第4話 特殊捜査部隊
カイトとシュナの対決は、一時間に及んだ。
実力は互角。
互いの攻撃は避けられ、防がれ、傷一つつけられていない。
「んんー・・・こいつはまだまだ時間がかかりそうだなぁ・・・流石。最強と謳われるだけはあるねぇ・・・カイトさん?」
「シュナ・・・想像以上だった。」
高速の攻防が各々の強さを認めた。
「そろそろ僕の後ろにあるものを使った方がよさそうだけど・・・」
シュナの後ろにあるのは、ケース“アルファ”と呼ばれたアルミケース。
しかし、シュナは刀を、鞘にしまってしまった。
「ごめんねぇ・・・僕、それ見たいんだけど、時間なくて・・・ね?」
苦い笑みを浮かべるシュナを見るに、つられるようにカイトも口角を上げる。
「そうか実は、俺もだ」
「じゃあまたね、カイトさん。今度は本気で」
「ああ」
シュウがテレポートでいなくなった。
カイトも光の槍を消す。
「・・・・・」
カイトは、何かが暗闇で動き出しているのを肌身で感じていた。
* * *
人間をやめたと知った時、最初に思ったのは・・・恐怖だった。
人を殺すためにできた。その言葉の泥沼のような感覚。
怖くて怖くて
僕は逃げ出した
逃げて逃げて、
逃げて逃げて逃げて逃げてにげてにげてにげてニゲテニゲテニゲテ、にげた。
ようやく立ち止まれた時には、横も後ろも真っ黒だった。
僕は、暗闇に溺れるしかなかった。
同胞の抹殺。それが僕の使命。
たとえ友であっても、殺せ。
僕には、殺戮の自由がある。
殺すために何をしても良い。
僕の生きる理由。
結局、逃げても逃げなくても同じだった。
僕はそこでようやく吹っ切れた。
いや違う・・・
諦めてしまったんだ。
* * *
ユウとカイトが接触して五日経った深夜。
その日が来た。
「ねぇ、レイナ?」
「うん?どうしたの?」
消灯した喫茶店。
ふたりは椅子に座って、時間を待っていた。
「レイナは、人外は必要ないものだと思う?」
「うーん・・・少なくとも・・・今は必要とされてないんじゃないかしら」
「今は・・・か」
「私達って確かプロト版・・・つまり、試作品ってことでしょ?
だから、完全版ができたら、私達は必要だったことになる」
レイナは淡々と続けた。
「だから、必要とはされないけど、必要にはなるのよ、私達が死んだ時に」
「そっか、少しスッキリした。ありがとう」
ユウは少しだけ笑った。
「時間だ、行こう」
「うん、作戦通りに、またここで」
レイナが黒い魔性の手を発現させ、勢いよく喫茶店を出た。
ユウは歩いて喫茶店を出た。
直後、頭の中から声が響く。
もう幾度となく聞いた、重く響く声。
“ユウよ、躊躇うな”
ーうん
“貴様は我だ、恐れるな”
ーうん
“殺戮を愉しめ、それがお前だ”
ー・・・うん
ー我が肉体は死を求める
本能のままに。
ー怨恨など我には通づ
怖いものなんてない。
ー我に意味は要らず、理由は要らず
故、求められたことだけを淡々とこなすだけ。
ー我が心は悪魔へと還そう
それの代償など、もはや知ったことではない。
ー悪魔よ迷宮より這い上がるがいい
ー“アリアドネー”
ユウの周りにどす黒い瘴気が纏わる。レイナと比較にならないほどの量と濃い色。
「・・・・・」
ユウは隣の建物の屋上まで飛んだ
狙うは中心街のビルの窓。
屋上から屋上へと飛んでいく。
夜空を黒き悪魔が駆けた。
「社長!カイトさん!」
社長室に一人の男が走ってきた。
「どうした?」
「一階にて女に襲撃!」
「女?」
社長は、その程度が何だと言った顔をしている。
「恐らく、人外かと!我々の手には追えません!」
「なに?一体どんな理由で・・・む?」
