⑥17分01秒~22分00秒
俺は、アインの故郷の街に、転位魔法で戻ってきた。
目の前には自宅。
さっそくとなりの家に突入する。
作法など、最早、気にしている時間はない。
俺たちは玄関のドアを勢いよく開けて中に踏み込んだ。
田舎だからか、鍵も掛かっていない。
「じいさん、いるか?」
「……おや、アインちゃんかい。珍しいねえ」
しかし、そこにいたのは、ばあさんだけだった。
「ばあさん、じいさんはどこだ!」
「……どこって、あんたの家に遊びに行ってるはずだよ」
そう言って、ばあさんは、指で駒をつまんで運ぶジェスチャーをやってみせる。
アインの祖父と、ヨシュじいさんは仲が良いのだった。
「わかった、ありがとう!」
まさかのすれ違いだ。
相手がじいさんではドラマチックでも何でもない。
時間のロスは痛いが、もっと遠いところに出掛けてしまったわけではないのはラッキーだった。
俺は、自宅に急ぐ。
なつかしの我が家というほど、まだなつかしくもない。
「じいさん!」
家に戻ると、やはりヨシュじいさんは、うちのじいさんと、チェスに似た遊びの最中だった。
ゲームの形勢は一瞬でわかるほど、うちのじいさんの方に分がある。
うちのじいさんは、勇者の祖父であることを除いては普通のじいさんだ。
こんなんで本当に名高い冒険者パーティの魔術師だったのだろうか。と少し疑問も感じる。
「ヨシュじいさん!」
「なんじゃ、アインか?」
「じいさんが昔、魔王と戦ったことがあるって、本当なのか」
「また、昔の話を持ち出してきたのう。ん。お主、ちょっと見ない間に逞しくなったのう」
一目で、俺の強さに気づくとは、さすがというべきか。
そして俺自身が強さを手に入れたおかげで、ヨシュじいさんがただ者ではないことが、全身から発するオーラからわかる。
テーブルを挟んで座る、うちのじいさんからは何のオーラも感じない。無色だ。
盤上の戦いの優劣は逆転しているが。
「俺は、勇者だからな。で、本当なんだな、じいさん」
「本当じゃ」
ヨシュじいさんは嘘をつく様な人物ではない。
アインの記憶がそんな確信を後押ししてくる。
「じゃあ、じいさん、今から俺の仲間になって──」
「まあ、アイン帰っていたの」
母に気づかれてしまった。
俺の中のアインが危険を報せる警笛をならしている。
「まあ、なんですか。お客様の前で剣を抜き身のまま振り回すなんて」
「あ、ああ、これ鞘がなくて」
「それに派手な模様だらけじゃないの。趣味の悪い剣ねえ」
まさか母親に勇者の剣をディスられるとは思っていなかった。
とにかく速いところここを切り抜けたいところだが。
「まあっ!」
母は、信じられないものを見たように顔を驚きで固まらせた。
「ど、どうした、母さん」
「アインが、女の子を連れてくるなんて! あのアインが!」
どうやら村娘のことを言っているらしい。
「いや、この子は仲間だから。勇者の」
「いいのよ、いいのよ。母さん全部わかってますから」
いかん。
何故か完全に母のペースに飲まれつつある。
今までで最大の試練に会ってしまった気分だ。
どんどん時間を失っている気がする。
しかも無意味に。
ここはもう、すべて無視するしかない。
「とにかく、じいさん仲間になってくれ」
今度こそ、はっきり意思を示したことで、ヨシュじいさんが仲間になった。
じいさんは、ニヤリと不敵に笑う。
「おっ、そうか、勇者の仲間になるとは、こういう感覚なんじゃのう。しかし、わしのような老いぼれを仲間にしてよいのか?」
「いいんだ。魔王の城にさえ行ければ、後は俺が何とかする」
「ほほう。お主、アインではあるが、他に別の誰がか入っているな。悪い奴ではないようだが」
「わかるのか、さすがだな。でも、細かく説明している時間はないんだ。アインの体の中にいられる時間も残り少ない。悪いけど、今すぐ魔王の城に行く!」
俺は、魔王の城に移転魔法を使い、飛んだ。
残り時間はあと、8分。




