俺って頭、沸いているのか
2055年4月1日 12時45分 古風五十鈴
黒川学園入学式簡素な看板が立てられた校門をくぐる。
正面玄関には、新入生の担任らしき人が新入生の名前を聞いたりクラスの位置を教えていた。
あそかに行けばいいのか、オレは、少しゴマ塩頭の教師に歩み寄った。
「え…っと、古風五十鈴だね、はい、これ。クラスの名簿と地図ね。
教室は、このまま廊下を真っすぐに進んだら401に入ってね」
地図と名簿を渡される。体の向きを変えようとしたその時、後ろで何かがぶつかった。
「あう、ごめんよ~、お兄さん背が高くて見えなかった」
後ろを振り返ると、小学生みたいな女の子が額を押さえながら立っていた。
「俺こそごめ…」
女の子の目線に合せようと屈んだ時、女の子の目が僅かに、不自然に反射していたそう、まるで、カメラのレンズみたいに反射していたのだ。
『マスター、何時まで立ち止まっているんですか?行きますよ』
メアリーが突如校舎へと右腕を引っ張る、視線を前に持っていくと光学迷彩が解けかかっているメアリーが腕を引っ張っていった。
「痛いから、分かったから、腕を引っ張らないで、じゃあね」
少女の方を振り返ると、そこには存在していなかった。イヤ、僅かにあの子の足くらいの足跡があった。
右肩に激痛が走ると同時に、足が前に出る。
「わかった、から引っ張るなよ」
メアリーに引っ張られながら、教室に入る。教室には、3人の少年が席に座っていた。
机の上に体を預け寝ている奴がいれば、髪をいじっている奴や何やら数を数えてはぶつぶつ言っている奴がいる。
オレは、辺りを見回し空いている席を見つけた。ちょうど、窓から二席目だ。
俺の隣の席に座って寝ている奴に挨拶をしようと声をかけた。
「こんにちは、元気?オレ名は、古風五十鈴だ、よろしく」
ゆっくりと顔をこちらに向けた。
「‥‥こんにちは、黒塚友哉…よろしく。初対面で済まないが少しお願いしてもいいか?
何か、食べ物をくれ」
黒塚のお腹が小さく鳴った。なるほど、腹がすいているのか、確かメアリーが焼いたクッキーが、鞄に入っていたはず。
鞄を開けクッキーの袋を取り出す。
メアリーが友達作りにと昨夜焼いてくれたものだ。黒塚に渡すと袋から三枚取り出し食べる。
「お、旨いなこれ、五十鈴が焼いたのか?」
「俺が焼いたわけではないよ。俺の戦闘侍女人形が焼いてくれたんだ」
黒塚から袋を受け取る。
「へ―、世話好きな戦闘侍女人形なんだね」
席に座り、鞄を机に置くと、もう一人の少年と男の教師が教室に入ってくる。
「はいはい、席に座ってくださいって皆座っているね」
担任は、黒板に名前を書く。
『瑠璃川 恭平』と書かれていた。
「私の名前は、瑠璃川恭平。趣味は、釣りです」
先生は、釣りをしているふりをする。
「へー、皆さんは、もう挨拶をしましたと思いますが、もう一度、皆の前でね、挨拶をしてくれるでしょうか?廊下側の人からお願いしますね」
「はい」
某戦闘部族のスーパーモードみたいな髪型の少年が立ち上がる。
「遠藤拓哉です‥‥」
遠藤は、困った顔で先生をみる。
「名前と趣味を言ってくれるとうれしいですね」
遠藤はしばらく考えてから口を開いた。
「趣味は、オンラインゲームです。よろしく」
オンラインゲームが好きなのか、今度おすすめを教えてもらおうと。
次に、白髪に中二病全開のコートを着ている少年が立ち上がった。
「彩雲辰人 趣味は…ものを作るのが好きだ。何か質問あるか?」
ものを作る?何を作るんだろうか?俺はいろいろ考えたが、結論がでなかった。
「質問、そのコートは何ですか?」
ピンク髪のオールバックの少年が質問する。
「これか?これは、リキッドアーマーだよ」
コートのチャックを開けコートの内側を見せた。内側には、信号弾や銃、さらには、人対装甲ナイフがぶら下げられていた。
ここで豆知識 アーマーとは、侍女戦闘での際、流れ弾などに当たって大けがをしないように着るもので、全身が装甲に覆われたタイプと胴体だけ装甲に覆われたタイプと必要最低限の所しか装甲がないタイプの三種類があるが、彩雲のアーマーだけは、どのタイプにも当てはまらなかった。
俺は、そのアーマーの事が気になり質問した。
「そのアーマー?装甲など見えないですが、どんなタイプなんですか?」
彩雲は、席に戻ると鞄からオレンジ色の物体を取り出した物体はスライムのようにぷにぷにしたっ物体を取り出した。
「瑠璃川先生これを伸ばして持っていてください」
先生は、それを伸ばして前に差し出す。それを確認した彩雲は、コートから銃を抜き銃口を先生に向けためらいもなく引き金を引いた。
教室中が静かになり、小さな鉄が二つ落ちる音が響き渡る。待てよ?二つだと?