カイトがその言葉に反応すると、急に窓を向いた。
とてつもない何かを感じた。
いや、殺気だ。
淀みない殺気。
「ランは一階の人外の相手を、それ以外のやつは社長の護衛を」
「御意に。カイトさんは・・・」
「もう一人いる。俺はそっちを」
「もう一人・・・ですか?」
「ああ、感じた。・・・嫌な感じだ」
「そう・・・ですか。私は感じないのですが・・・カイトさんが言うなら信じましょう」
「ああ、頼む」
「カイト」
部屋を出ようとしたカイトに社長が声をかける。
「くれぐれも気をつけるように」
「・・・お気遣い光栄です。では、失礼します」
一階、ビルのラウンジ。
「お前ら!」
「ランさん!」
「ここは私が相手になる!お前ら全員社長の護衛に当たれ!」
「了解です。総員退避!ランさんがきたぞ!」
ラウンジの真ん中、広い入り口に出ると・・・
十人近くのスーツの男・・・であっただろう遺体が散乱している。
「これは・・・中々残酷だな。ヘドが出る」
足がないもの、手がないもの、頭がないもの、逆に体の中身だけがだけがないもの。
灰色の石のラウンジが赤に染まっている。
真ん中に瘴気を纏う人影が見える。
横たわる人間の前でしゃがんでいる。
「ぬ?」
ランが構えようとした時、複数ある魔障の手のうちの一本が勢いよく襲いかかってきた。
「起動!」
ランが声を上げる。
すると、ランの持っていたアルミケースが瞬時に変形した。
そして襲いかかってきた魔性の手に衝突する。
「はぁぁぁぁあ!」
大剣へと変形した。
ドンと音がなるや、その魔障の手を大剣が受け止めた。
「ケース“デルタ” ソード・エネルギア!!」
ランの声に呼応するように、その剣に彫られた青い線が光る。
そして、鈍った魔障の手を押し返し、真っ二つに斬った。
「おや?これは能力を使わなくても勝ててしまうか?」
明らかな煽りで挑発するランを真ん中の人影が見ていた。
「いやいや、そんな簡単なわけないじゃないですか、いくらでも再生できますよこんなの」
少女は言ったとうりに、その手を再生させたどころか、本数すら増やした。
「ほう、これは面白い・・・私も滾ってきた・・・」
今度は複数の手が襲いかかってくる。
「ついてこい、ソード・エネルギア!全て斬り伏せるぞ!」
大剣が輝きに満ちる。
ランは、それを豪快に振り回し、四方八方から襲いかかる魔手を片っ端から切りつけていった。
屋上ヘリポートに、カイトが立つ。
(あの殺気は完全に一人に向けられたもの・・・なら狙いは社長でないはず・・・)
・・・それはすぐに現れた。
ビルの壁を蹴って、カイトの前に、その正体が降り立った。
真っ黒なナニカ。
カイトすら一歩引くほどの殺意の塊。
カイトはひとつだけ叫びたくなるような言葉を歯軋りで抑えた。
ーこんなの人の形じゃない。
ナニカが向かってくる。
掌握された悪意は一点のみをめがける。
心臓。
カイトはすかさず“アラドヴァル”を胸の前に構えた。
見事に・・・奴は背後へ回った。
「起動」
カイトの声に呼応して、背後にあったアルミケースから何本ものリボン状の鉄の塊が飛び出した。
先の方がくるくる巻かれ、鋭くなっている。
そして全てのリボンが、ナニカを貫く。
「・・・・!!」
ナニカが口から血を吐いた。
「同じ赤い血が流れているのか・・・少し安心した」
貫ぬいたリボン状の鉄が、カイトの左手に集まっていき、槍状の形を織り成していく。
「ケース“アルファ”無形装ファントム」
「・・・!・・・。」
ナニカはふらりふらりと立ち上がる。
ナニカは何も喋らない。
そしてカイトは一つ気付いたことを質問した。
