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第一話 存在理由

「ケンジ君、目を覚まして」

 誰の声か分からなかった。

「朝だよ」

 吐息が耳に当たったので幻聴ではないということだ。

「ほら、起きて」

 温かく湿った息が鼓膜を刺激し、なんだかくすぐったい。

「いつまで寝てるの?」

 声の主は女の子だ。

「早く起きて」

 そう言われても、この家に女の子はいない。

「夏休み初日から朝寝坊は良くないよ」

 この状況が怖くて、目を開けることができなかった。

「もう、起きてったら」

 ぐらんぐらん身体を揺らされている。

「どうしたらいいのかな?」

 訊ねたいのは、こちらの方だ。

 薄目を開けて確認したいが、見てはいけないものなら見ない方がいい。

「ねぇ、起きて」

 声も口調も天使そのものだ。

 ということは、僕は死んでしまったということか?

「お願いだから、目を覚まして」

 これが天国へのいざないだろうか?

「これが最後のお願いね」

 死んだ理由が分からない、というより記憶がない。

 高一の夏休みの初日に、浮かれて死んでしまったということか?

「仕方ない、こうするしかないね」

 ベッドで仰向けにされたが、されるがままでいいのか?

「よしっ」

 思わず目を開けたが、その時にはすでに手遅れだった。

 スカートの中のパンツが見えた瞬間、彼女の太ももがアゴの下のノドに直撃した。


 彼女との出会いはギロチンドロップだった。寝ている相手の首に足を落とすのがギロチンによる処刑に似ているから名付けられたプロレス技だ。首の辺りに今も痛みが残っているということは実際に技を食らったということだ。

 部屋の天井から女の子が落ちてくるなんてアニメの中だけの出来事だと思っていたが、北海道の田舎町でも起こるみたいだ。ただし僕が出会った女の子は何とか族の末裔とかではなく、高校の制服を着た普通の女の子である。

「大丈夫? 怪我はない?」

 ノドが痛いのは彼女のせいなのだが、怖くて文句も言えなかった。

「思い切りジャンプしすぎちゃったかな?」

 気にするポイントはそこじゃない。まず見ず知らずの人の家にいることがおかしい。次に僕たちに面識がないのもおかしい。例え遠い親戚だとしても、男の部屋に勝手に入るべきではないし、入っても寝ている人にプロレスの技を掛けてはいけないのだ。

「ノドのところ、ちょっと赤くなってるね」

 そう言って、彼女は「ハハハッ」と大笑いした。

 この気持ち悪さはなんだろう? 見た目はエゾリスのように愛らしく、声音も心がくすぐられたかのように気持ちいいのに、とにかく行動が幼稚なのだ。いや、幼稚と形容できるほど定まっておらず、マンガや深夜アニメならキャラクターがブレている状態だ。

「ねぇ、なんで黙ってるの?」

 彼女が真顔になっただけで、急に大人びて見えるのもキャラクターのブレみたいなものだ。よく観察してみると表情が硬い。というよりも、笑顔と真顔の二種類しかないように見える。笑顔も『微笑む』とか『目を細める』といったパターンがなくアホ面で大笑いするだけだ。

「どうして口を利いてくれないの?」

 彼女は真顔のままだが、それも表情から『憂い』や『不安』など感じないため何を考えているのか分からないのだ。表情を読み取れない僕の方がおかしいのだろうか? いや、そんなことはない。僕は観察眼には自信がある。

「ひょっとして、怒っちゃった?」

 声のトーンで彼女の心苦しい内面を察することができるが、能面みたいな表情だけでは気持ちを汲むことは困難だ。それでもこれ以上彼女を無視するわけにもいかないので思い切って口を開いた。

「怒ってないよ」

 努めて優しい表情を浮かべることにした。

「よかった」

 そう言うと彼女は破顔し「ハハハッ」と大笑いするのだった。

「ハハハッ」

 僕も苦笑いするしかなかった。これがホラー映画なら彼女は笑う暗殺者で、ラブコメなら発売したてのヒューマノイドといったところだが、現実はそのどちらでもなさそうだ。かといって目の前に見えているものを現実かと問われても素直に認められるというわけでもない。

