表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/54

第十七話

副島健人視点 です。

サエの誕生日とサッカーの大会が一週間後に迫った日曜日。

俺はこの日、サエの誕生日プレゼントを買いにいく。

そのために今野さんと待ち合わせをしているのだから。

服は適当でいいかな、と思ったけれど、自分で選ぶと笑われそうなので

この前美穂が選んでくれた服にした。

サエからの評判もよかったし、多分大丈夫だろう。ウン。

と思いながら駅の改札の外の柱によっかかりながら音楽を聴いていると、改札から今野さんが出てきた。

「こんにちは、副島さん。」

「こんにちは。今日は俺の用事につき合わせちゃって…スイマセン。」

「いえ、いいんですよ。」

やはり制服姿の彼女しか見ていなかったからなのか、私服を見ると変にドキドキしてしまう。

しかも、目の前にいる女性がその辺を歩いている女子高生とは比べ物にならないくらい美人なのだから。

そんな俺に気づいたのか、今野さんは声をかけてきた。

「あの…なんか、変でしたか?」

「とんでもない!すっごい、似合ってますよ。」

「あ、ありがとうございますっ。」

今野さんは頬を赤らめて言う。そんな姿もまた見ていてドキドキしてしまう。

「じゃ、行きましょうか。」

2人で並んで歩いていると、今野さんが不意に口を開いた。

「あの、お願いがあるんですが…」

「はい?なんですか?」

「あの、えっと、その…今日だけでもいいので、私のこと、『彩』って呼んでもらえませんか…?」

俺はキョトンとする。

正直、そんなこと言われるとは思ってなかったから。

『行きたいところがあるんです』とかじゃないかな〜と思っていた俺の予想はあっけなく裏切られた。

「…ダメですか…?」

「そんなことないですよ。『彩』さん。」

彼女は頬を赤らめる。

「俺だけ呼ぶのも何なんで、俺のことも『健人』で呼んでくださいね?」

すると今野さんはうれしそうに顔を上げて、

「はいっ!『健人』さん!」と答えた。

今日は雲一つない快晴。

見上げた空は、どこまでも続きそうだ。




「それで、年頃の女の子ってのは、何が好きなんですかね…?」

ショッピングモールの中にある女の子のためのアクセサリーショップで俺はつぶやいた。

ここの第一印象は、俺が来てはならない場所。

女の子に特化した店だった。今野さんがいなければ足を踏み入れることさえもできなかっただろう。

「女の子の好みとか、全く分からないんですよね…」

「あ、これなんてどうですか?」

と言って薦められたのは、可愛らしい銀のブレスレット。

そうだな、過去にサエにブレスレットはあげたことが無かったな…

「よし!ブレスレットにする!」

「え、いいんですか…?」

自分の提案がすんなり通ったことに若干驚いている今野さん。

「ええ。こういうのは俺が選ぶより彩さんに選んでもらったほうがいいですからね。」

「そうですか。お役に立ててよかったです。」

俺は選んだブレスレットを手に取り、会計へと向かう。

そうだ、今野さんにも今日のお礼として何かあげたほうがいいかな…

あげたほうがいいか…

「あ、彩さんは店の外で待っててください。会計してきますから。」

「はい。」

今野さんが行ったのを確認すると、さっき店内をウロチョロしていて目に付いたキーホルダーをサッと手に取る。

「これ、包装は別々に、お願いします。」




あっさりと俺の用事が終わった。

「俺の用事終わったんで、彩さん、どこか行きたい所あります?」

「わ、私ですか?」

「ええ。俺にお付き合いしてもらったお礼に、お付き合いしますよ。」

そういうと今野さんはちょっと考える素振りを見せる。

「え〜っと…あの、ゲームセンターとかどうでしょうか…?」

「ゲーセンですか?」

驚いた。

今野さんがそういうところに興味あるとは思わなかった。

見た感じ、いかにも、おとなしそうな美人という感じなのだから。

サエが行きたいっていうのはサエが元気そうで可愛らしい女の子という感じだから自分の中で納得できるのだが。

俺の先入観がイカれているだけなのか?

