②04分01秒~09分00秒
「ここは?」
突然、目の前の風景が変わってしまったことに、バートンは目を白黒させて驚いている。
そこはアインの故郷の町とは比較にならないほど賑わう、活気のある街だった。
「オリンの街だ。勇者の剣が、ここのどこにあるか知っているか、バートン?」
「そ、そりゃ、あの闘技場だろ」
バートンは、大きな建物を指差す。
「あの闘技場のなかに勇者記念館だか、勇者博物館だかがあって、伝説の勇者の剣もそこに展示されているはずだ」
「あれか、走るぞ!」
「って、お、おい」
俺が走り出すと、バートンも後ろについてくる。
勇者の仲間になった以上、彼の意思は関係なく、俺と離れることはできない宿命なのだ。
「は、速いって」
「大丈夫だ。勇者の仲間は、勇者と同じ速さで走ることができる!」
「勇者? 勇者なのか! お前が?」
「そうだ、急いで魔王を退治しないと時間切れになる。急ぐぞ、勇者の剣を手に入れるんだ」
俺は、闘技場までの道を急ぐ。
気のせいではなく、闘技場に接近するにしたがって、人の往来が増えていく。
俺は、人々の隙間を縫うように走っているのだが、背後でバートンがバシバシ他人にぶつかっている気配があった。
だが世界が危うい今、そんな些細なことにかまってはいられない。
俺は、石造りの巨大なアーチを抜けて、闘技場の中に入っていく。
何を催しているかは知らないが、とにかく人が多い。
「着いた。どっちだ」
「あれだよ」
何故かボロボロになっているバートンが指差した先には、俺の探す勇者の剣があった。
展示物を見る人々の中、勇者の剣は特に目立つところに飾られていた。
深々とそれは壇上の岩に突き刺さっている。
そして岩に埋め込まれたプレートには『真の勇者のみが、この剣を抜くことができる』と掘り込まれていた。
そのまわりには人だかりができ、年若い子供達が列を作って順番に、壇上に登っては、その剣が抜けるかを試していた。
「この辺りの子供はみんな、ああやって自分が勇者じゃないか試すんだ。何しろ勇者のいる家庭は税は免除される上に、勇者給付金まで支給されるからな」
バートンの説明を聞いて、俺は確かに付き添いの親の方が真剣な様子に納得した。
順番待ちの列は長い。
これに並んでいたら世界が滅んでしまうだろう。
俺は、少し気が引けたが、横から入っていくと。
岩に刺さった剣を抜いた。
力を入れて抜こうとしたのが、意外と軽く取れてしまったので、俺はバランスを崩して危うく壇から落ちてしまうところだった。
なんとか踏み止まって、勇者としての威厳を守りはしたが。
「あっ」
次の順番だったはずの親子が、非難がましい目で俺を睨む。
いや、俺、勇者だから。
ここは本来、勇者が現れたと言ってみんなで感激する場面だと思うのは俺の都合のいい解釈らしい。
どちらかというと全体的に歓迎されていないムードだ。
ブーイングされないだけマシという感じがする。
剣抜けてるんだけど。
勇者じゃないと抜けないって、みんなその前提、分かってて来てるんだと思うのだが。
まあ、確かに順番を守らないのは良くないことだ。それは俺もよくわかっているし、そのことについては弁解の余地もない。
しかし、結果として順番待ちの子供達には、勇者の剣を抜ける資格はなかったわけだし、待ち時間から解放してあげたという側面だってあるのではないだろうか。
今、突然のことで、夢を奪われたような気分がしているのも無理もないのは分かるが、突き詰めて考えれば、俺は、彼らのチャンスを奪ったわけではないのだが。
だが、今の俺に、全てを説明している時間はない。
いつの日か、あれは勇者だったのだと、理解してくれる日もくることだろう。
勇者は、順番待ちをしなかったと記憶されるのは心が痛むことではあったが。
これが、勇者という孤高の存在であることの辛さか。
人の上に立つ者の孤独。
俺は、それを噛み締めながらも、勇気を振り絞って次の一歩を踏み出すのだった。
「よし、バートン。次は、破邪の紋章だ。ハスマサーダ神殿に行ったことは?」
「ない」
使えないやつだ。
そんな俺の気持ちを察してか、バートンは顔を赤くする。
「俺は、吟遊詩人だぜ。神殿に用はない。近くの、ロトリロ村になら寄ったことがあるけどな」
「じゃあ、まず、ロトリロ村だ」
少しでも目的地に近づいた方がいいという建前はあるが、実のところとなるべく早く、ここを立ち去りたいというのが本音だ。
俺は、転位魔法を使った。
残り時間はあと21分。