「意外と、キレイにしてるんだね」

 そう言って、彼女は真顔で部屋の中を見渡した。

「意外って、どういう意味?」

「ほら、男の子の部屋ってもっと散らかっていると思ったから」

「ああ」

 普通の会話をすることに早くも違和感を抱かなくなってしまった。

「高校生なのにアイドルとか興味ないの?」

 それが殺風景な四畳半の部屋を見た感想なのだろう。

「興味ないことはないけど狭い部屋にポスターなんか貼れないよ」

「どうして?」

「夜中に目を覚ました時、ポスターの中の笑顔が幽霊みたいに変わってたら怖いだろう?」

「ハハハッ」

 今は彼女の突然の大笑いの方が怖かった。

 しかし、この状況はなんだろう? 彼女は僕を起こす時に名前を呼んでいたので、僕が成瀬健二なるせ けんじであることは知っている。それなのに僕の方は、彼女のことを一切分からないのである。

 それでベッドのへりに二人並んで腰掛けているのだから夢でも見ているような心境だ。横目で彼女の横顔をチラチラと盗み見ているのだが、まったく心当たりがなかった。いとこではないし、幼少の頃に別れた幼なじみなんてものも存在しない。

 考えられるとしたら、母さんを亡くしたばかりの父さんが、子供がいる女性を好きになって、それを僕に隠していて、その子供が勝手に僕に会いに来たといったところだろうか。腹違いの妹という可能性もある。

 いや、でも彼女の着ている制服は僕が通っている高校のものだ。しかも桃色のチョーカーは一年生のものだ。だとしたら同じ学校の同級生ということになるが、入学してからの記憶を掘り起こしても、彼女をチラッとでも見た記憶がなかった。

「あれは、なに?」

 彼女が立ち上がって、勉強机の上に広げられたノートを覗き込む。

「あっ、それは」

 見られて恥ずかしい物ではないが、黙って見られるのは抵抗がある。自分でもよく分からない心理状態のまま立ち上がり、思わずノートを手で隠してしまった。そもそも部屋の中を他人に見られること自体が嫌なのだ。

「なんで隠すの?」

「勝手に見るからだろう」

「だったら正式に許可を取るから見せて?」

「正式にお断りします」

「なんだよ、イジワルだな」

 口調だけなら他愛のないやり取りなのだが、表情が乏しいのでそれが冗談の範疇なのか、それとも嫌われるくらい怒ってしまったのか分からなかった。そんなことを気にしているということは、すでに彼女に対して嫌われたくない気持ちが芽生えているということになる。

 この奇妙な状況で一瞬のうちに好意を抱いてしまったのは、彼女が僕の理想の女性そのものだからだ。ショートカットの髪型は活発な印象があって大好きだ。落ち込むことが多い世の中なので豪快に笑う姿を見ると救われた気分になる。見ているだけで気持ちが明るくなるのだ。

