幕間 ???の懺悔
お待たせしました!
五章開幕です!
―――失敗した。
周りにある状況を一見するだけで、その結論に至るのは必然だった。
まるで災害にでもあったかのような惨状。
地面は割れ、隆起を起こしている。
壁面は崩れ、至るところに亀裂が走っている。
天井は落ち、無数の瓦礫が今も尚落ちてくる。
もはや、目の前にある光景は、絶望。その一言だった。
「ぁ……、……」
声がうまく出ない。いや、それだけではなく、身体そのものも思うように動かせなかった。全身、身体のいたるところから感じる激痛。転げ回り、絶叫を上げたいというのに、それも満足にできない。満身創痍、どころではない。これは正しく瀕死の状態だ。
もうすぐ自分は死ぬ。これは確定事項であり、変えようがない事実。
けれど、そんなことはどうでもいい。
「……ぁ、かっ……、―――」
名前を呼ぼうとするが、やはり声はまともに出ず、口からは血が流れるのみだった。それでも、諦めることはなく、身体を少しずつずらしながら、周りを見渡す。その仕草はさながら蓑虫の如き有様。無様で、滑稽で、何とも愚かな姿だ。
だが、ここにはそれを見て嘲笑する物は誰一人としていない。いいや、たとえいたとしてもそんなことなどどうでもよかった。そんなことよりも、大事な人の安否の方が重要なのだから。
だが、いいやだからこそ、というべきか。
時間をかけながらも、周囲を見渡した結果。ようやく見つけることができた……いいや、この場合は、見つけてしまった、というべきか。
自分が探していたモノ。そして受け入れたくない事実が、目に入ってきた。
「ぁ……ぁあ……」
そこにあったのは、血肉だった。
無惨にもバラバラにされ、跡形もない状態にはなっているが、残された骨の形からして、人であったものだと把握できる。
そして、その傍にある服装の残骸。
それらから、この肉片が、一体誰のものなのか、嫌でも理解せざるを得ない。
「そん……な……」
血濡れの服装の残骸。それを手に取りながら、ぎゅっと握り締める。
「守れ……なかった……」
震えながら、後悔の念を口にする。
必ず守ると誓った。どんなことがあっても絶対に守ると誓ったのだ。どれだけ絶望的なことになっても、どれだけ最悪な状況になっても、それでも、守りぬくと約束したのだ。
だが、結果はご覧の有様。
誓いは果たせず、約束は消え去った。残ったのは、大事な人の無惨な死体……いや、残骸のみ。
その光景は、まるで自分を嘲笑っているかのようだった。
お前の行動は全て無駄。どんな策を講じようが、どんな力を使おうが、そんなものなど一切合切粉砕し、ねじ伏せ、無意味にしてみせる。それが、今まで行ってきた罪に対しての罰。大事な者を目の前で、踏み潰され、奪われ続ける。自らの死よりも遥かな苦痛を与え続けてやろう。
そんな声すら聞こえてきそうな状況だった。
けれど。
「……ない」
やはり声がうまく出ない。いいや、そもそも意識そのものが既に朦朧としている。恐らくこのまま気を失えば、確実に死が待っている。
だが、だからこそ声に出さなければならないのだ。
「諦め……ない。諦めない。諦めない……!!」
それはまるで自分に言い聞かせるような口調だった。
ああ、そうだ。確かに自分はどうしようもない人間だ。一般的な人間からしてみれば、クズと呼ばれるものなのかもしれない。だから、自分がここで死ぬのは当然の結末であり、自然の摂理なのかもしれない。それは受け入れよう。
だが、しかし。
自分以外の誰か……それこそ、自分の大切な人が死ぬことだけは、何があっても許容できない。今更何をどうあがいてもこの先はないのだろう。
だが、それを理解した上で尚、決意の言葉を口にする。
「絶対に……絶対に……諦めない!!」
この結末だけは、認めない。許さない。覆してみせる。
だから、安心して欲しい。
きっと、『 』を守ってみせる。
きっと、『 』を助けてみせる。
きっと、『 』を救ってみせる。
この、どうしようもない絶望から、地獄から。運命から。
必ず―――。