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七話 ゲーゲラの街④

「あの……良かったんですか?」


 ユウヤとメリサのもとから離れてしばらくした後、エレナはそんなことを言い出した。それが何を意味しているのかは、言うまでもない。

 エレナの前を歩いていたゲオルはその言葉と同時に立ち止まり、振り返りながら呟く。


「それは、メリサとかいう女のことか? 何故貴様が気にかける?」

「いえ、その……あの方はジグルさんの知り合いみたいでしたから……」

「だとしても、ワレには関係な……あーなるほど。そういうことか。つまり貴様はジグル・フリドーの女関係について知りたかった、ということか」


 なっ!? と言いながらエレナは頬を赤らめる。


「確かに気持ちも理解できないではない。好意を寄せている男の知り合いに女がいれば、気になるというもの。故に情報を仕入れたいというのは定石だな。だが、やめておけ。あれは会話するだけで色々とこじれる。分かり易い性格ではあるが、それ故に色々と面倒でも……」

「……あの、ゲオルさん。どうしてそんなに詳しいんでしょうか?」

「ん? 何、不思議なことではない。ワレはジグル・フリドーの記憶を一部ではあるが把握しているからな。その中に彼奴の情報があったまでのこと。ああちなみに、ジグル・フリドーと彼奴の関係が何だったのかは教えられんぞ。流石のワレも前の持ち主の情報を勝手に口にするようなことはしたくないのでな」


 ゲオルとて、自分のことを赤の他人にぺらぺらと喋られるのは好きではない。というより嫌悪している。そんな奴がいれば、即座に制裁を加えるだろう。

 ……まぁ自分の情報を知っている友人などいないのだが。


「そ、そうではなくてですね……あんな別れ方でよかったのかと。あれじゃ自分がジグルさんではないと言っているようなものだったじゃないですか。途中、私もゲオルさんの名前を出していたので人のことは言えないですけど……」


 エレナは最初、ゲオルをジグルとして扱い、その場を切り抜けようとした。けれど、それも途中から意味をなさなくなっていた。

 さらに最後のゲオルの言葉。あれはどう考えても「自分はジグルではない」といっているようなものだった。


「構わん。どうせあの女のことだ。言っていただろう? 腹いせにやっているのか、と。まぁ中身が入れ替わっている、などと普通の人間は誰も分からないものだ。故に勘違いしてもおかしくはないし、恐らく今もしているだろう。故に問題ない。それに」