「フンフンフンフンフン」

 文字だけなら下ネタだが、彼女は今、鼻歌を歌いながら本棚を眺めている。

「あんまりジロジロ見るなよ」

「ケンジ君は秘密主義なんだね」

「他人に本棚を見られたら恥ずかしいと思う方が自然だろう?」

「見たところ見られて恥ずかしくなるようなものは無いと思うけど?」

 そう言って彼女は、改めて本棚に並べられた本を確認する。

 ふと、思い出した。

「死んだ母さんが言ってたんだ、『本棚は、その人の頭の中みたいなものなんだよ』って。だから見られて恥ずかしいと感じても仕方ないだろう」

「ハハハッ」

 と彼女が豪快に笑う。

 彼女の笑顔は魅力的だけど、笑うタイミングは完全にズレている。

「そんな笑わなくてもいいのに」

「だって『見られると恥ずかしい頭です』って、自分で言うから」

 反論しようと思ったけど、それこそ恥の上塗りになるので止めておいた。

「でも……」彼女が本棚の上段を見上げつつ、「男の子の部屋の本棚なのに、少女マンガがあるんだね。だから恥ずかしいと思ったの?」

「いや、そういうのは別に気にしたことがないよ」

 死んだ母さんからもらったものだが、今やそのすべてが大事な宝物だ。

「というか、古い少女マンガばかりだね」

「死んだ母さんからもらったものばかりだからね」

「ハハハッ」

 彼女が大笑いする。

「笑うとこじゃないだろう」

 流石にイラッとしてしまった。

「ごめん」

 彼女はすぐに真顔に戻った。

「でもケンジ君のお母さんの言葉は本当だね。だって、本棚が頭の中と一緒ということは、ケンジ君の頭の中はお母さんとの思い出で一杯っていうことでしょう?」

 少女マンガを読むことに恥ずかしさはないが、母さんとの思い出を他人に覗かれるのは恥ずかしい。それは単にマザコンだと思われることに抵抗があるからというわけではなく、母さんを思う好きだという気持ちを、恥ずかしいという言葉で誤魔化している自分が恥ずかしいのだ。


   ※    ※     ※


 残業の多い父さんの代わりに、病気がちな母さんの面倒を看るのが僕の仕事だった。学校が終わったら友達と一切遊ばず真っ直ぐ家に帰る。それは夕飯を作るのを手伝うためだが、本当は一刻も早く母さんの元気な顔を確かめるためだった。

 住んでいる場所は北海道の道南にある人口十五万程度の市だが、実際に家があるのは町はずれの森の中だ。一番近くのコンビニまで歩いて三十分も掛かるので買い物をするには不便なのだが、風が気持ちいいという理由だけで父さんがそこに家を建ててしまったのである。

 本当は近くに母さんがよく入院する病院があるので近くに引っ越しただけなのだが、本当のことを口にしても家族三人誰も得をしないので、風が気持ちいいという理由を信じることにしたのだ。

 詳しい病名も聞かされていないので母さんが後どのくらい生きられるのかも分からなかった。でもそれは自分の人生に限らず誰の人生にとっても同じことなので、初めから余命なんて気にすることではないのだ。

「ねぇ、健ちゃん、お家のことを手伝ってくれるのはうれしいんだけど、学校のお友達と遊びに行ってもいいんだからね」

 小学校に上がったばかりの頃に言われた言葉だけど、これを聞いて腹が立った覚えがある。自分が好きでやっていることを否定されて納得がいかなかったのだ。その気持ちが表情にも表れていたようで、それも注意される。

「そんな顔しないの。母さんは、お友達も大切にしてほしいって言っただけでしょう」

 表情だけで気持ちを悟ってもらえるのがうれしかった。言葉にしなくても理解してもらえるというのが快感でもあるのだ。そこでイタズラに困らせようとも思わなかった。嬉しいことがあれば嬉しい表情を見せて、悲しいことがあれば悲しい表情を見せるだけだ。

「何かいいことがあった?」

 こう言われた時は、テストで手応えがあった時だ。

「何か心配事でもあるの?」

 これは転校してきた男の子がクラスに馴染めなかった時の言葉だ。

「なに怒ってるの?」

 これはバカなクラスメイトに帽子を隠された時の言葉だ。

「どうしたの?」

 これは好きな子が転校してしまった時の言葉だが、異性の問題に関してはいくら大好きな母さんであっても口にすることができなかった。だから何も答えず顔に出さないようにしたのだが、簡単に見破られてしまうのだ。

「なんでもないよ」

 と答えたものの、深く問い詰めてこないことで全てバレていることが分かった。母さんは何から何まで全部お見通しだった。嘘をこしらえる必要がなく、気持ちをそのまま表情に出せばいいだけなのでシンプルに生きることができた。

