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十四話 最高で最強な剣②

 一番強い剣士は誰か、だと?


 そりゃあ、お前。勇者に決まってんだろ。

 ……っていうのは、流石に野暮ってやつか。それが建前だったのは誰だって知ってるし、あれを剣士っていうのは、流石に気が引けるしな。


 だとするのなら……まぁ、奴だろうな。

 ジグル・フリドーって聞いたことあるか?

 ん? そいつなら知ってるって? 勇者に選ばれそこなった奴だって?

 ……ああ、そうだ。そいつだ。あいつは、勇者に一番近い奴だって言われてたが、異世界召喚とやらで呼び出されたタツミ・ユウヤにそれを横取りされちまった奴だ。

 けどよ。勘違いしちゃあいけねぇぜ。そりゃお前、あのタツミ・ユウヤが現れて聖剣に選ばれたからであって、ジグル・フリドーが弱かったわけじゃあない。むしろ、あれを弱者だと言い張る奴は目が節穴どころか、見えてねぇよ。


 あの頃、勇者になるために多くの連中が王都集った。中には名の知れた傭兵や、この国の将軍までいたもんだ。その数、約千人。

 そして、多くの試験やら試練やらがあったが、中でも多く執り行われたのは、試合だ。ま、当然だわな。強い奴を選ぼうってんだ。篩にかけるってんなら、互いに戦わせた方が手っ取り早い。

 さっきも言ったが、集まった連中の数は千人。無論、試合の前にある試験や試練で落とされた者も多くいるが、それでも試合の数は半端なかったし、試合の内容自体も濃いものばかりだった。しかも、敗北すれば、即脱落。力もそうだが、精神力の方も試される。


 その中で、ジグル・フリドーは一度も敗けたことがなかった。

 そう、一度も、だ。それがどういう意味か、わかるか?


 俺も当時、その中の一人で、あいつの剣を間近で見たんだが……ありゃ、ダメだ。何がって、あれは人が使っていいような剣じゃあない。あの男の剣は正しく縦横無尽。こちらの攻撃を初見だろうと対処していく。そして、隙を見せれば最後。一気に畳み掛けてくる。どんな攻撃も防御も、あいつの前では意味がない。魔術的な攻撃も大方は避けられちまう。時には魔術の炎を切り裂いたことすらある。無論、何の変哲もない剣で、だ。

 それは天才的だとか、才能だとか、そういう領域を超えている。自分の人生を全て剣に捧げてきた。そういう奴でないと、たどり着けない場所に、あいつはいたんだよ。奴が異常な程、努力してたのは皆知ってる。だが、それはなんというか、好きだからというより、それしかないから、と表現した方が正しいな。好悪関係なく、剣を振るうことで自分は生きていると証明してるって感じだった。


 話は変わるが、勇者、タツミ・ユウヤのことなんだがな。あいつの剣は、なんつーかすごいんだが、どことなく素人っぽさがあった。それがどうしてだかは、俺も他の連中も分からなかったが、何人かはおかしいとは思っていたようだった。

 けどま、おかしかろうが何だろうが、強かったのは確かだ。特に光の放出。あんなもん、普通の人間が対処できるモンじゃねぇ。

 だが、ジグル・フリドーだけは別だった。

 光の一擊を使おうが、関係ない。奴は聖剣を持ったタツミ・ユウヤにでさえ、敗けることはなかった。

 ……ま、毎回何かしらのごたごたがあって、決着はつかなかったが、それはどうでもいい話だ。戦いが続いていれば、どっちが勝っていたか、なんて見ていた連中はよく分かってるからな。

 タツミ・ユウヤは自分の思い通りにならない奴はとことん嫌う奴だった。だが、そんな奴でもジグル・フリドーの剣だけは認めていた。毛が一本生えた程度、なんて言ってたが、結局認めていることにはかわりねぇ。自分を嫌っている相手にすら、認めさせる力が、奴にはあった。


 ……なーんて言ったところで、あいつが勇者になれなかった事実は変わらねぇけどな。

 勇者に必要なのは、結局のところ力だ。それ以外のモンははっきり言って、必要ねぇ。当然だ。言い方悪いかもしれねぇが、魔王さえ倒せれば、それでいいんだからな。その証拠に、今の勇者はあんなんだが、聖剣の力は強大だ。何せ、ひと振りで百や二百の魔物を一掃できるんだからな。

 技術やら経験やら、そういうもんは必要ねぇって思い知らされたよ。自分の剣なんて、あんなのに比べれば無意味だと実感した奴も少なくねぇだろうよ。


 でもよ。それでも、あいつだけは違ったんだ。

 さっきも言ったが、ジグル・フリドーとタツミ・ユウヤは何度も試合をしてる。何度も何度も何度もな。その理由としては……まぁ、ぶっちゃけた話、タツミ・ユウヤに勝たせるため、だろうな。一番勇者に近かった男を倒せば、タツミ・ユウヤは名実ともに勇者になれる。それを望んだ馬鹿な連中が、裏で糸を引いてたんだよ。だから、タツミ・ユウヤが負けそうになると、いつも邪魔が入った。時には、試合前に妨害にすらあってたな。

