第十一話
副島健人視点 です。
「緑、イベント部門で必要な予算はこれでいいか?」
「あぁ、いいぞ!」
「委員長、高1の予算と企画内容がまとまりました!」
「おぅ、ありがとう。高2もできたら持ってきてくれ。」
「お〜い副島、スポンサーの会社ってこれだけだっけ?」
「ん〜…いや、足りない。ちょっと見直してみて!」
「おっけ〜!とりあえず過去3年分の調べてみるわ!」
「ねぇケン、バンドの募集が思った以上にきてるんだけど!」
「目を通しておいてくれないか、サエ。後で俺も手伝うからさ!」
「わかった!」
放課後。
会議室は役員であふれている。
本格的に始動した学園祭実行委員会、そして最終決断を下すのは俺。
恥ずかしながら、今日やっとその実感がわいてきた。
全ての案件は俺を通さなければいけないらしい。
ということで、今俺のチェックを待つ案件が殺到している。
これでも俺、すごい頑張ってるほうなんだけどな〜…
目の前に並べられていく書類を見るとなんだかゲンナリする。
しかし、サエや緑たち皆を見るとグッタリなんてしていられない。
皆一生懸命頑張っている。俺はそれ以上に、頑張らなければならない。
「ケン?ケン?」
我に戻ると、サエが俺の頭をパシパシたたいていた。
「ん…どうした?」
「いや、何だかボーっとしてたみたいだから。気分悪かったら無理しなくていいんだよ?」
「あぁ、大丈夫。心配かけてごめん。」
俺は元気であることをアピールするため、サエに笑顔を向ける。
たぶんサエはボーっとしていた俺を見て、『どこか具合が悪いのか』と心配してくれたのだ。
「べ、別に、ケンが委員長だから心配したんだからね!」
サエはそういうとあわてて書類に目を戻した。
「冴っち、素直になりなよ〜?」
「ち、ちがうもん!」
こんな中でも、サエと坂上は元気だ。
その力を半分俺に分けてくれ、と言いたくなる。
それでいてしっかり仕事もやるのだから、スゴイ。
さて、俺も頑張るか。
そう思って目の前を見ると、書類がさっきより増えていた。
…ぼちぼち、やるか。
俺の溜息は、会議室内の会話によってかき消された。
「はぁ、やっと終わった…」
吐き捨てるように俺は言う。
あの後、俺とサエは『委員長・副委員長だから』という理由で
皆が帰った後も2人で残って仕事をしていた。
なので今、俺らは夜空に星がキレイにまたたくほど真っ暗な中を自転車のライトだけで帰っている。
「そ〜だね…」
「しかも明日部活じゃん…」
こんな遅く帰って、遅く寝て、体力ゲージが黄色の状態で部活出るのかよ…と思う。
「ケン、倒れないでね?委員長なんだし、サッカーだって大事な時期でしょ?」
「いや、この調子じゃぁ倒れるかも…そしたら、サエ、俺の看病しろよ。」
と冗談で言うと、暗闇だからよく見えないが、サエは急に俺のほうを見てきた。
「え!?」
「え、そんなに嫌か…?」
サエの返答に軽く凹みながら答える。
「い、いや!そんなことないよ!ただ恥ずかしかっ…」
最後のほう、何言ってるかきこえねぇや。
「とにかくっ、倒れないでね!倒れたら今でも十分大変なのにもっと忙しくなっちゃうでしょっ!」
「は〜い。サエも倒れるなよ。」
「私は大丈夫よ!きっと…。」
「きっと、かよ…」
俺らは向かい合って笑う。こんなこと言っている間は大丈夫だな、と思う。
暗闇で見えないはずなのに、俺には何故かサエの笑顔が見えた気がした。