「はい、一回も行ったことが無くて…」

だから行きたいって言ったのか。

「ええ、じゃあ彩さん、行きましょうか。」

きらびやかな装飾とにぎやかな音楽が俺らを出迎える。

「へぇ〜、こんなところなんですか〜…」

今野さんは周りをキョロキョロ見ながらつぶやいた。

「じゃ、なんかやりません?シューティングやレース、音楽ゲームにホッケーとかありますよ。」

「そうですね。じゃあ、健人さんのオススメで…」

それから俺らはいろんなゲームを楽しんだ。

今野さんは初めてだということもあるのか、その横顔はとても楽しんでいるように見えた。

純粋にうれしい。

俺が連れてきた甲斐があるってものだなぁ。




でその後、俺らはお茶したりウィンドウショッピングをしたりして時間をつぶした。

今は駅のホームで電車を待っている。

俺が乗る電車のホームは反対側なのだが、こうするべきだろうな〜と思ってこっちに来ました。ハイ。

「彩さん、今日はありがとうございました。」

「いえ、私こそ。すごい楽しかったです。」

「俺もですよ。」

今日のことを2人で話していると、今野さんが乗る電車がやってきた。

風が俺ら2人を包む。

「そうだ、彩さん。」

俺は今野さんにかわいらしい袋を差し出す。

はじめにアクセサリーショップで買った、キーホルダーが中に入っている。

「今日のお礼といっては何ですが…開けてみてください。」

「あ、はい…わぁ!すっごく可愛い!」

今野さんはストラップを手に持ってうれしそうに眺めている。

そんな姿を眺めている俺の気分は、明るかった。

「健人さん、ありがとうございます!」

「気に入ってくれました?」

「はい、もちろん!」

電車の扉が開く。

「あ、では…」

「ええ。彩さん、気をつけて帰ってくださいね。」

今野さんは扉付近に乗り込み、俺も近づく。

「健人さん、あの…」

「はい?」

「もし良かったら、今度も誘ってくださいね…?」

頬を赤らめながらの今野さん。

思わず見とれてしまう。ドキドキがとまらない。

だから俺は、本心からこう答えた。

「ええ。もちろん。」

空はきれいな夕焼けだった。

どこまでも、どこまでも行けそうな。




で翌日。

俺はサエと珍しく余裕を持って登校して、机に突っ伏して寝ていると、

「副島〜っ!」

坂上に背中をたたかれた。

「な、なんだよ…」

眠りを妨げられた俺は若干不機嫌だ。

「昨日、誰か女の子と一緒にショッピングモールいなかった?」

昨日の出来事が頭によみがえる。

ヤバッ!バレてる!

「も、もしかして、サエもそれ知ってるか…?」

「ううん。昨日は私と朋樹の2人で行ったから。冴っちは知らないよ。」

「よかった〜…」

安心した俺は再び眠りにつこうとする。

と、目の前に急に出現した坂上と緑に言われた。

「で、あの女の子は誰なの?」

うわぁ…

説明しなきゃだめですか…

というか緑、自分で墓穴掘ってるぞ…?

「俺の友達で、…」

このあと、俺の説明はホームルームが始まるまで、延々と続いた。

この朝で1日分の気力を使い切った。




その日の実行委員会からの帰り道。

俺はサエを後ろに乗せて、自転車をこいでいる。

「なぁサエ。」

「ん?」

後ろから聞こえるサエの声。

「毎年恒例サエの誕生日パーティーだけど、俺、その日サッカーの試合があって…」

「うん、知ってるよ。」

サエの声がさっきより寂しげに聞こえたのは気のせいだろうか。

「…でも俺、試合に勝って、絶対行くから。」

「…ホント?」

俺は上り坂を見ながら答える。

「うん。だから待っててくれ。」

「…分かった。絶対だよ!絶対試合に勝って、そして来てねっ!」

サエの声に元気が戻ったと感じるのも、気のせいだろうか。

「あぁ、勝って、サエに会いに行く。」

俺はそう呟いて、ペダルを思いっきり踏んだ。

勝って、サエに会いに行く。

俺の背中にギュッとしがみついている、サエのために。

感想お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