 だが、それでもジグル・フリドーは敗けなかった。

 いつも全力で戦い、自らの剣を振るってた。

 最終的には、聖剣に選ばれたって理由でタツミ・ユウヤが勇者にはなったが、結局ジグル・フリドーが敗けることは一度もなかったよ。


 確かに、ジグル・フリドーは勇者にはなれなかった。それは事実だ。否定しない。

 だが、俺の知る最強の剣士って言われれば、奴以外に有り得ない。

 ひたすら剣の修行に没頭して、自分の剣はまだ上に上がれると信じて、誰よりも勇者になろうとあがき続けて……。

 俺は、人があれだけ努力できるのかって初めて知った。

 そして。

 魔術を使わない一対一の勝負で、あいつが敗けることはないだろうな。


 *


 一閃、一閃、一閃。

 甲高い音が鳴り響き、互いの刃がぶつかり合う度、何かが削れていく。それは物理的なものではない。気力と体力。そして精神力。それらを全て込めた一擊。それを放っているのだ。攻撃をするごとに、失っていくのは当然だろう。

 だが、両者ともに、それでも力が衰えることはなかった。


「ふんっ―――」


 ダインテイルは身体から出した剣を握り、振るっている。先程のように、無数の剣を射出することは、もうできない状態にあった。

 それは、剣が無いから、などというものではない。そんな暇はないから、というのが正しい。

 ダインテイルが剣を射出するには、身体のどこからでも、というわけではない。実際はどこからでも可能だが、命中率は身体の部位によって異なるのだ。

 一番性能がいいのは、両腕。故に、ダインテイルが剣を射出する場合、そのほとんどが手から出されている。だが、それもここまで距離を詰められていては、意味をなさない。そもそも、あの技は集中していなくてはできない代物。恐らく、ジグルはそれを理解している。だから、こちらに集中させる暇を与えない剣を振るっているのだ。

 いや、それ以前に。


「はぁ!!」


 刹那、ジグルの剣が、ダインテイルの頬を掠める。無論、致命傷ではなく、二人の剣戟は続いていく。その中で、先程斬られた頬から血が流れていることを、ダインテイルは戦いながら理解する。

 血が流れている。

 つまり、ジグルの剣はダインテイルの身体を僅かではあるが、斬ったという証明。

 ダインテイルは『魔殺加工』という特殊な加工をしている。それはあらゆる魔術・異能を防ぐ代物。無効化ではないものの、その防御力はほとんど無効化に近い。逆に言えば、それだけのものでしかないが、しかしダインテイル自身も強靭な造りになっている。

『魔殺加工』と強靭な造り。それらを兼ね備えたダインテイルは、最硬の存在と言えるだろう。

 だが、だ。


「―――やっぱり、そういうことなんですね」


 鍔迫り合いの最中、ジグルはダインテイルの頬から流れる血を見ながら、確信の言葉を口にした。


「貴方の『魔殺加工』、そして強靭な身体については、ゲオルさんの記憶から知ってました。その二つが合わさった貴方は頑丈であり、ある種無敵といえる。普通の攻撃は効かず、異能の力は意味を為さない。ゲオルさんは、そんな貴方の対策を数多く考えていました」


 剣と剣を互いに弾く。

 両者、間合いの一歩手前で互いに構えながら、にらみ合っていた。下手に動けばやられる。それこそ、剣の射出などもっての他。それをした直後、剣で捌かれ、一気に間合いを詰められ、そこで終わる。

 だから、ダインテイルはジグルの言葉を聞く他なかった。


「けれど、対策を考える内に一つ疑問が生じてきた。貴方の願いは己の主に倒されること。けれど、貴方自身が無敵になってしまえば、その願いは果たせない。貴方がザイリードさんのことを信頼しているのは知っています。しかし、いくら信頼しているとはいえ、それはあまりにも無茶がすぎるし、貴方らしくない」


 本気を出しながら戦い、その上で倒されたい。そのためには強くあらねばならないというのは理解できる。だが、それが攻撃を一切受け付けない、となればどうだろうか。それでは戦いどころの話ではなくなってしまう。

 そもそも、だ。ダインテイルがそんな戦いを望むだろうか。

 自分が無敵の身体である……そんな有利すぎる状況を?

