ちかづく。
「じゃあ、行くっすよ?」
「うん、お願いね?」
プールの中のちょっと空いてるとこに立って、有里紗ちゃんに手を持ってもらう。力を抜けばいいって言われたことはあるけど、沈んじゃいそうでできないし、バタ足だって、脚全部を伸ばすみたいにって言われても、全然イメージ沸かないし。
……あ、でも、今、すっごく力抜けてるかも。すいーってなる感じ。そのまま、有里紗ちゃんに任せちゃえばいいって思えちゃうよな、ついでにバタ足しようとしたら、やっぱし普通に走るみたいになっちゃうし、沈んじゃいそうになるけど。
「プールでトレーニングとかはよくやるけど、こういう風に泳ぐ練習ってしたことないよねぇ」
「志乃先輩もあたしも泳ぐの苦手ですもんね、わざわざこいうのしないっすよ」
「そうだね、今度は有里紗ちゃんする?」
「えー?まだちょっとしか進んでないっすよー?」
泳ぐ練習より、二人でいることばっかり意識しちゃって、何もできない。脚を動かすよりも、赤くなった有里紗ちゃんの顔ばっか意識しちゃう。普段走るときは、何も考えなくなるのに。泳ぐのが苦手だから考えなきゃいけないとかじゃなくて、きっと、こんなんだから。
「ちょっと疲れちゃったもん、だめ?」
「これじゃ、遊べなくなっちゃうっすよ?しょうがないですねぇ……っ」
「じゃあ、行こ?」
立ち上がると、いつもと同じ、ちょっと見上げる角度。ちょっと、顔、赤くなっちゃってる。ひんやりした水の中、有里紗ちゃんの手はあったかい。うちといるから、なんだろうな。
握り替えて、軽く自分のほうに引っ張る。すうって体を伸ばして、水面でぱたぱたと水を蹴るとこに、ちょっと見とれちゃう。ずるいよね、背も大きいし、無駄な脂肪なんてないのに、おっぱいはけっこう大きい方で、うちと走る距離が違うから質は違うけど、脚だってしっかり筋肉がついてて、ラインだったらうちよりもきれいだし。見とれてるうちに、すぐプールの端までついちゃう。こんなんなら、もうちょっとやっとくべきだったかも。
「もっかいする?ちょっと元気出たかも」
「別に……、ちょっと照れちゃうっすよ、あたし……」
「じゃあほかのとこにしよっか。流れるプールとかなら、もうちょっとできるかな?」
「そうっすね……、それなら、手ぇ引っ張られなくていいし」
まだ、顔赤い。そんなに、恥ずかしかったの?……やっぱり、かわいい。恋するとか、まだうちもよく分かってるわけじゃないけど、ルームメイトで、『友達』だったときとは、距離感とか変わっちゃうよね。
「嫌だった?」
「そ、そういうわけじゃないっすけど……」
「分かってるよ、じゃ、行こ行こ?」
まだ握ったままの手、引っ張ってく。……これくらいがいい。今までと同じなのに、もっと近くに感じるような距離が。




