第3話 一矢一閃
「あ・・・」
時は真夜中の最中。
「雨・・・?」
突然、雨が降り始めた。
二人は急いで近くの軒下に駆け寄り、雨宿りをした。
レイナが白い息を手に吹きかけ手を擦り合わせていると、
「うわっ?!」
急に視界が暗くなって素っ頓狂な声が出てしまったレイナの、
「あっ・・・」
「風邪を引かれちゃ困る。あいにくタオルも傘もないからな。」
頭の上には黒いコートが被せられている。
「あ・・ありがとう・・」
彼女は視点を斜め下にずらした。
「止みそうにないからこのまま行くぞ」
さまよう幽霊のように、二人は静かな街で雨に打たれていた。
むき出し電柱が複雑に絡まっている、
中心街からそう離れない場所にある路地裏。
道の両端には四、五階の建物が所狭しと立っている。
そのうちの一つ、
赤く緑で縁取りされたドアがあった。
closeと書かれた看板がドアノブにかけられている。
しかし、ユウはそのドアをノックした。
「入りますよ」
ドアに鍵はかけられておらず、開けてみると、
「あーら・・・おかえり」
内装は木のぬくもりを感じるいくつかの椅子、テーブル、カウンター。
ここは喫茶店『ルーチェ』
「ただいま・・・栄理さん」
茶色の長い髪がトレードマークの栄理が切り盛りするお店だ。
「まーったくあんたたちって子は・・・またなんかやらかしたの?」
彼女はカウンターの椅子に座ってタバコをふかしている。
さらには、スマートフォンをいじっており、こちらを見ようとする気がない。
「えぇっと・・・はい・・」
「全くこんな人のいる所でどんぱちするなっていったでしょ!ほら、ニュースを見てみんなさい!みんな『なにかが空中で爆発した〜』『黒服の人が道を規制してる〜』って大騒ぎよ!」
その証拠とそのニュースが乗ったサイトをユウに押し付けてきた。
「全く心配させて・・・」
「ごめんなさい・・・」
レイナはシュンと首を下げた。
「いいのよ・・・大体悪いのこいつだし」
その視点がじっとユウに向かえば、うっ・・・っと気まずい声とびたしてしまった。
「ほら、さっさとシャワー浴びなさい。風邪ひいちゃうわよ」
栄理の顔は少し苦い笑みを浮かべていた。
「ほんとに・・・いっつもこの子たちは・・・」
「おいおい・・・社長さん何言ってんだ?」
「言った事そのままだ。貴様らに渡すものはない」
ビルの高層階。社長室。
「ふざけんな・・・クソジジイ・・・お前の時代は終わったんだよ」
「時代・・・か」
応接用の黒いソファーに座り込む男は腕や足の各所にタトゥーを彫り込んでいる。
心底ムカついているのか足の貧乏ゆすりの音が大きくなっていく。
「さっさと用意しろ・・・一千万」
一方は黒の革製チェアに座っている。
「何度言ったらわかる・・・無理だ」
「そうか・・・じゃあ、もうこの世に居候しなくてもいいだろうっ!」
ソファーに座る男が勢いよく立ち上がり、ズボンのポケットから拳銃を取り出す。
慣れた手つきで球が装填される。
あっという間にトリガーは引かれた。一ミリのズレなく社長の首をめがけて。
しかし、その銃弾は弾道の途中で止まった。
「なぁっ・・・!?」
その弾は、人差し指と中指の間に。
横から介入してきたその男に。
たかがガードマンごときに。
まるでボールをキャッチしただけのように当然、と言いたげな顔で。
「ひぃぃぃ!!」
そのガードマンの目がタトゥーの男を睨む。
冷然とした眼光。
生物的本能が勝てないと確信するほどの覇気。
「よい・・・カイト。逃してやれ・・・今は」
「・・・・・」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・!!!」
男はあっという間に逃げ出して行った。
「まだ・・・私は死ねない。わたしにはやらなくてはいけないことがあるのだ・・・」
部屋が静寂に包まれる。
朝日が昇り、空に雨上がりの青色が広がる。
カイトのポケットから着信音がした。
『こちらB隊。地点Dにて敵拠点発見。』
「了解した。それ以外の隊は呼んだか?」
『すでに』
「今そっちに向かう。交戦はするな」
『了解です』
電話を切った。
「ラン」
「ここに」
カイトの一言に呼応してドアの前に一瞬にして現れた、
長い緋色の髪を後ろで束ねた女性。
「護衛を任せた」
「御意」
再びその女性は姿をくらました。
「それでは、社長」
「ああ、さっさと終わらせてこい」
社長はにっと笑って答えた。