「それに?」

「もしも、ワレがシグル・フリドーの体を乗っ取ったと分かったところであれには何もできない。する資格はない」


 だからこその最後の言葉。

 死にたくなければ二度と関わるな……あれは無論、彼女を気遣っての言葉ではなく、もう二度と彼女の姿をゲオルが見たくないと思っているからである。

 そのことに気がついたのか、エレナはふと質問をする。


「あの……気になっていたことがあるんですけど」

「何だ?」

「あの時、この身体が傍にいたくないと訴えてるって言ってましたけど、本当ですか?」


 言われて、ああ、と思い出したかのようにゲオルは呟く。


「あんなものはただの方便だ。ワレがあの娘の顔を見たくないから言ったまでにすぎん。だから、この身体にジグル・フリドーの意識が残っている、とは思うな」

「……はい。わかってます」


 淡々と事実を告げるゲオル。だが、それはあくまで真実だ。妙な期待を持たせるのは酷というものだし、彼女にとっても意味はない。

 そうして、二人は今度こそ宿探しに足を運んだのだった。


 *


 夜。

 完全に夕日が沈み、月が空へと登っている頃。

 本来ならば宿のベッドで寝ているはずのゲオルとエレナは大通りの一角にいた。


「まさか、こんなことになるなんて……」

「全くだ」


 二人の声には少々覇気がない。というか、やる気が感じられない。

 というのも、その原因は今から少し前に遡る。

 ゲオル達はあの後、すぐに宿を探し当てた。活気があふれる街だ。宿の一つや二つ、見つけるのは造作もなかった。

 だが、宿に入って部屋をたのもうとすると。


「申し訳ありません。只今、全ての部屋が埋まっている状態で……」


 その言葉に二人は仕方ない、とその時は思った。宿屋の部屋がうまっている、というのは然程珍しくもない。よくあることだ、と思いながらゲオル達は次の宿へと向かう。

 しかし。


「えーっと、そのですね。今部屋が全部使われていまして……」

「すみませんが、うちは今、休業中でして……」

「空いてません。全く、一つも、空いてません。なのでお引取りを……」


 そこからいく全ての宿に断られ続けたのだった。

 もしこれが仮に何かしらの祭りや行事が行われていたのなら納得もいく。街の外からそれだけの人がやってくるのだ。泊められない、部屋がない、というのもうなずけただろう。

 だが、今回に限っては違う。どう考えても祭りも行事もなにもないし、どう考えても空き部屋があるというのに断られている。しかも、それだけではない。行くところ行くところで自分達を見てひそひそと話す人間がちらほらといる。今もそうだ。

 まるで噂話でもしているかのような、そんな具合である。

 一体何なのか、この扱いは……と思っていたゲオルだったが、思いつくことは一つだけだった。


「あの勇者の仕業か」


 そうとしか考えられない。

 ゲオルはこの街にきたことはある。が、それは何十年も前の話であり、しかも問題を起こした覚えはない。加えていうのなら、その時は別の身体だったため、もしも彼に何かしらを思っている人間がいたとしても分からないはずだ。エレナに至ってはこの街に来るのも初めてのはずなので、問題外である。

 ならば、考えられるとしたら、昼間の騒動しか考えつかないのだ。


「なるほど、どうせこの街にお前の居場所なんてない、というのはこういう意味だったか」


 恐らくだが、何かしらの圧力をかけて自分達に対し、妨害をしているのだろう。宿屋の連中もこちらに対し、本当に申し訳なさそうな目をしていたのは恐らくそういうことだ。


「本当にクズだな、あの勇者」

「決め付けはいけませんよ……と言いたいところですが、今のところ思いつくのが他にないので何とも言えませんよね……でもいくら勇者だからって街に圧力をかける、なんてことできるんでしょうか……」


 確かにそうだ。

 魔王を倒し、世界を救う勇者……その勇者でも街に圧力をかけるような力はあるのだろうか。もしかしたら、勇者を信奉している街の連中が自発的に自分達に嫌がらせをしている、というのも思い浮かんだが、宿屋の対応からしてそれはない。

 ならばどうして?


「そんなの簡単だよ。この街を牛耳っている家の奴に勇者が取り入っているからだよ」


 ふと、声がする。それも聞き覚えのある声だ。

 見てみるとそこには昼間見た、スリをした子供がいた。


「貴様……」

「こんばんは、お二人さん。見事にはぶられてるね。まぁ勇者を殴っちゃったんなら、これくらいはされるよ」

「あの、それはどういう……」

「そのままの意味だよ。この街で一番偉いデリッシュ家ってのがいるんだけど、勇者達は今、そいつの屋敷にいるんだ。だから、そいつに頼んでお姉さん達に嫌がらせしてるんだと思うよ」


 それは何とも情けないというか、呆れるというか。本当に勇者がやることか、それ。

 などと心の中で吐露しつつ、ゲオルは再び現れた子供に対し、言う。


「わざわざそんなことを言うためにここに来たのか? それとも昼間の続きをして欲しいと?」

「わーっ待った待った! 昼間のことはもう反省してるって、いや本当に! だから骨を鳴らしてこっちに近づかないでよ!!」


 必死に嘆願する子供のとなりでエレナが「もうゲオルさん……」とたしなめてきた。


「分かっている……で、本当に何しにきたんだ?」

「別に大したことじゃないさ……ただ、二人が困ってると思ってね。よかったらウチに来る? 狭いところだけど、街の外で一晩過ごすよりかはマシだと思うよ」


 その言葉にゲオルは一瞬、怪訝な顔付きになる。


「……どういう腹積もりだ?」

「別に。ただ、昼間のお詫びがしたいだけ……ってことにしといてよ」


 その言葉に、裏があるとは思う。

 だが、悪意があるわけではない。嘘をついているわけでもない。

 ならば、だ。


「ゲオルさん」

「……分かった。貴様の申し出、受けてやろう」


 そうして、二人は子供の家へと向かうことになった。

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