第九話
副島健人視点 です。
手を繋ぎながら、俺らは家へと帰っている。
夕焼けがやけにキレイだ。
今日は楽しかったね〜、そんなことを話しているうちにサエの家に着いた。
「お、家の中まで荷物持ってくよ。」
「あ、ありがとう。」
そんなやり取りの後、サエの家へと入る。
ここにくるのは結構久しぶりだ。1年ぶりぐらいか?
俺が玄関でそんなことを思っていると、リビングのほうからサエの声がした。
「ええっ!?」
「ん、どうしたんだ〜?」
俺は靴を脱いで声の方向へと行く。
すると、サエは一枚の紙を見せてきた。
『サエへ
私たちは急に仕事が入ったので今日は帰れそうにありません。
なので今日は留守番をお願いします。
秀にはすでに言ってあります。
秀は美穂ちゃんのところでご飯を食べるとか言ってましたよ。
ママ』
ん〜、要するにサエの両親がサエに『今日は帰れないから頑張れ。』って言いたいんだな。
「どうしよう…」と言っているサエを横目に、俺はもう一回文を読む。
ん?うちに秀も来るのか?
「なぁサエ、秀もうちに来るみたいだし、うちで飯食わないか?」
「え、いいの?」
「あぁ。皆で食べたほうが楽しいって。」
「じゃ、お言葉に甘えて。」
そういうとサエは荷物を置いたまま、玄関へと向かった。
俺もそれにならい荷物をテーブルの上に置いて、サエを追いかける。
ウチに着くと、美穂がいた。
「おぅ、ただいま。」
「お邪魔します。美穂ちゃん。」
「おかえり〜。そういや今日、お父さんとお母さんは急に仕事入ったって。だから帰ってこないよ。」
「は〜い、分かった。」
何だかサエの家の両親と似てるな。
そんなことを思いながら俺は携帯を充電しに2階へと上がる。
すると、下から声が聞こえてきた。
「ねぇ、お兄ちゃんとデートどうだった?」
「なっ、デートじゃないわよっ!」
「またまた〜、照れちゃって〜!」
「デートじゃないんだからね!ホントだよ!」
う〜ん、2人とも元気だな。
俺は下に降りて、2人に「晩飯の材料でも買いに行くか?」と声をかけた。
「どうせ秀もくるんだろ?だったら皆の分作ったほうがいいだろ?」
「そういえば秀はどこなの?」サエが聞くと、
「あ、今は部活だって。もうちょっとで帰ってくるよ。」と美穂が言った。
「そっか。じゃ、秀が帰ってきたときのために美穂は家にいろ。俺とサエで買ってくるよ。」
「うん!で、晩御飯は何にするの?」
「ケン、何かアイデアない?」
「無い。」
「冴子お姉ちゃんは?」
「無いわ。」
「ん〜、じゃ無難にカレー!」
美穂の一言で決まった。
「よし、じゃあ行くか。」
よくよく考えれば、今日の夜は俺とサエと美穂と秀だけだな。
そんなことを思いながら、俺は玄関のドアを開けた。
夕焼けはさっきのまま、キレイなまま。
「なぁサエ、ひとつぐらい持ってよ〜。」
男だから、という理由で荷物を全て持たせられている俺。
「ほら、筋トレだと思って!頑張れ!」
「いやいや、全然筋トレじゃないって…」
こうして2人でいると、サエの笑顔が独り占めできるようだ。
まだ見えているキレイな夕焼けと、サエの笑顔。
どっちが欲しいかといわれたら、今の俺は多分『サエの笑顔』と応えるだろう。
何考えてんだ俺。
「ん?どーした?疲れた?」
サエがボーっとしていた俺を覗き込んでくる。
「いや、大丈夫。よぅし、ダッシュだ!」
俺はそういって住宅街の坂道を走り降りる。
「ま、待ちなさいよケン!ちょっと!」
そんなことを言っているサエの表情は、笑顔だった。
家に帰ると、既に秀がいた。
「おぅ、秀。」
「健人兄さん!」
「美穂ちゃんとの時間を邪魔して悪かったね、秀?」
いつものように冷やかすサエ。
「ね、姉ちゃんだって健人兄さんとイチャイ…ぐはぁっ!」
いつものように、秀がサエにやられた。
いつもの光景。
そんな光景に、笑顔がこぼれる。
「さて、カレー作るぞ!」
とは言ったものの、やはりサエと美穂は手際がいい。
俺も作れないことは無いが、手際が2人に比べると格段に劣る。
秀に至っては、料理の『り』の字も知らないという超初心者。
なので俺らは…皿を準備するぐらいしかできなかった。
「あの〜、サエ、何か手伝おうか?」
「ううん、大丈夫よ。」
「ねぇ美穂ちゃん、手伝うことあったら言ってね?」
「ありがとう。でも私と冴子お姉さんで大丈夫。」
俺と秀は顔を見合わせる。
んじゃ、お言葉に甘えて待ってましょうか。
すぐに食卓には美味そうな匂いがするカレーが並んだ。
「「おぉ、美味そう!」」
俺と秀は声をそろえて言う。