カイトの乗った車が現れるのは連絡を取ってから十分程度だった。
生い茂った山道に二十人程度の黒いスーツを着た男たちが身を隠していた。
「状況」
横から一人の男がカイトに歩み寄る。
「依然、動きは無しです」
「俺一人で様子を探る。ABCDそれぞれ四方向で距離を取り監視続行」
「了解」
黒スーツの男は素早く消えた。
「ケース“アルファ”」
そう言うと、車に乗っていた男から黒いアルミケースを受け取る。
そしてカイトはまっすぐと林を歩き出した。
木が生い茂り日が出ても薄暗く、視界が悪い林を一人歩く。
しばらく歩き続けると、目の前にコンクリートの建物が現れた。
「・・・・」
ツタが巻きつき、ところどころは穴が空いた廃病院。
周りの木々がガラスを突き破り、中でも大きくなっているようだ。
「こんな山奥に病院か・・・気味が悪いな」
そんなことをカイトは、僅かにニヤリと笑って呟いた。
目の前の割れたガラス扉を押し、中へ入る。
割れたガラス窓からの風の音だけがあり、廊下の先までは暗くて見えない。
地面は埃かぶっている。
「・・・」
その埃には足跡があった。
その先にも、足跡がある。
「罠?だろうな」
カイトはそれでも、その足跡を辿っていった。
辿っていくと地下へと続く階段があった。
少し戸惑いを見せたが問題ないと言わんばかりに階段を降りた。
地下は一歩先すらも見えない暗闇だった。
足元の足跡はまだ続いている。
一歩踏んだその刹那ー
「・・・!」
奥から何かがものすごいスピードで突進してきた。
カイトはその襲撃をコンマ数秒差で左に避ける。
「フジュヴヴヴ」
「・・・」
襲いかかってきた元凶が目の前の暗闇にいる。
さっきの避けた瞬間に見えた影は・・・
「人間・・・?」
しかし、目は真っ白。どす黒い血管が浮き出た変わり果てた姿だった。
「ギュジャアア」
どうやら会話はできないようだ。
「なら・・・今楽にしてやる」
その声音は死者に手向けを置くように静かだった。
カイトの右手がまばゆい光に包まれる。
その光は弧を描く。
そして収束し形となる。
カイトの目の前には、輝く光の弓があった。
「・・・」
弦を引く。
弓越しにはさっき見た異形化した人間がいた。
そして、光の矢が弓と同じように生成される。
危機を感じ取ったのか、異形化した人間が突進してくる。
地面を左に蹴って避ける。
同時に体をひねり矢の先を相手の胸に向ける。
「大賢者の・・・一閃!」
矢が放たれる。
その体を射抜いた・・・と言うよりは吹き飛ばした。
「ギャ・・・ガァ・・・」
異形化した人間は跡形もなく消え去っていた。
光の弓は雲散霧消して消えた。
カイトは息一つ上がっていない。
その気配がある暗闇を睨んだ。
ぱちぱちぱちぱち
「・・・」
暗闇の奥から拍手が響いてくる。
「お見事ですカイトさん」
暗雲の空間に電気がつく。
「ほう・・・」
拍手をしたであろう笑顔の男と、異形とかした人間・・・数にしておおよそ二十人。
「この場所を見つけたこと、そして圧倒的な戦闘能力、本当に素晴らしい」
「それはどうも」
カイトは自身の周りに光を生み出した。
「まだ暴れ足りないといったとこですか?」
「ああ、お前を殺すまでは飽きたらねえな」
「おやおや・・・もっと寡黙で冷静な方かと思ったんですが・・・残念ですね」
「ふん、第一印象で相手の性格を決めつけるのは良くないんじゃないか」
「それはそうですね、次から気をつけます・・・では」
男は手を掲げる
「・・・こい」
その手が下に振り落とされる。
「かかれ!!」
異形化した人間たちが一斉に襲いかかる。
「・・・頭いいやつもいるのか」
男の横からはアサルトライフルを構える異形化した人間達が数人いた。
壁と地面と天井をうまく使って最初の弾幕と突進攻撃を全て避け切った。
そして編み出した光を収束させる。
こんどは細長く端を鋭利にさせて。
「光槍『アラドヴァル』!!」
間髪入れずに全方向から襲いかかってきた異形化した人間。
カイトは編み出した槍を振るい回す。
「・・・・・こいつは予想外だ」
男もその力には驚きを隠し得ない。
襲いかかっていた異形化した人間全員の首より上がなくなっているのだ。
べちゃべちゃと体が倒れていく。
赤黒い血を全身に浴びたカイトが一歩ずつ迫ってくる。
驚きはしたが、依然男は落ち着いている。
「・・・動きが見えないな・・・こいつは困った」
そう言って横にいた銃持ち達は首より上が消し飛び、倒れた。
