⑧26分31秒~27分20秒
魔王を倒したら、もっと強い大魔王が出てくる。
古典的なパターンだが、今の俺にとっては致命的な展開だ。
新加入できる仲間の枠は使いきっているし、そもそも、魔界ヘルガルドとやらに行ったことがある人間が存在しているかすら疑わしい。
ここにきて完全に打つ手なしに陥るとは。
そろそろ、この世界を崩壊させるレベルで強くなっている俺だ。
目の前に、大魔王がいれば一瞬で捻り潰すこともできるのに。
だがちょっと待てよ。
もともと、転生するにあたって、俺に与えられた役目は魔王を倒すことだった。
だから当初の目的は果たしているわけで、何も無理して頑張って大魔王とやらを倒そうとしなくてもオッケーなんじゃないだろうか。
このまま、転生前の女神がいる空間に、俺の魂が回収されるのを待つだけでいいのかもしれない。
俺が入っていなくとも、もともとこの世界の勇者であるアインの本体は残されるわけだから、大魔王までは彼に任せていいのではないだろうか。
『──こ──える?』
「ん、なんだ、この声は!」
『聞こえる? 私よ、女神よ。今、貴方の魂に直接話し掛けているの』
「それはある意味、究極のプライベートゾーンなのでは」
『大丈夫よ、わたし女神だから。大変なことになったけど、残り3分と少し。貴方なら、大魔王を倒せると信じています。だから、頑張って!』
「やっぱり、やらないと駄目なんだな」
『そうよ、頑張って!』
「大魔王のところまで行く方法がない。何か、アドバイスはないのか?」
『……頑張って!』
駄目だ。
女神は俺に仕事を強制するだけで、何の有益な情報も俺にもたらさない。
これでは、ただのタイムロスだ。
何とか、俺自身で、大魔王のもとまで行ける手段を編み出すしかない。
俺は、思いつける、唯一無二の手段を行動にうつす。
そこに転がったままの、2つに別れた魔王の遺骸を、俺は引き寄せて繋げると、蘇生魔法を使用する。
魔王が生き返った。
「はっ、な、何事だ?」
「おい、魔王!」
「き、貴様、これはどういうつもりだ!」
「いいから今すぐに俺を大魔王のところに転位魔法で連れていけ、今すぐにだ」
俺は、ドスの効いた声で魔王を脅し、奴の喉元に勇者の剣を当てつける。
「愚かな、そんな見え透いた脅し──」
魔王が従順さを示さないと分かると、俺は剣を押し込んで魔王の首を落とす。
「う、ぐふっ!」
とにかく時間がないので、俺は魔王の首が地面に落ちる前にそれをキャッチすると、それがあった場所に戻し、再び、蘇生魔法で魔王を甦らせた。
「──貴様、正気か!」
「これで分かったろ。大魔王のところに転位するまで、何回でも殺してやるからな」
「ひ、ひぃ! わ、わかった。もう殺さないでくれ。大魔王様のところには連れていって──」
「分かったら、すぐやる!」
「はいっ!」
魔王の転位魔法が、俺を大魔王のもとに飛ばす。
これで、今度こそ、最後の戦いだ。
残り時間は、2分40秒。