先生の足元に視線を落とすと、そこに発射された弾が煙を上げながら転がっていた。
教室中がざわめきだす。
「これは、ダイラータンシー現象で。波で濡れた砂浜があるだろ?濡れた所をそっと押すと沈むけど強く押したら沈まないだろ?あれを応用した防弾チョキなわけ」
先生が彩雲の頭を叩いて、次の人の紹介をさせる。
「岩本燐です、趣味はギター演奏です」
岩本は、ギターを真似した。
「何か?質問はないですか?」
俺はとくに無かったので目をつぶって何を言うか考えた。
「特にないようなので終わります」
岩本が椅子に座った音が聞こえる。
よし、俺の番か。立ち上がり目を開ける。
「古風五十鈴です。趣味は……趣味は……」
やばい、何かを考えていたが、まだ決まってなかった。うぁ~、皆、早く言えって目をしてやがる。
とりあえず、何かを言おう。深呼吸をして口を開いた。
「いい天気ですね。連結しませんか?」
俺は何を言っている?頭の中が混乱しだし頭を激しく机に叩きつける。
額が割れ血が垂れてくる。前を見ると、顔を真っ青にいてドン引きしている先生が視界にはいる。
「趣味は、絵を描きます。よく書くのは、整備中の戦闘侍女人形の絵です」
血が足りなくなってきたんだろうか、視界が歪んで見える。そして、一瞬強い浮揚感を感じ床にたたきつけられ、俺の意識が遠のいた。
2055年4月5日午前 11時5分 岩本燐
重い瞼を起こすと共に電子音が聞こえてくれる。
「ここは、何処だ?」
「拠点Eの医療テントだ」
足元で、声が聞こえ首を上げるとそこには、辰人が立っていた。
そうだった。俺はあいつらの喧嘩を止めようとしたら意識を失たらしい。
辰人は、俺の元にくると、点滴を交換した。
「もう少し寝とけよ。…ここも相手にバレるかもしれない。運が悪ても後50分
かな?お前が寝ている間、五十鈴らと話しをしたよ。あと35分後、ここを破棄して全軍敵拠点Aに総攻撃を仕掛ける。それまで十分に休め」
辰人がそう言い残すと、部屋から出ようとしたが、出口で何かを思い出したように振り返った。
「後、散火の修理に関しては大丈夫だ。安心しろ」
親指を上に突き付けて辰人は笑い部屋を出た。さて、俺も休むか。
2055年4月1日 15時41分 黒塚友哉
残り1限で放課後を終わろうとしていた。
窓の外を眺めるも飽き教室を見渡す。
今朝のような張りつめた緊張はないが、やはり出逢ってから3時間たっても流石に緊張はしているようだ。
ふと、影が落ち上を見上げるとセッチーが立っていた。
「よう、疲れたな」
セッチーはけだるそうに席に座った。
「‥‥そうだな‥‥腹が減ったんだ少しそっとしといてくれ」
「了解」
セッチーは、鞄からメモ帳を取り出し、何やら書き始めた。
僕は、そっと立ち上がりセッチーの後ろに回り込みメモ帳をのぞき込んだ。
「セッチー何を描いている?」
メモ帳には、デッサン絵が描かれていた。どこかの町の風景のような絵だ。
「人のメモ帳を覗くのが趣味なのか?拓哉よ。
後、セッチーって何?」
セッチーは、手を止めず鉛筆を動かしながら話をする。
「S○Xを略してセッチー」
S○Xとは、昼頃の自己紹介で言った言葉だ。
「ったく、やめろよな。それはこっちからしては傷口に塩を塗っている気分だ」
セッチーは手を止め、メモ帳破り絵を俺に渡す。
「あげるよ」
絵を受け取ると共に教師の足音が聞こえてくる。僕は急いで席に戻った。
瑠璃川先生が教室に入ってくる。
「えー、この2時限目はですね。この学校は全寮制となっております。
