表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

人生の目標

「哲さんの人生最大の目標、目的は何でしょう?」


 近くでオーブンの掃除してる私へ笑いながらゆうさん。

 カーペットの上にそのまま置いたノートパソコンを操作しながら顔だけこちらに向けての問いかけ。

 バイト初日なので丁寧な言い方なのか。たまにだけど。


「金持ちになることです!!」

 そう、そのためにここに来たのだ。

 なれるなら今すぐにでも。



 部屋に椅子がない。いつも寝転んでるんだな。

 手の届く範囲に電話、ゴミ箱、いくつかのリモコンとマウス、紙とペン、ティッシュ。

 ありゃりゃ孫の手まで。


 六畳の部屋には低いテーブルとテレビ、空気清浄機、枕、薄い布団が一枚、室内運動機器他エトセトラ。

 本だけはやたらいっぱい。


 お世辞にも片付いてるとは言えない。

 置き場所は決まってるらしいが・・・。


 極めつけは部屋の隅にある尿瓶。

 ・・・トイレまで3メートルもないのに。



「金持ちになることが最大の目標? ピントずれまくり。自分のことわかってないね」

 かなりきつめのNG。


 人の目標ダメ出しするなよ・・・。



 ----------------------------------------



 哲は24歳、実家の大工見習い。

 昔から勉強が嫌いで、授業をさぼるなどちょっとやさぐれたことも足を引っ張り最終学歴は高卒。

 卒業して二年ほどフリーターでふらふらしていたが、二十歳超えたあたりでとうとう両親から雷。

 半強制的に父親の下で大工の手習いをスタート。今年で四年目。


 住んでるK市は日本で顕著な観光都市。近年インバウンドで外国からの旅人が急速に増加。市内で旅行に絡む商売は大繁盛。

 ホテル、店舗の建築増設、その他工事がひっきりなし。建設関連の職人はひっぱりだこ。

 それは哲のような見習い大工にも波及。ここ最近は選ばなければ仕事には困らない。


 いずれそれなりの職人となり充実した日々を過ごすのかなと未来展望は楽観的。

 たぶん自分は勝ち組。

 学歴なんて生きていく上でそんなに価値ない代物。

 少なくとも自分には。


 ところが、先日顕現たる事実にショックを受ける。


 発端は高校の同窓会。50人程集まった高校近くのホテルの宴会場。

 哲は仕事の都合で開始時間より半時遅れての参加。


「久しぶり」

「今なにしてるの?」

「調子いい?」

 同窓会お決まりの突っ込みがあちこちで乱舞。


 見渡すと会場の一角に明らかに女性密度が高い十名程のグループが歓談。

 昔気になってた女性をその集団に発見。傍らにポジション取り。


 輪の中心は高そうなスーツでコーディネートされた一人の男性。

 哲の高校時代の記憶のそれとはまるで別人のハイテンションの声が一際響く。

 当時は弱々しく、ガリ勉とばかにされてためがね。

 テスト以外目立つとこなく影の薄いさえない存在。

 哲とは特に接点もなくどうでもいいやつだったので会うのは卒業以来。

 現役で早稲田大学に合格、大手商社に入社したと風のうわさで耳にしていたが。


 それが今やどこから見ても垢抜けて洗練された出で立ちのビジネスマン。

 準備に頑張ったのが見てとれる着飾った女性から質問攻めの状態。

 当人は注目されてちょっとどや顔。

 数百カ所ある国内海外保養所が利用できるとか大概のものが割引で優遇されるとかいろんなパーティで忙しいとか。

「いいなあ」

「すごい!」

 羨望含む声が飛び交う中自慢めいた口調で女性陣に答えている。


 アラサーなら言葉も選ぶがいかんせん若輩。

 若い女性に囲まれた心の高ぶりは20代前半では制御不能。

 加えてアルコール入った自己PRが花盛りの同窓会。

 配慮なんか忘却の彼方。


 勤め先を誇るネタに、高校に隣接している広い敷地を保有する会社が使われた。

 学生時代の三年間、みんな毎日通学中嫌でも目にした場所。

 めがねはのたまった。

「あそこは孫会社でリストラ対象社員の受け皿だから近寄りたくない」


 それは哲の父親が何とか縁を持ちたいと接触に苦慮している会社だった。

 無論参加者そんな事情知る由も無い。


 怒りが混在した動揺を顔に出さずにやりすごしたがすこぶる面白くない。

 だが人のことは言えない。

 舞い上がっての暴言は自分もよくあること。・・・次から気をつけよう。


 認めたくないがこの場の中心人物は間違いなくめがね。

 聞こえる声は彼か彼への投げかけ。

 たまに振られる哲への質問なんて気を使っただけのそれ。

 聞き役に回った自分が情けない。


 二次会は辞退し一人帰路についた。

 なんとなくこのままではなんだかなあと反復しながら。


 要するに格下と見下していた同級生に負けたくないエリアで抜かれたんだ。

 いやもともと負けてたのかも。見えてなかっただけで。

 めがねは長期的視野で大きなステータス手に入れたんだ。


 哲はへこんだ時は現状分析に努める。できるだけ客観的に現実を見極める。

 哲のくせのひとつである。

 めったに落ち込まないが。


 哲は心の中で今回の件を結論付けた。やるせなさを残しつつ・・・。

 

