第二三話
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この場を借りてお礼を申し上げます。
副島健人視点 です。
キーンコーンカーンコーン…
この鐘の音と同時に生徒たちはふわぁっと肩の力を抜く。
俺も例外ではない。
答案用紙を集め終わり、監督の先生が教室を出て行ったら、こう言わずにはいられなかった。
「よっしゃぁ、テスト終わったぁっっっっっ!」
「ちょ、ちょっとケン、そんな大声で叫ばなくても…」
うおっと、俺としたことが叫んでしまうなんて。
それもそうだろう。期末テストが終わったのだ。しかも最終日・最後の科目は数学。
この暑い中、どれだけ自分で勉強を頑張ったことか…
「それはないわよ。エアコンガンガンで私に勉強教えてもらってたのどこの誰だっけ?」
「うっ…ってか、サエは心読めるのか?」
「声に出てたわよ。」
あぁ、それでピンポイントな返答が返って来たのか。
一人で納得していると、教室のドアを勢いよく開けて担任が入ってきた。
「おぅお前ら、テスト御苦労だったな。じゃあこれで終礼だが、今から呼ぶやつは進路面談するから残るように。木本、副島、田之上、真壁。この順番でやるからな!」
あ、これが残ってたか…
テストが終わって開放感にあふれていた俺の心が急に鎖でつながれた感じだ。
進路面談とは、生徒と担任が一対一で大学進学について話し合うのだ。
ちょっと前に1回あって、今からのは夏休み前の1回、夏休み中に親も含めて1回やるらしい。
秋冬は更にやるらしいんだが…
終礼を終えると、サエが俺のほうに近寄ってきた。
「サエはいいよな〜、面談でぶつぶつ言われないんだし…」
「そ、そんなことないって…」
ちょっと赤面するサエ。
「そ、そんなことより!今日の放課後、パンフレットに載るインタビューよ!」
「あ、そういえばそんなのあったな…」
「ケン、絶対忘れてたでしょ…」
サエ、ご名答。
例年、文化祭で配られるパンフレットには必ずその年の実行委員長・副委員長の個別インタビューが載る。
毎年、『へ〜』ぐらいにしか思っていなかったが俺が受ける立場となるとなんだか緊張する。
だって、俺の言ったことがパンフレットに載るんだからな。
ふとサエを見ると、自分の腕をうっとり眺めていた。
「何してんの、サエ?」
「え、え、それは、その…」
急に聞かれてビックリしたのか、なんだか焦っているようだ。
「それはその?」
サエがゆっくりと左手を俺に見せる。
「その、このケンにもら―「副島!お前の番だぞ!」
教室の入り口を見ると木本が立っていた。
「分かった。サエ、また後でな。」
俺はカバンを肩にかけると面談室へと歩き出す。
………そういえば、サエは何を言おうとしてたんだろう?
……
…まぁ、後で聞くか。
そして、面談室から出てきた俺の戦意は軽く喪失していた。今は実行委員室でぐだ〜っとしながら英気を養っている。
というのは、聞かれたので(理想の)志望大学を言ったら担任が「おい、期末はどうか知らんが今のままの成績じゃそれは厳しいぞ。」と口火を切り、それから延々と勉強に対するなんだかんだを聞かされた。
とりあえず、簡単にまとめると、『俺じゃその大学は不可能に近い』ってことだった。
一応模試とかには自分のレベルでも行けそうな大学の名前は書いているんだけど、志望校を書く欄が一個余るといつもその大学の名前を書いている自分がいる。
サッカーもそこそこ強いし、家からも1時間以内で行けるいいところなんだけどな〜…
大きなため息を一つつくと、実行委員室のドアが開いてサエが入ってきた。
「あらケン…ってどうしたの…?」
「いやぁ、現実の儚さを知ってね…」
と俺は今までの経緯をサエに話した。
どんな罵声が来るのだろうか、はたまたどんな慰めの言葉がかけられるのだろうか。
そう思いながらサエの一言目を聞くと、
「志望大学、ケンと一緒だね!」
だった。
サエのレベルだったらその大学は行ける。
だけど俺のレベルだと、厳しいものがある…
「いいよなぁサエは…」ちょっと拗ね気味に言うと、
「わ、私だってケンと一緒のところ行きたいんだよ…」と顔を真っ赤にしながら言った。
「俺だってその大学にサエと一緒に通いたいよ〜。」
本音をポツリと漏らす。
「じゃ、じゃあ!夏休み中私と勉強しよっ!」
その言葉を聞いて、サエが嬉しそうに提案してきた。
何で嬉しそうに提案してきたのかは分からないが、俺としては大大大大歓迎だ。
夏期講習にぶち込まれそうになっている俺は塾に行かされなくても済むし、それにサエに数学を教えてもらった中間テストは数学だけだが点数がよかったのだ。
「ホントか!お願いします、サエ先生!」
「うん!」
そのとき見せたサエの笑顔はとても輝いていた。
これまでの高校の夏休みはサッカー漬けだったが、俺の夏休みに初めて色がつきそうな、そんな予感がした。
…まぁ、勉強なんだが。
健人の夏休みは、冴子との勉強漬けとなるのか…?
感想お待ちしております。