「んなこと言って今のを避けるとは・・・皮肉か?」
カイトは獰猛に笑う。男も笑っていたままだった。
「ははは・・・ご褒美に僕の名前と能力を教えてあげましょう!」
「僕の名前はシュナ。能力は・・・」
「っ!!」
カイトの首には刀の刃が突きつけられていた。
一瞬にして後にいた。
「ありきたりだが、テレポーレーションだ」
狩人のようなつり上がった口元がその男の本性を悟らせる。
「ああ、今度から自己紹介するときにでも付け加えとけ」
「・・・!」
そしてシュナの首には、光の槍が突きつけられていた。
「ありきたりで便利で・・・厄介な能力だってなぁ・・・」
「・・・・」
二人は後ろに一歩後退し、数秒のミスすら許されない決闘へと、身を投じた。
時間は六時間前に遡る。
「く〜!風呂上がりのコーヒー牛乳は最高ね!」
ぷはーっとタオルを首に下げた寝巻きのレイナは、
カウンターの厨房冷蔵庫のコーヒー牛乳を飲んでいた。
濡れた髪は艶に輝き、それすらも屈服させるほどの笑顔で。
「レイナ本当オッサンみたいだよね・・・」
ユウは外の見える窓に一番近い椅子でバライティー番組を見ていた。
少し後ろめいたような視線で、レイナを見ていた。
「あはははは!ほんと言えてる、あはは!」
そのユウが見ている番組をエリはカウンター席から見ていた。
レイナの姿が滑稽だったのか、ユウのツッコミがツボに入ったのか、机を叩いて大笑いしていた。
「そ、そんなに・・にてるぅ?」
レイナの頬が赤くなる。
「え、レイナ・・・それならそれでありかもって考えたでしょ?!オネーサン引くわー」
「えりさん?!そ、そんなわけないじゃ無いですか!!」
「あーはいはいその隠れオッサン系ヒロインは流行らせないわよ」
「流行らす!!!・・・あ」
「・・・ぷあっはははははは!」
「(かああああああああ)」
「・・・あはは・・・」
なにこれ・・・とユウは、苦笑いしっぱなしだった。
「ん?・・・雪」
二人でギャイギャイ騒いでるのをよそにユウは雪が降り始めたことに気づいた。
「明日積もるかもなぁ・・・」
『ユウ!カイト!大きくなって会ったらもっといっぱい遊ぼうね!』
『こんなやつとは二度とごめんだ』
『同じく』
『もう、私が出ていくときなのに・・・なんで最後までけんかするのぉ・・・ふぇぇ』
『あわわ・・・ごめんごめんこれからはこのバカイトと仲良くするから泣くなよ』
『俺もこのアホユウと仲良くするから泣くな」
『本当ぅ?グスッ』
『ああ』『本当だよ』
『よかったぁ・・・あ、雪だよ!』
『本当だ!』『遊びに行こうぜ!』
『あ、待って私・・・』
『ぁ・・・ごめん』
『いや、いいよ行って』
『でも・・・』
『約束したじゃん三人でまた会おうって』
『・・・そうだな!じゃあ、大きくなったらまた会おう!』
『うん、またね!』
『ーーーーーー!ーーーー??!!』
『なーーんーーーでーー?!』
『ーーーーーーー逃げてーーーー!』
『っっっっ!?』
「どうしたのユウ?外をじーっと眺めて」
「ん?ああ」
レイナがユウの顔をまじまじと見る。
雪は降り止んでいた。
「ちょっと物ふけってただけ」
「ふーん・・・もう私寝るから」
「うん、おやすみ」
「(結局あの日もすぐ降り止んじゃったんだっけ)」
「・・・・・」
「また考えてたんでしょ」
椅子の横の机にホットコーヒーがコト、と置かれる。
「ありがとうエリさん」
「きっと大丈夫よ」
「そう・・・ですね・・・」
人外とは、人の姿をした、人ならざるものである。
人を殺すことに長けた生物である。
人の不幸そのものである。
いくつもの言葉で揶揄されてきた人外は・・・・・
元人間
である。
どうも、毎度ありがとうございます。吹風友泣です!
第3話いかがでしたでしょうか?
風呂上がりの女の子・・・可愛いですよね・・・湿った髪の毛とか滑らかな肌のラインとか・・・
はい、えーっと今回はカイト中心のお話ということで、新しい能力が登場したりしましたね〜
あれはどれくらい強いのか・・・ストーリー内で無理だったら解説編とかでじっくり話したいですね〜
あーゆう細かい設定つくんの好きなんで。
さて、今回はここまで!
読んでくれてありがとうございます!
次もよろしくお願いします!
(感想とかいただけると嬉しいです)
「ターゲット二名確認。捕捉および沈黙化作業に移ります」
「ケースアルファ・・・!」
第4話 特殊捜査部隊