 母さんと僕は色んな表情で会話をしていたのだ。単なる同調行動による親密感かもしれないが、言葉がなくても成立する世界は母さんが存在する世界だけだった。僕にとって人間の持つ表情はとても重要なものなのである。


   ※    ※     ※


 そんなことを思い出してしまうのは、目の前にいる彼女があまりに表情が乏しいせいだろう。いや、そもそも知り合いのように接している時点でおかしいのだが、彼女は僕のことを知っているようなので気にしないようにするしかない。

「私のこと、誰だか分かる?」

 唐突に彼女が尋ねてきた。

「えっ? なんで?」

「だって、さっきから『こいつ誰だろう?』っていう目で見てるから」

 死んだ母さんと同じで、そういうのは分かる人のようだ。それに対して僕は彼女の表情から、彼女が何を考えているのかさっぱり読むことができないため、とても不公平に感じてしまうのだった。

「実はそうなんだ。知らないと失礼だと思って聞けなかった」

「そんなこと気にしなくていいのに」

「そうだよね」

「そうだよ、知らなかったら聞けばいいんだよ」

「ごめん、初めからそうすればよかった」

「うん、何でも聞いて」

「じゃあ尋ねるけど、君は誰?」

「……教えない」

 彼女は真顔でそう答えた。そして次に僕が呆れているのを見て「ハハハッ」と大笑いするのだった。彼女の表情から罪悪感を抱いているようには見えないため、からかわれたのは僕の方なのに、思わず「彼女を信じた僕が悪いんだ」と考えてしまう自分がいる。

「ねぇ、怒ったの?」

「怒ってはないよ」

「ハハハッ」と彼女は大笑いし、「だったらいいけど」と真顔で答えた。

 表情が笑顔と真顔の二種類しかないので、僕も気持ちを読むのに苦労しているが、彼女もまた感情を伝えることに苦労しているようにも見えた。考えがそこに至ると、急に彼女が可哀想に見えてしまった。

「君は誰?」

「だから教えないって」

「今まで会ったことある?」

「会ったのは今日が最初だよ。いや、昨日かな?」

「名前は?」

「もう、さっきから人に聞いてばかりだね。少しは考えてよ」

 これは真顔でもイライラしているのが分かった。

「だってさっき『何でも聞いて』って言ったろう?」

「ハハハッ」と彼女は大笑いし、「さっきはさっきでしょ」と真顔で答えた。

 少しは考えてよ、ということは考えれば分かるということだ。そこで改めて彼女を観察してみる。彼女も真顔で僕の方を見ている。向かい合うと、彼女が上目遣いになるのでムチャクチャ可愛い、って、そんなことを考えている場合ではなかった。

 彼女の顔を正面から見た時、そこでようやくどこかで見たことがあると思った。しかしそれがどこで見たかは全く思い出すことができない。昨日会ったとしたら学校の終業式くらいだが、そこに居合わせたとしても会ったという表現は使わないだろう。

「ひょっとして双子の姉か妹ってことはないよね?」

「ああ、近いかも」

「えっ?」

 僕が大袈裟にリアクションしても真顔のままなので冗談ではなさそうだ。一番ありえない設定から潰していこうとしたら真っ先にヒットしてしまった形だ。ということは僕たちは生き別れた姉と弟ということだろうか。

「物心ついた時から気になることがあって、それは一人っ子なのに名前が『健二』になっていることなんだ。理由を尋ねると両親の好きな有名人の名前が健二で、それで名付けたと聞かされたんだ。

 だけどわざわざ長男に数字の二が入った名前を付けることはないだろう? だから小さい頃から、この世のどこかに数字の一が入ったお兄ちゃんかお姉ちゃんがいると思ってたんだ。つまりきみは僕のお姉さんなんじゃない?」

「それは違うって言ったよね?」

「でも近いって」

「近いっていうことは違うっていうことなんだよ」

 彼女は僕の方を見ずに、本棚にあったCDアルバムを開いて歌詞を眺めながら答えた。母さんの形見だから触ってほしくなかったけど、母さんが好きだったものを知ってほしい気持ちが一瞬だけ勝った。

