しらないとこ。
有里紗ちゃん、どんなの着けてるのかな。背中越しの物音に、つい耳を寄せちゃいそうになる。照れ屋さんだから、スクール水着とかだったりするかも?それも、やっぱりかわいいけど、……やっぱり、もうちょっとオトナっぽいの、付けて欲しいかも。手足もすらって伸びてて、おっぱいだってけっこうあるんだから。
それに、……うちのは、ちゃんと似合ってるかな。持ってきたセパレートの水着をまじまじと見てしまう。うちの好きなイエローでまとめて、トップはちょっと透けた生地のフリルが大きくて、ボトムは南国っぽい感じの花柄で、スカートみたいにフリフリになってる。。有里紗ちゃんが背中を向けたままなのは分かってるけど、全身包めるタオルを被って、何かあっても見られないようにする。他に人がいないこともないけど、隠したいのは、たった一人にだけなのに、なんか変なの。
「有里紗ちゃん、そっちはもう終わった?」
「いや、まだっすよぉ……」
「そっか、うちはもうちょっとだから、先メロンにチャージしとくね?」
「そうっすか、行ってらっしゃい」
タオルはまだ、着けたままで、だって、先に水着姿見られたら、嫌だから。
ここだと、ICカードでも買い物ができるようになってて、カードホルダーも腕に付けられるようになってたりする。食べ物屋さんもあるけど、お財布を持って行かなくてもいいっていうのは、けっこう助かる。チャージ機もロッカールームについてるし、その隣にはカードホルダーもかけてある。残高はまだあるけど、やっぱり帰りの分しかないし、入れとくことにしといてよかった。プールの授業の後は、大体お腹がすくし。……まあ、それ以上に眠くなっちゃうんだけどね。
とりあえず千円分。これだけあれば、いくらお腹が空いちゃっても大丈夫だよね。終わったときには、有里紗ちゃんももう着替え終わってるみたいで、うちのこと見ながら、ずっともじもじしてる。気になるのも、それを言い出せないのも、分かっちゃうよ、そんなんじゃ。一回だけ気にしてないふりで、財布だけロッカーに入れたけど、これ以上はもう無理。
「有里紗ちゃんも終わったの?」
「あ、はい、一応……」
「じゃあ、一緒に脱ごっか、せーのっ」
「ま、待ってくださいよ、まだ、心の準備が……っ」
やっぱり、かわいい。そういえば、いっつも髪下ろしてるけど、今は頭の上のほうでお団子にしてる。これから泳ぐから、そうなるのはわかるけど、新鮮に感じる。
言葉が止まる間、風船みたいにドキドキが膨らんでく。
「えー?もう、どんだけ照れ屋さんなの?」
「じゃ、じゃあせめて、あたしのタイミングで……っ」
「それだったらいいよ、……もう、早くしないと、デートの時間短くなっちゃうよ?」
「そ、そうっすけど……」
デートって言葉が出た瞬間、有里紗ちゃんの顔が、もっと赤くなる。もうちょっと余裕があるときだったら、「で、デートって、こんなとこで言わないでくださいよっ!」なんて怒るんだろうけど。そんなとこを想像するだけでも、すっごくかわいい。
「うちとじゃ嫌?」
「そ、そんなわけ……、じゃあ、行くっすよ、……せーのっ」
勢いよくタオルを外す。有里紗ちゃんなんて、目、ぎゅって閉じちゃってるし。……でも、うちといるとかわいくなっちゃうけど、やっぱり、綺麗だな。無駄な脂肪もない、メリハリのある体。ワンピースタイプの水着だからそこまで肌は見えないけど、体のラインは隠してない。かといって、スクール水着みたいにシンプルなのじゃなくて。黒地に小花柄をあしらって、胸元をフリルが飾る。
「有里紗ちゃん、オトナっぽくて、綺麗……」
「志乃先輩も、すっごく似合ってるっすよ、かわいい……っ」
まだ、有里紗ちゃんの顔が赤い。でも、その意味が、さっきと違ったらいいな。うちに見惚れてくれてたら、もっと。うちも、ほっぺが自然と上がっちゃう。
「ならよかったぁ、子供っぽくないか、ちょっと不安でさぁ」
「あたしも、ちょっとオトナっぽすぎないかって……、でも、似合ってたんなら、よかったです」
「えへへ、……裸も見てるのに、なんか照れちゃうね、……そろそろ行こっか」
「そうっすね、じゃあ……」
タオルもロッカーにしまって、鍵をかける。鍵も、ちゃんとリストバンドみたいに付けられるようになってるし、回すと飛び出ないようにもなってる。これなら、うっかり無くしちゃうなんてこともなくて大丈夫かな。
横を見ると、まだ照れ笑いを隠しきれてない。有里紗ちゃんもICを持って、チャージ機の隣に掛かってるカードホルダーだけ取る。
「あれ?お金、ちゃんと残ってる?」
「はい、千円はあるの見ましたし、帰りのときでもチャージもできるし」
「じゃあ、大丈夫だね、そんな買い食いもしないでしょ?」
「お昼もいっぱい食べたし、足りなかったら夜いっぱいにすればいいんすよ」
ふわふわ、綿みたいなお話が続く。もし恋人同士じゃなくっても、プール行くの、すっごく楽しいんだろうな。慣れてくれない距離。手を繋ぐのも、まだ意識しないとできないや。