「当たり前でしょ?私と美穂ちゃんが作ったのよ?」
サエと美穂がうんうんとうなずく。
「では、いただきますか!」
俺と秀はカレーを一口。
「うん、美味いよ美穂ちゃん!」
「ホント?良かった!」
秀と美穂がイチャイチャしてる。流石カップル。
「ん…おいしい。サエ、おいしいよ。」
「そう?良かった。」
「流石サエが作っただけあるな。おいしいよ。」
「そ、そう…?」とサエは顔を赤らめてしまった。
「うわぁ美穂ちゃん、新婚のカップルが向かいにいるよ。」
「ホントだ。すごいわね。」
「「う、うるせぇ!(うるさい!)」」
秀と美穂がそんなことを言ったので、ちょっと恥ずかしくなったじゃないか。
そうこうしているうちに全ての皿が空になった。
「ごちそうさま!じゃあ、皿洗いは俺らがやるよ!」
秀はそういって俺を見る。
「お、俺も?」
「作ってもらったんだから皿ぐらい洗いましょうや。健人兄さん。」
「ま、美味かったし、そだな!」
俺らは立ち上がって皿を集める。
サエと美穂はソファーに移動してTVを見始めた。
皿を黙々と洗っていると、秀が話しかけてくる。
「ねぇ健人兄さん、今日姉貴と出かけてどうだった?」
「ん、楽しかったよ。」
正直に答える。
「デートだもんね〜!」
「ち、違うって!」そう言われると今日の全てが恥ずかしくなるだろ。
「ただ一緒に映画見て、買い物して、飯食って、ゲーセン行って帰ってきただけだって!」
「あれ、今姉貴が抱いてるヌイグルミ、ゲーセンでとったの?」
秀はサエのほうに視線をやりながらいう。
見ると、確かに俺が取ったヌイグルミはサエの腕の中にあった。
「あぁ。俺が取ってあげたやつ。」
「ふ〜ん…」秀はニヤニヤし始めた。
「な、何だよ?」
「たぶん姉貴、あのヌイグルミは宝物だな。ウン、多分そうだ。」
「え、どういうこと?」
「んも〜健人兄さん、鈍感だなぁっ!」
それで会話は終わってしまった。
宝物?そんなわけないでしょ?
とりあえずもう一回そのヌイグルミを見ると、サエが大事そうに抱えていた。
まぁ、自分があげたものが大事にされるのは見ててうれしい。
それでサエが笑顔になってるんだから、尚更。
4人並んでTVを見ていると、右肩に何かがよっかかって来た。
見ると、サエの頭。
どうやらサエは疲れて眠ってしまったようだ。
「お、サエ寝ちゃったみたいだわ。ここじゃアレだし、俺の部屋のベッドにおいて来る。」
俺はそういってサエを持ち上げる。
「お兄ちゃん、お姫様抱っこ?」
自分の状況を確認すると、まぁ俗に言うそれだった。
カシャッ
秀が俺とサエを携帯のカメラで撮る。
「な、何してんだよ!」
「ただ撮っただけ!ほら、姉貴が起きちゃうよ!」
おぉそうだ、と思って俺は部屋へとサエを運ぶ。
部屋のベッドにサエを寝かせた俺は、もう一度リビングに戻ってTVを見はじめた。
それから数時間後。サエはまだ寝ているみたいだ。
「そういや秀、泊まってくのか?」
「う〜ん、どうしようかな〜…」
「泊まってきなよ!家に誰もいないんでしょ?」
「じゃ、そうしよっかな…」
秀は泊まるみたいだ。
まぁ、2人なら一緒の部屋に泊まっても間違ったことは起きないだろう。
そう思った俺は、いつものように寝る前に風呂に入る。
風呂から上がると、リビングにはもう誰もいなかった。
のどの渇きを癒すために水を飲んだ後、さぁ今日はゆっくり寝ようと思って部屋のドアを開け、ソファーに座る。
…
完全に忘れてた。
サエがいるのを。
その瞬間、睡魔と闘っていた俺の脳はフル回転し始めた。
このまま俺もベッドに寝るか?
いや、それはマズくないか?
じゃあどこで寝るんだよ?
リビングのソファーか?
あぁ、それがいいかもな。
よし、そうしよう!
と頭の中で結論がまとまったので、立ち上がろうとすると、立ち上がれない。
見ると、俺の服の袖を、サエがつかんでいる。
起きているのかと思い顔を覗き込んだが、やっぱりまだ寝ているようだ。
しかし、これはどうすればいいのか…
袖をつかまれている以上、ここからは動けない。
じゃあサエの隣に堂々と寝るか?
それもなんか…恥ずかしい。
というか、年頃の男女がそれはまずいだろ。
でも動けない。
…
という問答を40回ぐらい繰り返しただろうか。
考えるのを諦めて、俺はベッドに入った。
隣にはサエの顔。
間近で見るとすごい恥ずかしいので、サエを壁によせ、俺は反対側を向く。
サエと一緒に寝るなんて、恥ずかしすぎるだろ…
最初はそう思っていたが、だんだんと睡魔が俺を襲ってきて、数分後には完全にノックアウトした。
次から学園祭の話します。