「そうなるとベタだけど、やっぱり父さんの再婚相手の連れ子ということになるね。本当は新学期からの編入だけど、見学がてら学校に来てたんだ。そこで僕のことを見つけて、あくる日の朝に驚かせようと思って声を掛けなかったんだよ。

 それで今日から一緒に暮らすことになるんだけど、姉と弟とはいえ血が繋がっていないわけだから気まずい場面の連続だ。僕としては義理であってもお姉ちゃんなんだから、分かってしまえば恋愛感情に揺れることはない。

 とはいえ君みたいな、僕を男として見ていないような女の子が、突然なにかの拍子に頬を赤らめるっていうパターンがなくはないんだよ。でもその時になって僕に対する気持ちに気がついても手遅れなんだ。

 だって僕はそれよりも前にフラれたと思っているわけだからね。それで僕は僕ですでに新しい女の子を好きになっていたりして、それが絵に描いたように君と正反対な女の子でさ、僕は誰も傷つけたくないから、君の気持ちに気づかないフリをするんだ。

 王道中の王道とはいえ、これでときめかないようなら生きていてもつまらないよ。死んだって惜しいと思わないだろうね。死んでも惜しいと思わないようなら、もうそこに価値はないということなんだよ。ああ、それで結末だけど、あれ? どうなるのかな?」

「私?」

 驚いた様子だが、相変わらず表情はなかった。

「うん」

「何が? ごめん、まったく話が入ってこないんだけど」

「ひどいな。せっかく一生懸命考えて喋ったのに」

「だって私、お姉ちゃんじゃないもん」

「だったら双子が近いって、どういうこと?」

「また自分で考えてみたら? どうせ答えは自分の中にしかないんだし」

 それはどういう意味だろうか?

「つまりこんな奇妙なシチュエーションは、現実ではないっていうこと?」

 尋ねても彼女は歌詞カードに見入って答えてくれなかった。

「そう、一番に考えるべきはやっぱりこんなことは現実ではありえないことなんだ。『夢でした』で片づけられるのに、それを拒否していたのは夢から覚めたくない、うん、夢の続きをいつまでも見ていたかったからなんだと思う。

 それと痛み。夢の中なのに、君のギロチンドロップは息ができなくなるほど苦しかった。ほっぺをつねっても痛いし、そこまでリアルに感じてしまうと嫌な夢を見るのが怖くて眠りたくなくなるよ。

 答えを知った瞬間に現実に連れ戻されるんだろう? もう君とも会えなくなるわけだ。それもおかしな表現だよね。だって君の正体は僕なんだからね。双子が近いということは僕のもう一つの人格としか考えられないじゃないか。おかえりなさい、僕」

「ハハハッ」と彼女は笑って、「それ私に言ったの?」と真顔で聞き返した。

「だって、それ以外に考えられないだろう?」

 彼女はため息をついて呟いた。「そこら辺が限界なんだね」

「僕じゃないとしたら、母さん?」

「その妄想は聞きたくないからヤメてね」

「母さんじゃないことは僕が一番分かってるよ」

「本当に分かってないんだね。これを見ても分からない?」

 そう言って、彼女はじっと僕を見つめた。

 僕も彼女を見るが、何を意味しているのかは分からなかった。

「じゃあ、これは?」

 今度は斜め横を向いて、大きな口を開けて笑顔になるのだった。

 その顔は今朝から嫌って言うほど見てきた顔だ。

 しかし彼女は声を出して笑ったわけではない。

 笑顔で固まったままだ。

 そこで、やっと見覚えのあることに気がつくことができた。

 答えは勉強机の上にあるノートの中だ。

 慌ててノートを開いて、答え合わせをしてみる。

 これだった。

 目の前の彼女は、昨日僕が描いたマンガのキャラクターにそっくりだった。

 つまり彼女は、僕が描いたマンガから飛び出してきたということだ。


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