2話
ローレシア王国
大陸の5分の3の土地を持ち、人口の3分の2を有する大陸国家。軍隊は常備軍20万の兵力を持ち、勇者到来まで魔王軍の進撃を防ぎ続けた国家は今、未曾有の危機に陥っていた。
「報告を聞こうか」
円卓の中央に座り、王冠を被る男、ローレシア13世は静かに口を開けた。王は既に報告を聞いていたが、信じたくないという気持ちと、事が起きてから数時間経っていたため、状況が変わったという吉報を待ち望んでいた。
その為、部下に真相究明と経過報告を命じていた。
「報告します。勇者ビャッコヤの暗殺計画は失敗、勇者パーティーは勇者を除き全滅しました」
「ありえん…」
そう洩らしたのは武術省長官。パーティーメンバーの選抜をした男だった。
「あのメンバーは王国最大戦力と言っても過言ではないメンバーだ。彼らが負けた、ましてや死んだとは…信じられん」
下向きな発言をする武術省長官に他の者達は不満げに睨む。自信家で常に偉そうな態度を取るこの男は嫌われている。だが、その自信に釣り合う才能を持つ、そんな嫌な男の心が折れることなど今まで無かった。異常事態で有ることが確認出来たために他の者は批判の声をあげることが出来なかった。
王は、そんな空気を察し、武術省長官に弁明の機会を与える為に話し掛けることにした。
「長官。此度の会議は重要な会議ゆえに普段よりも多い人数を集めた。その為、今回の選抜メンバーの素性を知らぬ者もいるから、皆に分かるように伝えてくれ」
「畏まりました。まず暗殺のリーダーを務めるこの男は王国勇者教教会の神官をしている男です」
「戦いには不向きであると思うが?」
新参者が口を出すが、武術省長官は首を横に振る。
「神官というのは表の姿。本業は国家の暗部に属する殺し屋です。他のメンバーも同じ暗部出身で『夢見る力に作戦』の担当者と言えば、その実力も分かってもらえるはずです」
『夢見る力に作戦』
戦争に反対した若手将校率いる大隊が要塞を乗っ取り基地司令官を人質にした事件である。戦争継続の意思を固める王国に反乱軍の要求は飲めず暗部に解決を図らせた。
難攻不落の要塞に立て籠る1000人の反乱軍にわずか3人の暗殺者が挑んだ。結果からして、反乱軍は全滅。基地司令官の救出に成功した。
その為、『夢見る力に』と言えば彼らの実力は折り紙付きというのがよく分かる話しだった。
「問題は、そんな彼らを簡単に葬った勇者の力を軽視していたことです」
「どうするか…案の有るものは?」
一同は沈黙に伏した。最大級の戦力を潰されたのだから対応がしようがない。しかし。
「このままでは教皇国に逃げ込まれてしまう」
教皇国
大陸の五分の一の領土も持つ国。国力、軍事力、経済力に関してはローレシア王国に敵はない。しかし、大陸の統一宗教である勇者教の総本山がある為、影響力は半端ではなく教皇が国王に破門状を叩きつけられたら如何に国王でも抗うすべもなく、追放されてしまう。
そんな所に勇者が逃げ込み、教皇に伝われば国王のみならず、下手をすれば王家や重臣も一巻の終わりである。
それだけはなんとしてでも避けなければならない。
が、最強の暗殺者は簡単に破れ去った今、次に打つ手が無くなってしまった。会議場の一同は何も言えないのは無理からぬことだ。
そんな時だった。
「我々にお任せ下さい!」
「主らはッ!!」
「我々王国最精鋭部隊であるバンディリア騎士団に任して頂きたい!」
「バンディリア…そうだ!まだ彼らがいる!」
会議場が空気が昂るのを感じる。
もしも暗殺者達が裏の世界で最も強いのならバンディリア騎士団は表の世界で最強の部隊。一人一人は暗殺者よりも弱いが、幼少の頃から訓練が施され、団結力のある彼らなら若しくは!
家臣達は確信をした。彼らなら勇者を止められると。
「お主らの忠誠心に感服した。どうか、頼むぞ!」
「お任せください!必ずや勇者ビャッコヤを仕留めてみせます!!」
「うむ。主らはこれよりバンディリア旅行団としてビャッコヤを追うのだ」
「旅行団…ですか?」
「どこに教皇の目が有るか分からないからな。あくまで聖地巡礼の旅行団として偽れ。そして道中の犯罪者を一人殺した…ということにするのだ!」
「畏まりました!これより出発します!」
騎士団はそういって立ち去っていった。会議場の重臣達はこれでどうにかなると喜んでいるのを尻目に武術省長官は国王に近づいた。
「本当によろしいので?彼らのチームワークは強力ですが…」
「分かっておる。どれだけ数がいても立ち向かえる相手ではないことくらい」
「無駄死にさせるつもりですか!?」
「まさか、有効的に使う。あくまで時間稼ぎだかな」
そう言って国王は服のポケットから一冊の本を取り出した。
「これはッ!?」
「剣には剣を、毒には毒を…じゃ」
その書物にはこう書かれていた。『勇者召喚魔法書』と。