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第二一話

真壁冴子視点 です。

若干緊張したケンが応接室に入った後をついていく私。

「遅れてすいません。学園祭実行委員長の副島健人です。」

続いて、私も自己紹介しようとする。

だけど遮るように聞こえてきたのは、女の子の声だった。

「こんにちは、健人さん。」

「彩さん!」

その言葉と同時に前にいたはずのケンがすっと視界から消える。

ケンが消えたほうを見てみると、ソファーに座るケン。そしてその反対側には、私が知らない女の子3人がいた。

ケンに話しかけたのは、あのキレイな子。

私とおんなじくらいだろうか?

だけど今私の心を支配していたのは、なんだか腹立たしい気持ち。

ケンのことを下の名前で呼ぶのは私ぐらいしかいない。

だけど彼女は、確かに「健人さん」と呼んだのだ。

むぅ、と顔をしかめながら楽しそうに話している4人のほうを向く。が、全然私に気づく気配が無い。

「同じく副委員長、真壁冴子ですっ!」

ちょっと大声で、ケンの隣に音を立てて座る。

なんだかそんな気分なのだ。

するとケンが私の耳元に口を寄せてきた。

「な、なぁ、なんか怒ってる…?」

「んなわけないでしょっ!」

「いや、でも…」

「怒ってないって!」

「う、うん…」

私はプイッとそっぽを向く。その後ろで困り果てるケンの顔が目に浮かぶ。

そんなケンに助け舟を出すかのように、さっきの女の子が口を開いた。

「もしかして…健人さんの幼馴染の方ですか?」

「え、ええ!」

私との空気に耐えられなくなったのか、そっちの話題に飛びつくケン。

「私、○○高校の学園祭実行委員長の、今野彩です。よろしくお願いします。」

その言葉が、私に向けられていると気づくには、数秒かかった。

「こ、こちらこそよろしく…」

チラッと彼女を見てから、また視線を元に戻す。

ケンはそれで挨拶が終わったと思ったのだろうか、何か話し始めた。

だけど私の頭には内容は入ってこない。

彼女が「健人さん」と呼んだことがまだ頭に残っている。

そしてそれに何の抵抗も見せなかったケン。

応接室の窓からのぞいた空は、さっきとは全く違う、雨が降りそうな曇り空だった。






その後私たちは、ケンの提案で私たちの仕事場所へと向かうこととなった。

前を歩く4人を見ながら、一人で「むぅ…」と唸る私。

窓の外を見ながら歩いていたので、隣に人がいたのには気づかなかった。

「真壁さん、でしたっけ?」

その声でわれに戻った私は、右を見る。

そこには例の彼女、今野彩、がいた。

「な、何?」

何とか返答する。突然話しかけられたことと、彼女に話しかけられたことに驚きながら。

「もしかして…怒ってます?」

「べ、別に怒ってなんて無いわよ!」

ちょっと大声を出してしまった。が、ケンは気づく様子も無い。

ホッとするのもつかの間、また彼女がしゃべりかけてくる。

「私が健人さんと仲良くしてるからですか?」

「ち、違うって!」

彼女の言っていることは、完全に図星。

ケンが彼女と仲良くしているのを見ると何故か腹が立つ自分がいるのだ。

「真壁さんがそう思ってるって分かりますよ。真壁さん、健人さんのこと好きでしょう?」

これも図星。

彼女は小声で言ったみたいだが、私の顔を真っ赤にさせるには十分な威力だった。

「な、何を根拠に…」

この言葉も、次の彼女の言葉で完全に破壊された。

「分かりますよ。だって、私も健人さんのことが好きですもん。」

彼女―今野彩―は、そういってケン達に合流した。

その場に呆然と立ち尽くす私。何がなんだか分からない。

私は立ち尽くす。何もかもに、呆然として。






彼女たちが仕事場に行くと、そこにいたうちの学校の男子は燃え上がった。

緑君なんかは真理っちに顔をつねられていたけどね。

その面白い映像が頭の中に流れる一方で、彼女のことを考えている私もいた。

さっきのはなんだったんだろう…

「おいサエ、聞いてるか?」

ケンの言葉でハッと気づく。そうだ、ケンや真理っちや緑君、そして彼女たちと昇降口にいたんだった。

ケンが彼女とあんなに仲良くしているのを見た後じゃ、いつものようにケンに接せない。

「き、聞いていなかったけど悪い!?」

「そういうことじゃなくて…サエ、傘持ってる?」

「へ?」

昇降口から外を見ると、既に雨が降っていた。

あんなに晴れだったのに…

「持ってないわよ。」

「そっか。じゃ、俺の傘に入ってけ。」

「うん…って、えぇっ!?」

今ケンに言われたことが頭の中をぐるぐる回る。

一緒に傘に入れ?ってことはつまり、相合傘とかいうやつ…だよね?

嬉しいんだか驚いているんだか自分でも分からない。

「そんなに俺と一緒が嫌か?」

「し、しょうがないわねっ。入ってあげるわよ!」

そういってケンの隣にぴったりと寄り添う。

自分の心臓が凄い音を立てているのが分かる。

ケンは黒色の傘を開き、「ほら行くぞ。」と、ぴったりとくっついている私を遠ざけたりすることもなく、歩き始める。

「冴っち、お幸せにね〜!」

声の方向を見ると、真理っちが緑君と一緒の傘の中から叫んでいた。

その後ろには彼女、今野彩。

私は、彼女がなんだか複雑な表情をしているのが見えた。

そんな彼女たちを背にしながら、そのまま無言で校門を出る。

だけど心の中は、すっごい興奮。ケンと同じ傘の中にいるんだから。

「なぁサエ、何か怒ってる…?」

急に口を開いたケン。

「べ、別に怒ってなんかないわよ…」

「ホントか…?」

「なんでそんなに疑うのよ?」

「いや、だって…」

サエがいつものように話しかけてくれないから、とケンは言う。

何て答えればいいのかわかんなくて、むぅと唸りながら反対側を向いていると、ケンが急に謝り始めた。

「ごめん、サエ!」

「な、何が?」

「えっと、サエが怒ってることに対して…」

「だから怒ってないって!」

「お詫びに何でもするから!」

ピクッ、と私の耳が反応する。

何でもする って言ったわよね?

自分の記憶に確認しながら、何してもらいたいかを考え始める。

「じゃ、じゃぁ…」

思いついたけど、いざ自分で言うとなると恥ずかしい。

「こ、今度の休み、遊園地に連れてって!」

「は?」

「わ、私に2回も言わせる気!?」

なんだか恥ずかしくてケンにつっかかってしまう。

「いや、別に俺はいいけど、それでいいのか?」

「あと、ケンと2人だけで…」

自分でも顔が真っ赤になるのが分かる。

2人で遊園地デートに行きたい、つまりはそれが私の希望。ケンはデートなんていう単語が頭の中に入っているのかさえ疑わしいけれど。

「あぁ、いいぞ。」

すんなりとOKしてくれた。

その瞬間、私はあることに気づいた。

さっきの腹立たしさの原因にやっと気づいたのだ。

それは、嫉妬。

嫉妬していたから。

なぁんだ、馬鹿馬鹿しい。そんなことだったんだ。

そう思いながら、私はケンにいっそう寄り添う。

ケンはそれを何も言わずに受け止めてくれる。

明日は虹が見えそうな気がした。

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