今から、寮へ案内しますね。今日はもう授業は終わりにしますので荷物は持っていきましょう」
先生に、案内された量にたどり着く。
「ここは、男子と女子別館になっています。くれぐれも女子館には、いかないで下さないね?特に五十鈴君」
先生はセッチーを睨みつける。セッチーは気まずそうに口笛を吹いた。
僕たちは、寮館内に入りエレベーターに乗り二階に上がった。
コンクリートで作られた廊下を歩く。
「ここが皆さんの部屋です」
何回か曲がったあと、僕たちの部屋にたどり着き、岩本→彩雲→僕→遠藤→セッチーの順番に入った。
「おおすげ~、部屋の中に、個室を設けているのか~
しかし、これ誰が作ったんだ?おい」
彩雲は、本を持って寝ている羊の形をした木製の札が吊るされたドアに気づいた。
札には、丸いひらがなで「たつひとのへや」と書かれていた。
僕は、自分の部屋を探した。
「ここからだと、女子の部屋は見えないのか」
セッチーは、窓から外を見ながら舌打ちをした。窓の外には、山が広がっていた。ちなみに女子館は俺たちの部屋からだと見えるが、廊下と非常階段しか見えなかった。
自分の部屋のドアを見つけた。何の変哲もない木製の札に自分の名前が書かれているドアを開き、部屋に入る。
部屋には、勉強机とベッドと戦闘侍女人形の整備水槽が置かれていた。
ベッドの上に荷物を放り投げ水槽を覗き込む。
水槽の中では、愛機であるシェルフが目を閉じていた。
しばらくシェルフを眺めて、荷物から本を取り出しベッドに寝ころび読書をした。
読もうとしている本はとある大戦で活躍したパイロットの伝記だ。
2055年4月1日 15時45分 岩本燐
自分の部屋を見渡す。簡素なベッドと机、散火を整備するための水槽みたいなのが部屋の隅に置かれていた。ベッドの他には、買ってからまだを開封すらしてない散火が入っている箱が部屋の真ん中に置かれていた。
買ってからは、入学準備などで忙しく開封すらしていなかった。そうだな…今からでも開けようか…やめとくか?
ふっと、左腹部の古傷が傷みだしたとたん後ろでドアをロックする音が聞こえた。
「どうした性根?怖いの?」
後ろを振り返ると、軍服を着た女性がドアにもたれていた。いつの間に入ってきたんだか?
机の引き出しから、姉からもらった対装甲護衛ナイフを出し女性に向けるとそこには、誰もいなかった。
「後ろだよ」
後ろから、腕を強く握られ上にあげられる。
「いつの間に後ろに」
後ろに向かって強く蹴ろうとするが腕をさらに強く握られ腕が鈍い音を立てる。
「っく」
腕に強い痛みが入るが声を上げなかった。
「ほう?少年、この痛みに声を上げないなんてえらいじゃん?」
「生憎、俺は、これぐらいの痛みじゃあ声をあげない主義でな。声を上げたら負けだと思うんだ。だから声をあげなのさ」
それを聞いた彼女は腕を解放した。
「ふん、面白くないな~い。私と同じドラックタイプがいると聞いていたがこんな少年がマスターだと‥‥」
彼女は、箱に近づき箱の封を勝手に切った。
「あ、忘れていた」
女性は俺の方を振り返る。
「私の名前は、スカイライナー卯月惨式だよ。私のマスターの命令で、散火の開封を手伝えと言われてきたんだ」
卯月さんは、俺のほうに手を差し出すが俺は先ほどのことがあるから、少し警戒した。
「安心して少年、もう、痛いことはしないさ」
卯月の手を握る。
「岩本燐だ。よろしく」
こうして、俺たちは、魔鬼型散火の開封作業をしたのであった。