あまずっぱくて。
休みだから、まだ開いてるはずの食堂に、二人で向かう。ほんのりと寂しさが、胸の中で芽を出しそうになる。
「……ねえ、手つないでも、いい?」
休みの日だからか、人の少ない廊下に、おずおずと話しかけた声が反響する。
もうちょっとだけ、温もりを感じてたくなる。『恋人同士』が何をするのかはあんまりわからないけど、進みたいって気持ちは、隣で顔を赤らめてる有里紗ちゃんも抱えてるはずで。
「えっと、……いいっすよ、先輩」
「ありがと、……いくよ」
おずおずと差し出された手を、ゆっくりと握る。その瞬間、息をのむ音。ただ、手をつなぐだけなのに、どうしてこんなにドキドキしちゃうんだろうね。でも、それが、なんだか嬉しいや。有里紗ちゃんの心まで、うちに繋がってるような気がして。隣を見ると、顔の赤さがさらに増して、耳たぶまで真っ赤。
「もう、顔真っ赤だよ、そんなに恥ずかしいの?」
「べ、別にどうだっていいじゃないっすか……っ」
軽くからかうと、拗ねたような声。うちよりも、背が高いのに、綺麗っていうほうがずっと近い顔なのに……かわいい。ずっと、見てたいくらい。でも、いつのまにか着いていた食堂でかけられた声で止まってしまう。
「あれ、志乃に有里紗じゃん、おっはよー」
「あ、由輝ちゃんっ、おはよー」
軽く手を上げる由輝ちゃんに、こっちも手を挙げて答える。そのテーブルの中には、見知った顔もちらほらも見える。
「おはようございます、由輝先輩、……なんでそんな元気なんですか?」
「いやー、朝からいいもの見せてもらったからねー」
にやにやしながらうちと有里紗ちゃんの真ん中を見つめられて、つられてそっちを見ると、……うちと有里紗ちゃんの手が、繋がったまま。
「もう、由輝ちゃん!?からかわないでよっ!」
「いやー、ようやくくっついたかー」
熱くなる顔を、ごまかそうとして、それでもうちらを見てにやにやと笑う由輝ちゃんは止まらない。ひゅーひゅー、なんて大げさに冷やかす声も。
「よ、ようやく!?」
「そうそう、有里紗なんてずっと志乃のこと言ってたもんねー」
「ちょっ、そんなの言わないでくださいよ!」
今日の由輝ちゃん、すっごくいじわるだ。いいだけ、うちらのことからかって。
……でも、有里紗ちゃん、ずっとうちのこと考えててくれたんだ。胸の奥が、きゅんって鳴る。
「それで?まだ手ぇ繋いだままなの?ラブラブだねぇ~」
ああっ、なんて間抜けた声が、二つ重なる。思い出したように離した手は、なんだか強引な感じ。
「も、もうっ、ご飯取ってくるっ」
「はいはい、お幸せにねー」
自然と足音が高くなったまま、並んだ列の奥に並ぶ。有里紗ちゃんも、ぷりぷりしたまま。まあ、そんなとこも、かわいいんだけど。
「もー、由輝先輩ってば、性格悪いんですから」
「あはは……、でも、さ……うちのこと、考えてくれてたんだね、嬉しい……な」
「しの、せんぱい……っ」
相変わらず、顔が赤いまんま。……うちのこと、ずっと思ってたのは、本当なんだろうな。なんだか、うちまで、由輝ちゃんみたいににやけちゃいそうだよ。




