つのるとまどい。
「うぅ……やっぱ無理だよぉ……」
ある程度は終わらせなきゃ、ここから抜け出せないのは、わかってる。だけど、わけのわからない数式や記号を見ると、今までの眠気が全部溢れて出てきちゃう。
「もー、志乃先輩、寝ないでくださいよー……」
「わかってるけどさぁ……」
そんなこと言われても、無理なものは無理だよ。この後にどんな楽しいことがあるかわかってたって、今動けないものは動けないよ。
「ほら果歩も、一瞬で寝ないのっ」
「えー?だってさぁ……」
走るのなら一緒にどこまでも行けそうに思える果歩ちゃんも、一瞬でぐでんぐでんになっちゃってる。こういうのも滅多に見ないな、こんなとこまで一緒にいなきゃ。
「だっても何もないの、志乃もそれじゃあどっちが後輩かわからないぞ?」
「由輝ちゃんひっどーいっ、どうしてうちまで!?」
「自覚があるならさっさとやるの、これ終わったら有里紗とデートなんでしょ?」
「えぇっ!?」
さすがに、二人して普段着飾らないし、簡単すぎるかな。うぅ……、あからさまに言われたら、やっぱり恥ずかしいよ。
「由輝先輩何言ってるんすか!?」
「あれれー、違うの?」
「そ、そんなに見えちゃったかなぁ……」
こんなのをごまかせるわけもなくて、ほとんど告白にも近い言葉。
ちらりと横を見ると、うちらの関係の話になる度に真っ赤になる有里紗ちゃんの照れた顔。この顔を見ちゃったら、分かっちゃうか。
「いやー、いくら何でもバレバレだぞ?少なくとも友達って距離じゃないな」
「もう、志乃先輩がべったりするから……っ」
「えぇっ!?」
うーん、もしかしたら、嫌だったのかな。でも、うちがそういうことせがむと、絶対断らないし、嫌そうな顔、してないのに。
あー、もう、考えすぎて頭痛くなる。考えるなんて、めったにやらないうちじゃすぐパンクしちゃう。
「ほらほら、その話は後で聞くから」
「むぅ……わかりました……」
一回火照った空気は、由輝ちゃんのよく通る声に冷やされる。今は、そういうことを考えるような時間じゃないっていうのは、わかってる。でも、浮かんでしまった不安は、冷めてはくれない。
「ほら、先輩?フリーズしてないでやりますよ?」
「うん、わかってるから……」
「駄目ですよ、ちゃんとやんなきゃ、気が付いたら終わるわけじゃないんですから」
好きでいてくれてるのも、わかってる。それでも、一回飲まれてしまった不安に、飲み込まれていきそう。
「そうだぞ、去年も最終日に泣きついてたんだから」
「うん、やるから……っ、でも、ちょっと待って……?」
ごめんね、今はそれどころじゃいられないの。有里紗ちゃんのことしかわからなくて、周りなんて見えなくなるくらい。