「俺はお前に覚えはない。なら・・・その怨嗟はどこの何だ?」
カイトはなおも続けた。
「俺に何か非があるなら謝ろう。・・・だがその殺気は何だ?ただの恨みじゃない。深い復讐の怨嗟。お前は・・・何の為にここにいる?」
カイトは堕ち続けるナニカが見えていた。
不器用ながら、必死に手を伸ばしていた。
その返答は実に明確だった。
黒い魔性は燃え盛る炎のように勢いを増した。
「ぁ・・ぁ・ぁぁ・・・!」
ナニカが口を開く。
「もう・・遅・・・い!もう・・・手・・遅・れ・・・だ!」
ー刹那。ナニカはカイトの眼の前にいた。
「お前・・も・・もう・・遅・・い!」
カイトの胸の前には心臓を貫こうとしたナニカの手があった。
再びリボン状になった『ファントム』がその腕に巻き付いて押し付けていた。
「・・・・・なぜだ」
『ファントム』が勢いよくナニカを吹き飛ばした。
『ファントム』が右手に巻き付いていく。
カイトの右手の槍は夜空のごとき美しい輝きをしていた。
「なぜ諦めた!!」
カイトは決して間に合った訳じゃない。
むしろ間に合わなかった。
でも、それでも・・・!
瞬き一回だけ。
ナニカの左腕は跡なく消えていた
「・・・・え・・・?」
カイトは一言だけ囁いた。
「それが・・・諦めない、意地汚い俺との差だ」
「あ・・・あ・・・」
ナニカは膝をつく・・・そして・・・
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁああぁ!!!」
慟哭。
ゆらゆらと立ち上がる。
先ほど垣間見えた理性はもはやカケラも見えない。
「付き合ってやる・・・ユウ」
カイトは槍を構える。
ナニカを見るカイトの目は哀れんでいた。
彼の醜さへの哀れみではない。
堕ちゆくかつての友がまだ気づけていないことに。
まだ間に合うことに。
ユウには何も理解できなかった。
何が彼を強くしているんだ。
彼は正義の味方なんかでも無い。
やってる事はさほど自分と変わらない。
切り捨てていく事。
なのに、何が違うのか。
考えるたびに分からない。
何も先がわからない。
ユウの四肢はすでに動かない。
「お前を堕としたのは恐らく、俺が追っているやつだろう」
カイトは、倒れ込んでいるユウに背中を向けて立っている。
「今、目の前に答えがいる」
「ターゲット二名確認」
抑揚のない声が聞こえた。
全身が機械に包まれている人がいた。
「探したぞ、“インクブス”」
カイトは“アラドヴァル”を構える。
その声音は変わらない。
「No.002カイトー貴様は反逆者として処罰する」
「No.003ユウー暗殺失敗。処罰する」
「ーーーっ」
ユウは息を飲んだ。
「以上二名を捕捉、執行対象と断定」
淡々と言葉を発する。
「起動」
その一言で、目の前の鎧が形を変えていく。
動きの邪魔になる部分が消えた。
さらに、二本の大剣が背中に背負われている。
「ケース・ゼータ・エータ・テータ“フルアーマー・スピード”」
「私の名は特殊捜査機関“インクブス”No.4996ガムス・・・これより執行を開始する。」
床を蹴り、かなりの速さで迫る。
ーグサッ
「・・・そうか」
カイトの口から血が流れる。
カイトの背中には、たった一本のナイフが刺さっていた。
ご無沙汰しております。吹風友泣です。
お待たせいたしました。いかがだったでしょう?
最近忙しくて、中々時間と疲労に余裕が無くて・・・
次はなるべく早く出せるよう精進します。
もしよかったら感想等々頂けると嬉しいです。
「・・・やっぱり僕は、何も変わってないな・・・」
第五話 敗北
「ごめんね」




