すすむばしょ。
「そういえばさ、何か他に買いたいのってある?」
「ああ、そうっすねぇ……」
荷物を置きに部屋に戻ってから、財布だけ持って食堂へ。せっかくデートするんだから、行き先は、プールだけじゃちょっと寂しい。
「うーん、そろそろ部屋に置いてるスポドリも無くなるけど、それくらいっすかねぇ……」
「えーっ!?もうちょっと無いの?インナーとかすぐ汗臭くなっちゃうでしょ?」
「あー、夏だとインナーすぐ汗臭いの取れなくなっちゃいますもんねぇ、あたしも買い替えよっかな」
「じゃあ服見に行くのは決まりだね、他には何かあったっけ……」
その気持ちを知ってか知らずか、一緒に買いたいものを探してくれる。……それにしても、あんまり欲しいものって、探してもあんまり無いなぁ。他のだと、りんりん学校のために新しい水着も見てみたいかなってくらい。部活ばっかやってるから、あんまり他にファッションとかでこだわるとかもないし、あったら便利なものはもう、大体持ってるし。
「うーん……、まあ適当に回れば見つかりますよ」
「そ、そうだね……」
進みかたさえ分かっちゃえば、いくらでも走っていけるのに。これでいいのかも、進む方向がこっちでいいのかも、分かんない。こういうこと、あんまり考えないほうなのに、うちも、ちょっと怖くなっちゃってるみたい。
「とりあえず、早く行きましょ?」
「う、うん、だね」
食堂は、まだ並んで空いてるとこもいくつかあるくらいには空いていた。一応、行き先も決まったし、それなら、思いっきり走れる。食べ盛りのうちらには、軽めになってる食堂のお昼くらいぺろりと平らげてしまえる。今日は暑いし、いっぱい頭使ったし、さっぱりできる冷やし中華にしようかな。何の気なしに選んで、有里紗ちゃんも一緒なのを選んでて、何かくすぐったいや。思わず見つめ合って、笑みがこぼれる。
「ホント、似た者同士だね、うちら」
「なんか不思議っすね、違うとこだっていっぱいあるのに」
「そうだったね、……でも、そんなの忘れちゃいそう」
学年も違うし、同じ陸上部って言っても種目も全然違う。真面目な有里紗ちゃんと比べてうちはちょっとガサツだし、勉強だって、うちは全然できない。よく考えたら、反対なことばっかりなのかも。
それでも、なんか波長が合う。一緒にいるだけで気持ちよくて、あったかくて、ふわふわするけど、そわそわして、ドキドキしちゃう。
見繕ってた二つ空いてるとこは、まだ埋まってなかった。有里紗ちゃんが左側に座って、一緒に手を合わす。
「それじゃ、いただきます」
早く食べちゃおっか。どっちが言うとかじゃなくて、あっという間に箸を進めてる。どんだけデートするの楽しみにしてるんだろうな、有里紗ちゃんも。
うちも、ほっぺが浮いちゃいそうなくらい、楽しみ。早くしたいな。気持ちに任せてると、お皿の中はもうおつゆだけになってた。
「ごちそうさま、……って有里紗ちゃんも早いねぇ」
「そういう先輩だって……、もう、顔びっしょびしょじゃないっすか」
「えー?あ、ごめん……」
紙ナプキンで口元を拭かれて、目の前の顔が、やれやれと言いたそうにしてる。それと一緒に、ちょっとずつほっぺが赤く染まってるように見える。
「なんか先輩、たまにわんこっぽいですよね……」
「そうかな、名前には犬って入ってるけどさぁ……」
「そうっすよ、いずれ本当にわんこになるんじゃないんすか?」
きょとんってなったうちを置いていくように、お盆を持って返却口に出しに行こうとする。ほっぺは相変わらず真っ赤なままだけど、そうやっていいだけ揺さぶるの、ずるい。
「あ、もう、待ってよーっ」
わんこになるなんて、あるわけないじゃん。虎になるんならともかく。期末テストの勉強で叩き込まれた残りのかけらを思い出しながら、うちもその後を追いかける。
振り回されてるのに、なんか楽しい。心の奥が、どうしたって弾んでる。だから、……今は、二人で走ってたい。




