1話
非常に苦しい選択をしないといけない。例えそれが、友を殺すことになっても。そして彼が、王国を救った、真の英雄であったとしても。
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私達は異世界から召喚された勇者ビャッコヤと共に、王国の、ひいては世界の平和を乱す魔王を討伐する為に派遣されたチームでした。
魔王の討伐が第一の任務でしたが、ビャッコヤを除く私達にはもう一つの使命が有ったのです。それは、魔王討伐の功労者である勇者の暗殺でした。
王国は魔王亡き後の世界に勇者は悪影響をもたらさすと判断し、殺害を命じられました。そして今、ビャッコヤの前には、地に伏せた魔王。第一の任務が終わったことになります。
呪文を唱え白銀の鎖に付与させる。鎖をビャッコヤに投げると、鎖は自ずと、意思を持ったように動き、ビャッコヤに巻かれる。
「非常に心苦しいのですが、勇者ビャッコヤ。あなたはここで死ぬ運命なのです」
「強くなりすぎたお前が悪いのだよ」
「これも王国の未来の為なんで諦めてください」
「ぐっお前ら…」
神官である私の拘束魔法は、本来であればドラゴンでさえ止めることが出来る魔法だが、暴れるビャッコヤに鎖が既に悲鳴をあげている。
すかさず賢者が、高等魔法である雷魔法を炸裂させる。本来、高等魔法は威力が高くなるにつれて詠唱時間も長くなる特性を持っており実戦には不向きだったが、賢者の才能と、日々のたゆまぬ努力により無詠唱で発動出来るようになった。
魔王との激戦直後、疲弊していたビャッコヤは雷の直撃を受けて、ついに膝を落とした。その隙を付いて戦士がビャッコヤに対して飛びかかり切りつける。
が、戦士の剣は鎧を切ったまではいいが、そこから先には刃は届かなかった。
「なに!?」
「やれやれ。せっかく魔王戦の為に新調した鎧が…ボロボロになったじゃないか…」
ビャッコヤはまるで何事も無かったかのように立ち上がる。その姿を元仲間達は化け物を見るかの様な目で見ていた。
「私を殺そうと思うなら、即死魔法を使うなり、この辺りを消失させる程の攻撃じゃないと…ね」
「化け物かよ…お前」
「勇者から化け物にジョブチェンジか、悪くはないね」
笑うビャッコヤにもう一度戦士が斬りかかる。だが、刃が到達する前に動きを止められてしまう。ビャッコヤが片手で剣を掴んだからだ。
「俺は君と剣を交えたことがあるが、それが私の実力だと思っていたら大間違いだ。俺は…」
もう片方の手を振り上げ、下ろす。
その簡単な動作だけで、そして素手で戦士を袈裟斬りにした。
「素手の方が、強いんだ」
医者が見ずとも分かる程の致命傷に、元仲間達がどよめく。
「王国の判断は正しかった。貴方は危険だ」
「危険…だからどうしたいんだ」
「殺す!」
賢者と神官は同時に攻撃をした。今使える最大の攻撃で。
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「さて、と」
俺は持ち主の居ない玉座に座り、物言わぬ屍になった仲間達を見て考えていた。
「これからどうするか」
なぜコイツらが俺を殺そうとしたのかは、想像が着いた。この世界に召喚され、魔王を倒したら元の世界に帰す、という国王との約束だろう。
この国の魔法では、向こうから呼ぶのは出来ても、こっちから送ることが出来ない。といった具合かな。
それで逆上した私が暴走するのを防ぐ為に、前もって消そうとしたのだろう。
あるいは単純に、強い俺を恐れてか…。
やれやれ、私は別に暴れるつもりもなければ、脅すこともしないのに。前の世界は生きにくいから、進んでこの世界に馴染もうとしたんだがな。
しかし、殺されそうになったとはいえ、俺は仲間を殺したからな。大罪人として扱われるだろう。そして王国からの追っ手で平穏な生活は出来なくなってしまうだろう。
「逃げるか」
王国からの追っ手を振り切るには隣国に逃げるしかない。とりあえず勇者教の総本山。教皇国に逃げるとするか。