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幕間 クラウディア・フロウレンス①

※これは「身体を乗っ取ったら勇者パーティーから追い出された青年でした」で合っています。毛色の違う内容になってますが、別に作者が間違えて他の作品を投稿したわけではありません。ご注意ください。



 何を言っているのだろうか。


「クラウディア。貴様との婚約、破棄させてもらう」


 自らの婚約者に婚約解消を宣言された瞬間、クラウディアはそんなことを思っていた。

 彼女――クラウディア・フロウレンスは、次期皇帝となるであろう、カイニス・フォン・ラスタードの婚約者だった。

 公爵令嬢であった彼女と次期皇帝と言われていた彼はいわゆる政略的な婚約というものだった。

 小さい頃はそんな都合など知らない二人は仲睦まじい関係となっていた。しかし、やがて成長し、政略的な関係が嫌になったのか、カイニスはクラウディアに対し、冷たくあたっていた。自分の愛する人は自分で決める、皇族と繋がりを持ちたいだけの者などと関わりを持ちたくない……そういう想いがあったことを彼女は知っていた。

 しかし、それでも良かった。彼女は自分が我慢すれば、いいと思っていた。いつかきっと、昔のように笑い合えるようになる。愛されないのなら、愛する努力をしよう。そうすれば、また、きっと、いつか……。そんな淡い彼女の想いを、木っ端微塵に砕いたのはほかの誰でもない、皇子自身だった。


「どういう……こと、ですか。どうして……」

「言い訳をするとは、見苦しい。自分が犯した過ちを他人に言わせるつもりか?」

「……申し訳ありません。おっしゃられている意味が、よく分からなくて……」


 言い訳? 過ち? 一体何を言っているんだ。

 訳がわからない、と思っているのは彼女だけではない。今日は夜会。ここには多くの来賓が来ており、無論皇子の父親である皇帝や皇后もいた。

 どういうことなのか……誰しもが思った疑問に、カイニスは鼻を鳴らしながら言う。


「口を開くな。私が知らないとでも思っていたのか? 貴様が自分の妹にした非道を」

「ですから、私が何を……」

「この期に及んでまだ言うか。ならばよかろう―――団長」


 言われて出てきたのは大柄な男。身長は皇子よりも上であり、年齢も二十代前半といったところ。少し強面のその人物をクラウディアは知っていた。

 剣狼騎士団団長、ゼオンだった。

 そして、その隣にいる長い銀髪の少女。顔を伏せ、こちらに視線を合わせないようにしている少女こそ、クラウディアの妹であるマリアだった。


「ゼオン様、どうしてここに……?」

「……、」


 クラウディアはゼオンの名前を呼ぶも返答はなかった。おかしい。確かに彼は強面ではあるものの、とても気さくな性格をしており、いつもならちゃんと挨拶をしてくれるのだ。「よぉ、クラウディア様」とか「調子はどうですか」とか。

 しかし、今の彼から感じるのは無関心。まるで、こちらのことなど知らんといったようなものだった。


「団長、例の報告を」

「はっ。それでは僭越なら報告します。ここにいるお歴々の中にももうご存知な方がいるかもしれませんが、先日、ここにおられるマリア様が誘拐されるという事件がありました」


 その事件は無論、クラウディアも知っている。

 街に出かけていたところを襲われてしまったことで生じた事件。犯人達の目的は金であり、それを用意するフリをして剣狼騎士団が急襲し、見事マリアを取り戻すことができた。

 犯人達は剣狼騎士団との戦いで全員死んでしまったが、それでも一応は解決となっていたはず。

 それが何故、今になって?


「犯人達は抗争の中で全員死亡した……ということになっていましたが、たった一人だけ生き残りがいました。残念ながらその者も捕縛した数日後に息を引き取りましたが、自分達に指示をした人物の名前を聞き出すことに成功しました。その人物の名前は……」


 ゼオンはそこから先、言葉を続けなかった。ただ一度瞼を閉じ、ゆっくりと開いた視線の先にいたのは……クラウディアだった。


「……まさか、私、だったと……?」

「白々しい。貴様が連中を使ってマリアを金目的のために誘拐したように見せかけ、殺害を命じたことは既に調べがついている。そうだな、団長」

「はっ。捕縛した者の証言は既にとってあります。金目的にみせかけて、最後には殺せと命じられていた、と。さらには街での聞き込みでそちらのクラウディア様が犯人達と会っていたのを目撃したという調書もすでにとってあります」

