第十九話
真壁冴子視点 です。
今、ケンがボールを蹴った気した…
私は秀と美穂ちゃんとやっているボードゲームの途中、そんな感じがして窓の外の空を見上げた。
だけど、視界に入ってきたのは一面灰色の曇り空。
今は私の家でうちの家族とケンの家族とで私の誕生日パーティーをしている。
お昼ぐらいから始まって、今はもう夕方。
最初は皆で私のことを祝ったり話したりしていたけど、
2家族の両親は食卓に座って缶ビール片手に楽しく宴会中。
なので未成年の私たちはソファーに座って3人で遊んでいるのだ。
「ん、どうした姉貴?」
私の様子に気づいたのか、秀がサイコロを振りながら聞いてくる。
「いや、何でもないわよ。」
「冴子お姉さん、うちのお兄ちゃんのことでも考えてたんじゃないの?」
図星。
ちょっと焦っちゃうでしょ…!
「べ、べつにケンのことは考えてないわよっ!」
そういうと秀と美穂ちゃんは顔を見合わせてニヤニヤし始めた。
「な、何なのよっ2人とも!」
「「いや〜、別に〜?」」
なんだか悔しくなってきた。
とそのとき、家の固定電話が鳴った。
「あ、俺取るよ。」
秀がソファーから立ち上がって電話の子機を取る。
「もしもし…あ、健人兄さん!?」
その言葉に私の胸は踊る。ケン、試合終わったのかしら?
「うん、うん、うん…分かった。うん。じゃ、気をつけてね!」
ガチャン、と電話の子機を置いた秀。
「で、ケンは何て言ってた!?」
気づけば、思わず前のめりになっていた。ちょっと恥ずかしいかも…
「あぁ、今から電車に乗るって。だから…あと1時間くらいじゃない?」
「ふぅん…」
まだ来ないんだ、早く来てほしいなぁ、ケン… って、何思ってるんだ私!
私は動揺を隠しながら答える。
その後の一時間が、私は永遠に感じられた。
ボードゲームを片付けて、秀と美穂ちゃんがお菓子を食べながら話している横で私は一人TVを見ていると、聞き覚えのあるメロディーが耳に入ってきた。
「あ、誰かからメールだ…」
私の携帯が鳴っているのだ。画面を見ると、ケンからだった。
『もうすぐ着くよ。待たせてゴメンな。』
私はケンに早く会いたい一心で、ソファーから立ち上がって玄関の外でケンを待った。
「ちょ、姉貴、どこ行くのさ!?」
「大丈夫、すぐ戻ってくる!」
皆にはそう言って。
空を見上げると綺麗な夕焼け。
さっきまでの曇り空はどこへいったのだろうか。
そんなことを考えていると、後ろから聞き覚えのある声に私は呼ばれた。
「サエ。」
「ケン!」
後ろを振り向くとケンの姿。
「悪ぃな、遅くなっちゃって。サエが言ったとおり『絶対』来たぞ?」
「うん、ありがとっ!」
ケンはそういった後、悲しそうに目を右上にやった。
「だけど…試合は、負けちまった。PK戦までいったんだけどな…」
私は何もいえない。
ケンが、すべての情熱をサッカーに傾けていることを知っているから。
夕焼けにケンの悲しげな姿が映える。
どうするべきかな…?
でも私は私らしく。
「ほらっ、クヨクヨしない!」
「うわっ!」
俯いていたケンは背中をたたかれてびっくりした様だ。
「ケンらしくないぞっ。それに、今日は私の誕生日なんだから!ケンがそんな暗いのは私が許さないぞ!」
ケンは私の顔を見て微笑む。
「そうだな。サエの誕生日なんだし。」
「うん!じゃ、家に入ろうか!」
私がケンに背を向けて家に戻ろうとしたとき、ケンに手をつかまれた。
「サエ、ちょっと待って。」
「え…」
急に手を握られたのでドキドキする。不覚にも。
「2人だけのときに渡しておきたくて…ほらコレ、俺からのプレゼント。」
ドキドキがとまらない私をよそに、ケンはカバンの中からかわいらしい袋を取り出す。
「うわぁ、開けていい?」
「もちろん。」
中からはかわいらしい銀色のブレスレット。
私はそれを左手にはめる。
ブレスレットが夕日を反射してキラキラ輝いている。
「とっても可愛い!ケン、ありがとう!」
「気に入ってもらえて良かったよ。」
そしてケンは私の左手を取って、こういった。
「さぁ、行こうか?」
夜の11時ぐらいになっただろうか。
食卓の両親は皆寝息を立てている。
今まで未成年たちでゲームをしていたが、秀と美穂ちゃんは寝てしまった。
なので起きているのは私とケンだけ。
私はベランダのウッドデッキに腰掛けて、星空を眺める。
「サエ、何やってんの?」
「ん、星を見てるの。」
ケンはそういうとリビングからベランダに出てきた。そして隣によっこいしょと座る。
今まで意識してなかったけど、こういう状況、ちょっとドキドキする。
なんたって、隣に座っているのは結構なイケメンだったりするんだもん。
「星、綺麗だな。」
「うん。お昼は曇りだったけど、晴れてよかったね。」
「あぁ。」
無数もの星と静寂に包まれている私たち2人。
この空間は、なんだか不思議だ。
「ねぇ、ケン。」
「ん?」
「私って、変わったと思う?」
これはよく言われることだ。
特に誕生日になると、『大人になったわね〜』とかそんなことをいわれたりする。
だけどケンは、違うことを言った。
「いや、全然。」
「え?」
驚いてケンの顔を見る。
「『真壁冴子』は変わったかもしれないけど、俺の隣にいる『サエ』は昔のままだぜ。」
星を見ながら続けるケン。
「元気良くて、活発で、可愛くて、頭も良くて、でも気が強くて、だけど優しい、そんなサエはずっと変わらないで俺の隣にいる。」
ケンは私の顔を見る。
「だから、全然変わってない。って俺は思うよ?」
ニコッと微笑むケン。
あ。
私、いまやっと気づいた。
ケンに、恋してる。
いつもならこんなことは認められないけど、今ならすんなり認められる。
元気良くて、クールで、カッコよくて、でも鈍感で、勉強はよくできるって訳じゃないけど、優しくて、全部を包んでくれるケンに恋してるってことを。
「…ありがと。」
私はケンの肩に頭をもたれる。
「ど、どうしたサエ?」
「もうちょっとだけ、このままでいさせて…ね?」
一瞬の静寂ののち、ケンが口を開いた。
「…あぁ。サエの気が済むまで、俺の肩でよかったらいくらでも貸すぞ。」
ありがと、ケン。
見上げた星は、さっきより綺麗に、瞬いて見えた。
ケンも同じ星を見ているのかな。
次の日、ある2家族8人が皆同じ時間に起きて、
皆同時に
「遅刻だぁ〜!」
と叫んで家を飛び出していたのは、別の話。