ゆめうつつ。
「志乃先輩、もう起きなきゃ遅刻しちゃいますよ?」
ゆさゆさと体を揺する有里紗ちゃんの手に、否応なしに起こされる。目を開けると、やれやれと言ってるような顔が見える。天井を向いてるのに、逆光でもきれいな肌と、ちょこっと火照ったほっぺも。
「んぅ……、もう……?」
「もう、八時になっちゃいますよ?」
「あ、もうそんなになるんだ……」
一時間くらいだったけれど、頭に居座っていた眠気はもうなくなっていた。うんと伸びをして、起きようとすると、有里紗ちゃんの頭にぶつかりそうになる。
うちの上に乗る必要なんて、どこにもないのに。どうしちゃったのかな。
「うわあっ、ごめんなさいっ」
慌ててベッドから降りる有里紗ちゃんに、ちょっとだけ、不思議な気持ちがよぎる。昨日の夜の、夢と現実が半分こになったような時間のことが、頭に浮かぶ。
「いいよ、……でも、一つだけ、聞いていい?」
「な、……何ですか?」
あの時間は、夢だったのかな、それとも、そうじゃなかったのかな。綺麗な思い出のままでもいいけれど、知りたいという気持ちは、どうしても抑えられない。
「昨日さ、有里紗ちゃんがマッサージしてくれた後にさ……」
「わーっ!!!あ、ああああのとき起きてたんすか!?」
慌てて口を塞ごうとする有里紗ちゃんを、慌てて抑える。その反応で、答えなんて簡単にわかる。夢じゃ、なかったんだ。あのときの言葉も。
「いいじゃん、うちが、……ちゅーしたときも、有里紗ちゃん起きてたんでしょ?」
「うぅ……、そうですけど……っ」
真っ赤にした顔を両手で抑えて、ベッドに転がるのが見える。かわいいな、やっぱり、有里紗ちゃんは照れ屋さんで、……それなのに、「好き」って気持ち、伝えてくれるんだ。
うちが有里紗ちゃんにしたときは、まだ、向こうの気持ちなんて分からなかったな。手探りで見つけた気持ち、おんなじ方法で返してくれたんだよね。
「じゃあさ、……うちにちゅーされたの、嫌だった?」
「そ、そんなわけないですよっ、……そ、その嬉しかったですし、志乃先輩のこと、す、好き、ですし……」
「えへへ、有里紗ちゃん、ぎゅーっ」
ベッドに突っ伏した有里紗ちゃんを、後ろから抱きしめる。あっついのに、あったかい。心地いい温もりが、腕の中。髪の香りに、身を任せたくなる。
「ひゃあっ、し、志乃先輩!?重いっすよ……」
「ごめん、……でも、大好きなんだもん、有里紗ちゃんのこと」
「もー……、早くご飯食べましょうよっ」
「はいはい、わかったよ」
有里紗ちゃんの、精一杯の照れ隠し。うちのこと、それだけ、想ってくれてるんだよね。心がふわふわになって、ほっぺが、自然と緩む。
まだ、二人でいたいような、二人の時間を進めたいような、不思議な感じ。