 そういえばリフォーム等で頻繁に仕事をくれる顔見知りのゆうさんが月に2回程度のアルバイトを探していた。独り身だから手が回らないこともあるみたいで。

 現状打破するきっかけがあるかもしれない。

 資産家になれるとか・・・。

 

 不動産だけでもおそらく二桁は所持しているのを依頼を数こなした哲は知っていた。

 K市のミシュラン星付き店巡りが趣味のひとつとか漏れ聞いてたので手持ちもありそう。

 最終学歴は二流大学。それも二年浪人したと父親に話してた。

 今の私におあつらえ向きの人じゃないかな。

 哲は手を挙げた。


 ゆうさんに好印象を持っていたのも大きな理由だった。

 作業場で会っても態度は偉そうじゃない。たまに差し入れをくれたりもする。

 支払いもきちんとしており相手から言い出さないのに先払いすることさえある。


「私のまねするならご自由に。どのように考えどうしてるかは教えてあげるよ。ただ模倣も含めどうするかは自己責任で」

 となんだか微妙な表現で了承された。


 時給は千円、交通費無し。日払い。それぞれの都合のいい日時、就労時間を相談で設定。することは掃除及び片付け他簡単な作業。

 雇用条件はぼちぼちだったが本職にほとんど影響ないのがいい。

 何より資産形成の手法を教えてくれるのが魅力的だった。


 そして・・・。

 初めての訪問。

 独り身だから手が回らないとかじゃないぞこれ。


 茶色に日焼けした古びた外壁。

 軽自動車がかろうじて一台入庫できる薄っすら苔の生えたガレージ。

 一応一戸建てだがかなりの年季。

 隣の家の倉庫といっても通りそう。

 達筆だが表札は紙切れ。

 植えてるのか生えてるのか入り口横に見たことある山で自生してるつるのある木。

 ゆうさんの保有物件でおそらく一番のボロ屋。


 扉が開く。

 玄関の半分は積み上げた新聞となぜかやたらある傘。

 目の前には両サイドに埃溜まった短い通路。


 靴脱いでスリッパに履き替える。

 入ってすぐ左に応接間。四人用の椅子とテーブルのセットが見える。


「まずは掃除。道具はここ」

 通路の正面に掃除機やいろいろ詰まったダンボール箱。


 端を指差してゆうさん。

「バルサンはまめに使ってるから」

 いやいや水入れて置くだけのやつだろその使用済みバルサン。早く捨てろよ。


「きれいであればいいんだろうけど自分でするのはよほどの時だけ。だから来てもらった」


 そのくせ掃除用具は無駄に揃ってる。

 掃除機なんか三つある。

 よほどの時っていつなんだよ。


「いるものあれば提案してください。必要あれば購入します」


「ゴミ袋はどこに」


「・・・ああ切らしてるね。そこのコンビニ行って買って来て。ついでにアイスも。1個300円くらいでカップの2つ。私はラムレーズン無ければバニラ。もう一個はあなたの分。ちなみにコンビニ内にアイスエリアは二ヶ所あるから」


「ゴミ袋のサイズは?」


「大」


 ・・・ついでのアイスの方が指示に熱意があるぞ。



 買い物から戻ると居間で横になってパソコン見てる。

 座る気もなさそう。


「領収書応接間の箱に入れておいてください。」 

 でも言葉使いは偉そうじゃない。


 わかった。この人すげーぐうたらなんだ。



 ----------------------------------------



「じゃあ人生の目標をはじめて知るんだ」


 何言ってるんだこの人。

 どうみても半年はほったらかしのオーブンのこびり付いた油取りに勤しみつつ、少しあきれる。


「あなたの両目の視力のすべて。買う人いたら売りますか?価格はなんと百億円。目標達成夢実現。そんなのいないってつっこみ無しで」


「・・・売りません」

 ちゃらけた言い回しに考えたふりして返事。


「なぜ? よほど無茶しない限り一生遊んで暮らせます。あなたの人生最大の目標、目的は達成できるのに。矛盾してない? 最大の目標でしょ?」

 からかいぎみな口調。


 くそー。今思いつく反論どれも穴ある。言えばこの人笑うか茶化すだろう。

 手だけは動かしつつ考え込む。


「私とあなた、いやみんなの目標は同じ。あなた同様自覚無い人多いけど」

 なんかヒントらしきものがきた。


 互いに暫く沈黙。ゆうさん片手でパソコンカタカタ。


 頃合と判断したのか或いはパソコン一区切りついたのかゆうさんがアンサー。


「最大の目標は自分の人生を楽しくすること。幸せになること。お金はそれを実現する要素のひとつ」


 今度は一転シリアスな雰囲気。アイス横に置いてだけど。もう食べる気だな。


 うーん・・・。

 すぐ認めるのは悔しいので例外や矛盾を模索してみる。


 私が納得したかどうかなんて気にせずアイスの蓋開けながら続ける。

「ではお金以外にどんな要素があると思う? 幸せになる要素はお金だけじゃないよ」


 矢継ぎ早の問いに手が止まる。


「あれあれ作業しながらでないとだめだよ。仕事優先。お金払ってるんだから。マルチではちょっとキャパオーバーかな」


 あわてて手元再開。



次回へ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