「そんな……!!」


 デタラメである。

 自分は犯人達と会ったどころか、話すらしたことがない。そもそも、クラウディアにはマリアを誘拐し、殺す理由などなかった。


「嘘です、そんなのっ。一体、どうして私がそんなことをするとお思いなのですか!!」

「まだ言うかっ。貴様がわたしとマリアの仲を快く思っていなかったことは当に知っていた。そしてそれに嫉妬していた証拠もある。団長」

「はい。先日からマリア様が食事に違和感があったということで調べてみた結果、彼女に出された食事に毒が入っていたことが判明しました。実行犯は給仕のひとりであるミナという女性でした。先程、詳しい事情を聞こうとしましたが、既に自分の部屋で毒を盛って自殺をしていました」

「ミ、ナが……?」


 ミナはクラウディアと一番仲が良かった給仕である。

 いつも身の回りを世話をしてくれ、世間話にも付き合ってくれた。自分が元気がないときや悲しい想いをしたときはいつも傍にいて励ましてくれた。クラウディアにとって、彼女は本当に信頼できる存在だった。

 そんな彼女がマリアに毒を盛っていた。そして、自殺した。

 その事実が、クラウディアには受け入れらなかった。


「遺書も見つかっています。内容は大方省きますが、皇子とマリア様の仲に嫉妬したクラウディア様に毒を盛るように命じられたこと、そしてその自責の念に耐えかね死を選んだことなどが書かれてありました」


 つらつらと並べられる事実に、クラウディアは小さく首を横に振ることしかできなかった。


「これだけ証拠が揃っているんだ。もう言い逃れはできないぞ。観念しろ、この悪女」

「お姉様……どうして」

「マリア。お前が気にする必要などない。これはあの女自身が蒔いた種だ」

「そうだぞ、マリアお前が気にする必要などない」

「ええそうよ。だからそんな顔しないで、私の可愛い娘」


 皇子に続いてマリアに話しかけるのはクラウディアもよく知っている二人だった。


「お父様……お母様……」


 言うと二人はまるで獣を見ているかのような冷たい視線を向けてきた。


「やめて頂戴。貴女のような女に、そんな呼び方はされたくありません」

「全く、前々から薄気味悪い奴ではあると思っていたが、まさか自分の妹まで殺そうとするとは。団長、その女をさっさと連れて行ってくれ」

「了解しました。おい、連れていけ」


 ゼオンの言葉と同時、どこからともなく現れた騎士がクラウディアを押さえ込むように抱え、そのまま連行していく。

 しかし、自分が無実だと分かっているにもかかわらず、大人しくするわけがなかった。


「いやっ、放して! 私はやってないっ、私じゃない! 信じてお父様、お母様、マリア、団長、皇子!!」


 もうほとんど泣き叫ぶような嘆願。

 自分が一体、何をしたというのか。何もしていない。誰かに迷惑をかけることも、誰かに憎悪を抱くことも、それこそ誰かに殺意を向けることなどもってのほか。だというのに、今自分はあらぬ罪を着せられて連れて行かれている。

 誰でもいい。誰でもいいから私の声を聞いてくれ。

 自分じゃない。自分はやってない。信じて欲しい。

 誰か、誰か、誰か。

 神にすがるような彼女の想い、願い、叫び。

 けれども。


「あらやだ、まだ何か叫んでいますわ」

「全く往生際の悪い女だ。あのような者を今まで皇子の婚約者にしていたこと、誠に申し訳ありません」

「いや。あれと婚約していたことで、わたしはマリアと出会うことができた。真に愛する者を見つけることができた。貴公のおかげだ、フロウレンス卿。感謝する」

「おお、ということは」

「ああ。わたしは今日、ここで改めてマリア・フロウレンスに婚約を申し込む―――了承してくれるか? マリア」

「はい……私などでよければ喜んで」


 その瞬間、会場にどよめきが走り、そして拍手喝采が鳴り響いた。

 おめでとうございます、おめでとうございます、おめでとうございます……。

 その光景はまるで世界の中心が皇子とマリアであるかのようなものだった。

 そしてそこには、誰一人として彼女の叫びを聴く者も、悲しむ者も、憤ってくれる者もいなかった。


「――――――――――――――――――――――っ」


 声にならない絶叫に、しかしてやはり、誰も気づくことはなかったのだった。

二章開始です。よろしくお願いします。


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