すすむさき。
「あうぅ……、ひどい目に遭ったっすよぉ……」
「う、うん……、そうだねぇ……」
見つめ合った顔は真っ赤に染まって、きっとうちも真っ赤になったまま。お互い、走ってれば早いのに、二人三脚は、歩くよりも遅いくらい。別に息が合わないからでも、走りたくないわけでもない。ただ、うちらが、足が進まないだけ。進んでいく一歩ごとに、景色が、変わっていってしまうせいで。
「ごめんね、うちがあんなことしたから」
「別に、先輩のこと責めてるわけじゃないですから……っ」
それくらいは分かってるけど、進みたい気持ちと同じくらい、進むのが怖い自分もいる。スタートの号砲は鳴っているのに、全然、動けないや。進みたい気持ちは、膨らんで破裂しそうなくらいなのに。
「そ、それならいいけど……嫌じゃ、なかった?」
「そんなことないですよ!だって、あたしも、先輩のこと、……」
そこで途切れる言葉と、もっと赤みが増したような顔。その後に続くはずの言葉は、うちにだってわかる。もっと待ってたいけど、待っていたらいつまでも出てきそうにないような気がして。
「えへへっ、ありがとー」
「ちょっ、まだ言ってないじゃないですよ……」
「言いたかったの?待ってたら日が暮れちゃいそうだったもん」
「そ、そんなことないですよっ!」
目に見えて動揺する有里紗ちゃん、ふと前を見ると、少しだけ列から置いていかれてる。やっぱり、二人だけの時間になっちゃう。軽く手首を握るだけで、ピクリと大きく跳ねるのが伝わる。
「ほら、早く、前開いちゃってるよ?」
「ひゃっ、びっくりしたぁ……っ、脅かさないでくださいよ……」
「えっ!?そんな大げさにしなくてもいいのに……っ」
「そうですけど、あたしだっていきなりですもん……」
二人だけの時間は、いつの間にか特別なものになっていて、つかめない距離感も、なんだかそわそわする。待つことも耐えることも苦手なうちは、ただ真っ直ぐに走ることしかできない。たどたどしく踏み出す一歩は、自然と二人の距離を縮めて、……その度に、顔から火が出ちゃいそう。
列の後ろにぴったりとくっつくまで少しだけ小走りになって、それも、もうちょっとで途切れる。うちらのゴールは、どこまで行ったら着くのかな。ずっと走り続けるのは苦手だけど、それでも、有里紗ちゃんと一緒なら、進みたいと思えてくる。今はまだ歩くのより遅くても、いつかは、きっと。
「ごめんごめん、……ほら、前空いたよ?」
「ああっ、そうっすね」
ゆっくりと歩きだすうちらは、まだ、スタートラインからちょっとだけ進んだばかり。




