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第十五話

副島健人視点 です。

それから2〜3日しただろうか。

俺は今日、なんだか幸せだった。

別に嫌いな数学の授業が無いわけではない。今日は太陽がまぶしいポカポカ陽気だけど、それでもない。

今日のお昼が好きなパンだから、というわけでもない。学校に来るまで信号に一度も引っかからなかった、というわけでもない。


サエが学校に戻ってきたから。


朝いつものように遅刻寸前で教室に入ると、昨日まで誰も座っていなかった席に人だかりができていた。

そう、サエの席だ。

「冴っち、もう大丈夫なの?」「真壁さん、元気になったんだね!」「副委員長の疲れとか?」

「ちょっと、私は聖徳太子じゃないから、いっぺんに話されてもわかんないよ…」

人だかりの真ん中には苦笑するサエがいた。

よかった、元気になったんだ。

そう思って一歩を踏み出そうとすると、ちょうど後ろを向いたサエと目が合った。

何か声をかけようか、いや、そのまま歩き出すべきか。

一瞬のうちにそんな考えが頭の中を交錯する。

しかし体は、頭でそんなことを考えているのはお構いなしにサエに手を振っていた。

サエも同じようにする。

俺はそれを見て、自分の席へと右足を踏み出した。

サエの席の周りが一段とにぎやかになったのは、何故だろうか?

窓側の俺の席には、やさしい太陽の光が差し込んでいた。



今日の放課後は、珍しく部活も委員会の仕事も無い。

これはラッキーと思い、俺はサエに放課後何処か寄らないかと誘った。

勿論、テスト勉強を見てもらったお礼だ。

「どこか連れてってくれるの!?」

サエは俺の提案を聞いたとき、うれしそうな顔をしながら言った。

「あぁ。また何かおごってやるよ。テストの際は世話になったし。」

「ホント?行く〜っ!」

そんなサエの笑顔を隣で見ていた坂上。

「よかったじゃ〜ん、冴っち〜!王子様と〜!」

「ち、違うって!違うわよっ!」

何が?と思いながら、やはりこの状況を見ていた緑に話しかける。

「最近、坂上とはどう?」

「うん、まぁまぁだよ。」

「とか言いながら、この前女子高に興奮していたのはどこの誰かな〜?」

と小声で囁くと、緑は顔を真っ赤にして俺に頼み込んできた。

「そ、副島、それだけは勘弁してくれ…」

「ハハハ…大丈夫だって。俺の気が変わらないうちは。」

最後の一言は冗談で言ったつもりだったのだが、緑は真に受けたみたいだ。

俺の気があと数秒で変わると思ったのだろうか。

緑は急に立ち上がり、坂上の手を強引につかんであくまで冷静を装いながら、

「なぁ、どっかいこう?」と行って教室を出て行った。

坂上は嬉しそうに返事をしていた。

俺にはそんな緑の行動が俺から逃げるようにしか見えなかったので、笑いを堪えながら一連の流れを見ていた。

そして気づくと教室にはサエと俺だけ。

「…んじゃ、俺らも行く?」

「そうだね。いこっか。」

俺らは夕日が差し込んできた教室を後にした。




結局俺らが行ったのは、駅前に新しくできたドーナツ屋。

新規開店だけあって店の外まで人が並んでいる。

女の子は甘いものに目がないと言うからなのか、見た感じ女子高生が多い。

俺はそこに並ぶのをなんとなく躊躇っていたが、サエがすいすいと並ぶのをみて慌ててついていった。

「すごいな〜…」

「ん、何が?」

「いや、サエも、女の子なんだなぁと思って。」

「あ、当たり前でしょっ!」

当たり前だった。太陽は東からのぼるという事実ぐらい当たり前だった。

それからサエは、配られたメニューを見てこれがおいしそう、あれもおいしそうなどと幸せそうに俺に話しかけてきた。

「ね、これおいしそうじゃない?」

「あぁ、食べてみたいかも。」

「あ、でもこっちも…」

俺は店先のガラスに映った幸せそうな表情で悩むサエの姿を、じっと見ていた。

それから20分ぐらいして、やっと店員の前まで来た。

サエが食べたいドーナツを言って、店員がレジに打ち込む。

勿論、払うのは俺だ。なんたってテストの際には世話になったからな。

…しかし、払い終えた後の財布の中身があまりにも乏しすぎることに気づいた。

軽くブルーになりながら、ドーナツを持って先に席に座っているサエの元へ行く。

「じゃ、いただきま〜すっ!」

「なぁサエ、俺の財布の中身が…」

「うん!これおいしい!」

まったく聞いていないようだ。

そんなサエになんか意地悪をしてみたくなった俺。

サエが今にも食べようとしている最後の一口のドーナツをヒョイと右手で奪い、俺の口の中に運ぶ。

「あ〜!!!ケン〜!!!」

「ははは、ごめんごめん。」

「んも〜っ!」

サエはそういいながら次のドーナツに手を伸ばす。

ドーナツを取った瞬間、急にサエの手がとまった。そして小声で何かを呟きだす。

「もしや、あれって…」

「あれ?」

「か、かん、かん、かんせ、かんせ…」

そう言ったかと思うと、サエの顔が真っ赤になった。

それを隠そうとしてなのか、サエはドーナツにカプリ。

何だか可愛らしいな…

っと、何考えているんだ、俺。

ちょっと冷静になるために、俺はトイレへと行った。

そして男子トイレの扉を出たところで、俺は誰かに呼び止められた。

「副島さん?」

「今野さん!」

他でもない、今野さんがいた。

「あれ、今日はどうしてここに?学校の最寄り駅と離れてますよね?」

「新しいお店ができたと聞いたので、皆で学校帰りに来たんです。」

今野さんの指差す方向を見ると、今野さんと同じ制服の女子高生が3〜4人。

やっぱり女の子だなぁ。

「副島さんは一人できたんですか?」

「いやいや、ここに男一人はキツいですよ。」

「そうかもしれませんね。」

今野さんが見せる笑顔に見とれていた自分に気づく。

何やってんだよ、俺。

「あそこにいる、俺の幼馴染と来てるんですよ。あっ、あいつは学園祭の副委員長ですよ。」

俺はサエの方向を示す。

「も、もしかして、彼女さんですか…?」

今野さんが急に変なことを聞いてくる。

「違いますよ!単なる幼馴染ですよ。」

「よかったぁ…」

「何がですか?」

「い、いえ、何でもありません!」

なぜだかアタフタしている今野さん。

「じゃ、ちょっとあいつを待たせすぎるのもアレなんで。」

「はい。お会いできてよかったです。」

「こちらこそ。」

俺らはそういって別れた。そして元の席に戻る。

「遅かったね。」

ドーナツにパクリ、としながらサエが聞いてくる。もう顔は赤くないみたい。

「あぁ、ちょっとね。」

今野さんのことは話さないでもいいか、そう判断した俺は何事も無かったかのようにまたサエのドーナツを失敬していた。

「ケ〜ン〜!!!」

「いいじゃんちょっとぐらい〜…」

ドーナツの穴からのぞいて見えたサエの顔は、やっぱり笑顔。

俺はそれだけで、よかった。

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