』
窓には真っ青な空が広がっている。
気づけば俺は笑顔になっていた。
…部屋で一人でニヤニヤしている男子高校生も、なかなか気持ち悪いな。
そんなことをニコニコしながら思っていると、再び携帯が鳴った。
『ありがとうございます。とっても楽しみにしています!』
俺も、楽しみですよ。あなたと2人で夏祭りに行くのが。
空に小さな声で、そう呟いた。
感想などお待ちしています。