すすんで。
「練習用のはあっちっすね、早く行きましょ?」
「そうだね、早くしなきゃ楽しむ時間無くなっちゃうもん」
部活でやるくらい念入りに準備運動してたから、十分くらいは経っちゃったのかな。
さりげなくのように、手を差し出してみる。いつも、繋ぐのはうちからだから。たまには繋がれてみたいなって、ほんのちょっとのオトメゴコロ。その想いは、……しばらく時間が経ってから届く。ぎゅって握ってくる有里紗の手は、ほんのり濡れてるような。そんなんで、ドキドキしないでよ。今は恋人同士だけど、別に友達同士でも、普通にあることなのに。
「でもびっくりしたよぉ、有里紗ちゃんが泳げないなんて」
「あたしもっすよ、志乃先輩、スポーツはけっこうできると思ってて」
「まーね、球技とかもそんなに苦手じゃないけど、泳ぐのはどうしてもねぇ」
「あたしもそんな感じっすよ、さすがにプールの授業のときはゆーうつになりそう……」
冷たくて気持ちいいし、プールだけだったらいいのにね。早く泳がなきゃいけないってなると、うちもできなくてしょんぼりしちゃうんだけど。
「うちもー、泳ぐんじゃないなら、楽しいのにねぇ」
「部活でも入るけど、その時も楽しいっすもん」
水の抵抗で鍛えられるって、ちょうど今くらいの時期にたまにあるけど、その時だって楽しい。チームメイトの仲もいいし、普段は練習が違う投擲とか跳躍のほうの子とも話せるし。
「でも、まだ何もしてないのに、今のほうがずっと楽しいね」
「もう……、相変わらずっすね、先輩は」
一緒に歩いてるだけなのに、楽しい。友達同士、……例えば、由輝ちゃんとかと来たとしても、すっごく楽しいんだろうけど、きっと、その違い。引っ張られた先には、学校にあるようなプールが見えてきて、……けっこう、人も多くいるな。そんなに場所を取ることはないと思うけど、まだ、何をするかもよく決めてないや。
「それで、何するの?」
「その、バタ足したり、手引っ張ってもらって……」
「なんかいいねっ、やろやろっ!」
ちょっと、子供みたいでかわいいかも。プール遊びとか、多分有里紗ちゃんもしたことないんだろうな。泳ぐのダメみたいだし、想像するのに、けっこう時間かかってたし。中学のときから知ってるし、半年近く同じ部屋で過ごして、でも、知らないことばっかりだな。
さすがに、プールサイドで走るなんてことはしないけど、気持ちだけは全力疾走。繋がった手は、有里紗ちゃんから握ってくれる。もう、……さすがに、本当に走ったりなんてしないって。
「じゃあ、やろっか」
「そ、そうっすね」
ゆっくり入ると、温水プールは学校のより優しく受け止めてくれる感じ。……有里紗ちゃんは顔が真っ赤で、冷たいほうがよかったかもしれないけど。