 それは否、否である。

 ダインテイルが願うのは互いの全力を出し合う戦い。そこにはどちらかが有利すぎる、というのは無粋であり、きっと彼は嫌悪する。それが自分自身のことなら尚更だ。


「そこで、ゲオルさんは一つの仮説を立てました。貴方は、ザイリードさんが自分を倒せる方法を残しているのではないか、と」


 結局のところ、ダインテイルはザイリードに倒されることを本命としている。ならば、ザイリードならではの倒し方があるはず。

 ザイリードならではの倒し方。

 考えれるのは、ただ一つ。


「貴方の弱点。それは、普通の剣での攻撃に対しては、その頑丈の身体もそこまで固くはならない。違いますか?」


 これが、ジグルが『店』で剣を選ばなかった理由。

 魔剣や聖剣など、特殊な武器では意味がない。恐らく『魔殺加工』の力で封殺されてしまう。故に、ダインテイルを倒すには、あくまで普通の剣でなければいけない。

 何の力も持たず、ただ純粋な剣技のみで倒される。

 それが、ダインテイルの望みであり、願いである……ゲオルはそう予想していた。

 そして、その予想は的を射ていたらしい。


「大正解だ。まぁそれでも、頑丈なことには変わらんのだがな。鉄を切り裂く斬撃でなければ話にならん。だというのに、お前はこうも簡単に某に血を流させた。全く、末恐ろしいやつだ」


 言いながら、ダインテイルは不敵な笑みを浮かべる。


「しかし、あの魔術師め。そこまで理解していたか……だが、予想し、仮説を立てても尚、奴には実行することはできんかったのだろう。何せ、あれは魔術の腕は天下一品であったが、剣術においてはからっきしだったからな」


 そう。ゲオルが、ダインテイルの弱点を予想し、気づいていても尚、剣を使っての戦術を使用しなかったのは、ゲオル自身が剣の素人であったため。

 ダインテイルの身体に傷をつけるためには、鉄をも切り裂く剣技でなければならない。故に、素人のゲオルの剣では意味がないのだ。

 たとえ、自身の身体を魔術で強化させたところで、同じこと。剣技とは、剣術とは、長年積み重ねた努力と修練から生み出されるものなのだから。その場しのぎの急ごしらえでは、ダインテイルを斬ることは不可能。

 だから、ゲオルは自分が培ってきた魔術という努力の結晶でダインテイルと戦ってきたのだ。


「とはいえ、だ。その口振りからして、どうやら奴の記憶を少しは共有しているらしい。融合しかかっていたがため、というやつか。そして、納得した。お前が先程から、某の剣に対応できている理由がな」


 そう。ジグルはさっきからダインテイルの痛いところばかりを突いてくる。隙がない攻撃もそうだが、ダインテイルの攻撃をいとも簡単に弾いていた。

 いくら剣の才能があろうと、あまりにも対処が良すぎたのだ。

 そして、当然のことながら、それには理由があった。


「あの魔術師の記憶……それが、お前の用意してきた策か。奴と某は何度も戦ってきた。その過程で成長し、初期の頃よりは強くなった自負はあるが、しかしそれでも癖や攻撃手段は把握できてしまう。初見で射出された剣をなんなく叩き落とせたのも、そういうわけか」


 身体から剣が射出してくる、などというのは通常ありえないし、考えられない。本来なら、回避や防御どころか、対処しようと考える前に串刺しになるものだ。

 だというのに、ジグルが取った行動は、回避や防御ではなく、叩き落とすという強気な対処法。

 それを可能としたのが、ゲオルの記憶だった、というわけだ。


「卑怯、と言われてしまえばその通りです。何せ、僕は今、自分一人の力では戦ってない。ゲオルさんから借りているこの身体。そして、垣間見たあの人の記憶。それを持って、貴方と戦っているのだから」

「ハハハッ。何を言うかと思えば。卑怯などと、言うわけなかろう。むしろ、より一層、お前という剣士が気に入った。記憶を垣間見たとはいえ、それで対応できるなど、聞いたこともないわ」


 たとえ記憶を見て、ダインテイルの攻撃手段や癖などを把握したとして、それを実戦でいきなり対応できるなど、それこそ人間離れしていると言わざるを得ない。


「だが、それでいい。今のお前になら、某の本気をぶつけられそうだからなぁ!!」


 声を張り上げると同時に、ダインテイルの覇気がさらに強くなる。

 来る。

 ジグルは、魔術師の記憶の中で見たあれが来るのだと即座に察し、剣を構えた。


「【数多の戦を駆けぬけながら 刃を喰らい幾星霜 この身は元から剣であれど 研鑽重ね鍛え上げ 無二の極地に至りけり】」


 自己暗示の言葉。それにより、自らを極限まで高めるダインテイルの奥の手。

 先程、叩き落とした無数の剣は、ダインテイルの元へと帰っていく。

 一見、無防備な魔剣を前に、しかしジグルは動かない。

 そして。


「【抜剣・遮二夢刃】―――っ」


 漆黒の刃と化した右腕を、ダインテイルはひと振りする。それだけで、風が吹き荒れ、教会の窓ガラスは全て割れていった。

 それは、魔剣が本気となった姿であり、無数の剣を喰らってきた彼の生き様そのもの。

 知っている。理解している。

 その姿、その刃。どれもゲオルの記憶にあった通りのもの。

 そして、彼がこの状態になれば必ず言う台詞もまた、ジグルは予測できていた。 


「では―――第二幕と洒落こもうではないか」


 言葉と同時に放たれた一擊。

 それによって、教会は一瞬にして崩壊したのだった。

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