第一話
副島健人視点 です。
俺は夢を見ていた。
ぼんやりとしか見えないが、2人の人が向かい合っている。
なんだろう。何の話をしているんだろう。ここはどこなんだろう。
気になった俺は知らず知らずのうちに、その2人に近づいていた。
近くに行ってわかったことは、その2人が男女だということだ。
それ以外はなぜか視界がぼんやりしていてよく分からない。
男の口が動いているのがギリギリわかるが、何を話しているのか…
女の表情さえ、ぼんやりしててよく見えない。
何が起こっているのか。
気になって一歩を踏み出そうとしたとき、急に視界が明るくなった。
俺は夢を見た。
「ケン!起きて!」
微かに聞こえる、俺を呼ぶ声。
俺ははっきりしない意識の中、本能的に掛け布団にもぐろうとした。
が、それは許されなかった。
バサァッ
俺がもぐろうとしていた掛け布団が勢いよくめくられる。
太陽の光と、春の朝方の寒さを感じる。
「ん、ん〜っ、頼むから寝かせてくれ…」
「ダメに決まってるでしょ!」
俺がつぶやいた瞬間に聞こえるはずの無い声が聞こえてきた。
だって、当たり前だけど、あいつは俺んちに住んではいないんだから。
渋々目を開けると、あいつの顔が目の前にあった。
「…おはよぅ…」
「おはようとか悠長なこと言ってる場合じゃないの!ほら、あと20分で朝礼始まるわよ!」
その言葉を聴いた瞬間、俺の目が覚めた。
「マジかよっ!ヤベ、遅れちまう!」
「ほら、さっさと着替える!私は下で待ってるから早くしなさいよ!」
「言われなくても分かってるって!」
あいつは俺にフフッと微笑み、部屋を出て行った。
一瞬、あいつの笑顔に見とれた。
何やってんだ俺、と思いながら急いで制服に着替え、財布などをかばんにしまう。
鏡を見て寝癖を乱雑に直し、階段を下りてあいつが待つリビングへと行く。
今日の朝も、いつもと変わらない。俺はそう思いながら階段を下りた。