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第十二話

副島健人視点 です。

突然だが、俺はサッカー一筋だ。

この高校生活、サッカーで生きてきたつもりだし、残りの高校生活もサッカーですごしていきたい。

何より、俺ら最後の大会もある。

頭の中は、サッカーしかない。朝も、昼も、夜も、そのつもりだ。

だから…

だから…


俺、この数学の問題、分かんない。


「バカじゃないのケン!さっきの応用よ!」

「うっ…返す言葉もありません…」

ここはサエの家。

俺は目前に迫った中間テストを何とかして乗り切るため、サエに勉強を教えてもらっている。

サエはいつも成績上位者に名を連ねるが、俺はお世辞にも成績がいい…とは言えない。

ここで補習に引っかかってしまうと、サッカーの練習ができなくなる。

ということで、流石に危機感を感じた俺は、サエに助けを求めたのだ。

ちなみに、緑と坂上も一緒にいるが、その2人は向こうで2人だけの空間を形成している。

勉強という目的で集まったのに、たのしそ〜にお喋りをしている2人。

見てて何だか腹が立つのは俺だけか?

…そんなことはどうでもよくて。今は俺の大の苦手科目、数学をサエに教えてもらってる。

「だからね、ここの文字はこういう風に展開するとこうなって…」

「ほぅほぅ…」

サエがノートにさらさらっと数式を書き込むのを、顔を近づけて見る。

「…最終的にはこうなるわけ。分かる?」

「あぁ、なんとなく…」

そういって俺はサエのほうを向く。

と、サエもちょうど俺のほうを向いた。

しかし、サエはノートに書くためある程度顔を近づけて、俺はそれを見るため顔を近づけていたわけで…

必然的に俺らの顔の距離は狭まる。

で今、向かい合ったところでそれを実感した。

俺の頬が熱くなるのを感じる。

「さ、つ、続きするわよっ!」

「お、おぅ!」

俺らはその後、まともに顔をあわせられなかった。

恥ずかしくて。

窓から差し込んでくる夕日のせいか、サエの顔も赤く見えた。


そしてついにやってきたテスト。

一日目、しかも最初の科目があろうことかまさかの数学。

教室で、俺は最後の悪あがきをしていた。

いや、決して悪あがきではない。復習だ、復習。

「………」

公式を呪文のように暗唱する俺。

すると、目の前に誰かが座ったのが感じられた。

「どう?いけそう?」

サエが俺の勉強のはかどり具合を見に来てくれたみたいだ。

「うん、まぁまぁ。サエに教えてもらったからね。」

「でしょ?私が教えたんだから!」

「あ、そういえば、ここわかんないんだけど…」

「え〜っと…あ、これはここの式をここに代入してみると…」

「なるほど!」

どうやらサエ先生の数学特訓のおかげで、勉強始めたころよりはだいぶ学力がアップしたと思う。

サエにヒントをもらうだけで分かった今が証拠だ。

「ケン、最初に比べたらすごい進歩してるじゃない!」

「だろ?俺が勉強したんだから。」

「…似たもの同士だ…」

そんなやり取りを見ていた緑が呟いた。

俺とサエは声を合わせて言う。

「「うるさいーっ!」」


で、結局、何とか無事…では無いがテストは終わった。

数学もそれなりにかけて、少なくとも赤点は逃れられるだろう。

他の教科もサエ監修の元、みっちり勉強したから多分大丈夫。

よぅし、また今度お礼も兼ねてサエに何かおごってあげようかな。

テスト最終日の放課後、会議室で仕事をしながら俺はそう思った。

役員の皆も、テストが終わったからかいつもより元気そうだ。

隣のサエを見てみると、普通そうに仕事をこなしている。

「なぁサエ、テスト勉強の手伝いしてくれてありがとな。」

「ううん、いいのよ。」

「だから今度、お礼として何かおごって…」

その瞬間、俺の視界からサエが消えた。

しかし、すぐにサエは見つかった。だけどさっきまでと違う姿で。

サエは机に突っ伏していた。真っ赤な顔で。

会議室の皆が騒然となる。

もしや…

俺はそう思い、右手をサエの額に当てた。

…とっても熱い。高熱を出したようだ。

俺のテスト勉強を見てくれて、しかも自分のテスト勉強もして。

さらにテスト前までは俺と一緒に遅くまで学校に残りながら仕事もして。

疲れがたまってしまったのだろう。

「真壁さん!」「真壁!」「冴っち!」

俺はサエと顔の高さを一緒にして話しかける。

「サエ、大丈夫か?」

「…うん、なんとか…」

心配をかけまいと、強がっているのか?

「今から保健室連れてくから、待ってろよ。」

「…ありがとう、ケン…」

相当疲れていたのだろう。弱弱しい声がそれを物語っている。

「じゃあ、今からサエを保健室に連れて行くから。」

俺がそういって席を立ち上がろうとすると、「副島。」と声をかけられた。

その方向を見ると、そこには緑。

「お前ら、今日はもう帰れ。」

何を言うかと思えば。

「は?何言ってるんだ?俺は委員長だぞ?」

「だからだよ。毎日、俺らが帰った後も仕事やってたんだろ?真壁はそれで倒れたんだと思う。」

「ま、まぁそうだが…」

「後は俺らに任せて、今日は2人とも、家でのんびりしてろって。」

緑が言うと、周りの皆がウンウンと頷く。

「でも…」

俺には仕事が、と言いかけたところ、緑がそれをさえぎった。

「お前の右腕で、パートナーが倒れたんだから、お前がすることは仕事じゃなくて看病じゃないのか?」

皆も俺らのほうをニコニコしながら見ている。

皆、俺らのことを思ってくれているんだな。今日はその言葉に甘えるとするか。

「分かった。今日は皆に甘える。すまない。」俺は頭を下げる。

「何、いいってことよ。お前まで倒れたら大変だからな。」

「そうよ。ちゃんと冴っちを家まで送りなさいよ!」

緑と坂上が微笑みながら言う。

「ごめん。皆、後は頼んだ。」

俺はそういうと、机の上に広がっていた筆記用具等をカバンに詰め込む。サエのも。

そしてカバンを肩にかけサエを両手で抱えると、もう一度皆にお礼を言った。

「副島。」

「ん?」

緑がニヤニヤしながら話しかけてくる。

「真壁を、お姫様抱っこ?」

そういわれて今の状況を思い返してみると、ウン、そうだった。

ヒュ〜と言う声がどこかから聞こえる。

おまけに、坂上はこんな状況も携帯のカメラで撮っている…

とにかく今は、そんなことを気にしている場合じゃない。サエの体調が悪化しないうちにサエの家に。

「じゃーな。後は任せた。」

俺はそういうと、部屋を飛び出して廊下を走っていった。

自転車を出し、サエを俺にしがみつかせる。

サエもわずかながら意識はあるようで、弱弱しい力でぎゅっと俺にしがみつく。

「サエ、後ちょっとだから。我慢してくれ。」

「うん…ケン、ありがと…」

「…あぁ…」

そういうと俺は、サエの家へと自転車をこぎ始めた。

サエ、元気になってくれ。

久しぶりにまだ太陽が出ている時間帯の帰宅。

気づくと俺は、そんな太陽にサエの笑顔を重ね合わせていた。

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