三話
ビャッコヤは道を歩いていた。行く先は魔王城から一番近い町だ。これから先の道のり、何が有るのか分からないのに準備が足りてないからだ。その道中にビャッコヤは違和感に気づいていた。
(ふむ)
尾けられている。自分の10メートル後方という至近距離で、何者かが私を尾行している。王国の連中か? いや、だとしたら早すぎる。途中でコソコソと隠れていた暗部の連中が報告をして速やかに行動をしていても、早すぎる。
もしや魔王軍の残党か?そう思った俺は一度振り返ってみる。すると、角の生えた女が木に隠れながら私を見ていた。その女と目が合うと、彼女は木の後ろに身を更に隠すが、頭に生えた角がはみ出ていて、隠れきれていない。
俺は彼女に近づいた。敵か味方かは分からない。いや、恐らくは敵である彼女から話を聞くために。
地面を蹴り瞬時に近づいた私に彼女は驚いた表情をしていたが直立不動で、避ける動作さえしなかった。そして角を掴み、彼女の体を地面に倒して質問をすることにした。
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「名前は?」
「ひょえ?!えっ??!」
「名前は…と聞いているんだ!潰すぞ!」
「わ、私の名前はろ、ロータスです。先代魔王の娘で勇者に…その…あ、仇討ちをしようとした所在で」
仇討ちという言葉を聞いてビャッコヤを堪えることが出来ずに噴き出してしまった。
「俺に?仇討ちを?プッ、フハハハハハハハ!!」
「な、何が面白いんですか!」
「お前みたいな未熟者に、俺が殺される筈がないからだ」
「人間に魔族は倒せれません!」
「その人間に角を掴まれ逃げれないのは誰だ?」
まぁいい。そう言うとビャッコヤは角から手を放した。倒れていたロータスが起き上がって前を見るとビャッコヤは彼女を背にして歩いていた。
ロータスは怒った。まるで敵とすら見られていない、その事実に。
「火の精霊よ、荒ぶれ!!」
ロータスの手から巨大な火の玉が現れた。高い魔力を感じたビャッコヤはロータスの方へと体を向け、相対した。
火の玉の中に注入される魔力により火の勢いは更に強くなり、シャボン玉のように膨らんだ。その火力にビャッコヤは腕をあげ、顔の横に持っていき構えた。
次の瞬間だった。
火の玉は、シャボン玉のようにはじけた。
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「し、しばらくは、タバコは吸わなくても良いかもな」
「私はタバコは吸いません」
辺り一面が焼け野原となり中心部にはクレーターが出来上がっていたが、ビャッコヤは無事だった。服が焦げた程度であった。
ロータスも同様である。しかし心の傷は深く、敵に雑な フォローまでされたのだ。泣きながら答えていた。