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輝く星に伸ばす手を。  作者: しっちぃ


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とどくこころ。

 パンパンになった脚を、有里紗ちゃんの手が優しく揉んでくる。最初は右のふくらはぎから、触れていく度に上に上がって行く。体の中で、何かせき止めてたものが無くなって、足中全部にじんわりとあったかさが伝わってくる感じ。

 

「は、あぁ……っ」

「志乃先輩、どうしたんですか?」

「うぅ……、すっごく気持ちよくて、変な声出ちゃった……」

「先輩、後先考えずに突っ走りますもんねぇ、そりゃ、疲れちゃいますよ」


 考えるよりも先に、体を思いっきり動かしちゃうのは、0.01秒を争うような世界で戦ってきたから、……とか、ちょこっとかっこいい事言えたらいいのに、本当は、うちがあんまり難しいこと考えたくないから。


「まあね、難しいこと考えるの苦手だもん」

「本当に、先輩らしいっすね、じゃあ、次左のほういきますよ?」


 うちらしい、か。ずっと近くにいるから、力を使い果たしてぐったり寝てるとこも、ずっと近くで見てるんだよね。でも、ころころと笑う声も、優しく揉んでくれる手も、それを嫌だとは思ってないみたいでほっとする。

 でも、なんだか、ぎこちなくなってるような。された所の先が、すうって気持ちよくならない。さっきまで、すっごくうまかったのにな。


「もうちょっと、左のほうやってくれない?」

「あ、はい、わかったっすよ」

「スタート切るとき、どうしても力入っちゃうんだよね、それで右より丁寧にしてほしくなっちゃうんだ」

「そうなんすね、志乃先輩、スタートダッシュめっちゃ早いですもんね」


 何にも言われてないのに言い訳してしまう。わざわざ、言わなくたっていいはずなのに。体と一緒に、何か頭の中まで、ふにゃふにゃになってそう。

 もう一度、足先から触れられる手に、ぴくりと足が動きそうになる。変に動いたら、有里紗ちゃんが不思議がるだろうし、ドキドキでいっぱいになりそう。

 

「うちが走ってるの、見てるんだね」

「そ、そりゃぁ見えますよ、学校の周りずっと走ってるんですから」


 慌てたような声と、いきなり止まる手の動き。別に、大したこと言ってないのにな。それとも、意識しちゃってたのかな、うちが走ってるとこ。

 

「嬉しいな、有里紗ちゃんが、うちのこと見てくれてるなんて」

「そ、そんな大袈裟に言わなくたっていいじゃないですかっ!」


 きっと、もう顔中真っ赤なんだろうな、想像するだけで、にやにやが止まらない。思いっきり、見てたろうな。その様子を知らなくたって、うちの頭でだってわかってしまう。

 

「あー、もうとっとと終わらせますよ?」

「はいはい、早く寝なきゃだもんね」


 わざとらしく話題を変えようとするのも、なんだからしくないな。体を有里紗ちゃんの手に任せて、触れてくれる感触に溶けていく。ほんのり痛くて、それよりもずっと、気持ちいい感覚が、ゆっくりと背中を這い上る。

 脚に溜まってた疲れはほぐされて、体中に駆け巡って心地いい眠気に変わる。このまま、眠れちゃいそうなくらい、ふんわりと した気持ちが、体を包む。


「先輩、終わりましたよ、……あれ?寝ちゃったんすか?」

「ん?んぅ……っ」


 その声に、答えるのも今は気だるい。枕に頭を埋めて、本当に寝入ったふりをする。まどろみに入って、抜け出せないままでいると、有里紗ちゃんの顔が、背中から近づく気配。


「……あのときみたいじゃないっすか、先輩があたしに、……ちゅー、したときと」


 うちが寝てるって思ってるはずなのに、なんでそんなに恥ずかしそうに言うんだろう。あの時のこと、有里紗ちゃんに気づかれてたんだ。うちまで、恥ずかしくなっちゃうよ。枕で顔隠しててよかった、こんなところを見られたら、寝たふりしてるって誰だってわかっちゃう。


「ずるいっすよ……、先輩のせいで、気づいちゃったじゃないっすか、『好き』ってこと」


 胸の奥が、ドキリと高鳴る。甘いような切ないような、引き込まれていきそうになる声。……うちの知らない一面、盗み見てるようで、なんだか罪悪感。

 早まってく鼓動に、何もできないのがもどかしい。こんな状況で、うちが起きてるって気づいたら、きっともう何もできなくなっちゃってそう。


「だから、……あのときの、お返し……です」


 ここまで言われたら、何をされるかなんて、考えなくたってわかる。ほっぺたに触れる、ほんのりと濡れた柔らかい温もり。

 有里紗ちゃんに、ちゅーされたんだ、うち。分かってても、ドキドキが収まらなくなる。

 

「そ、それじゃ、おやすみなさいっ」


 慌てたようにベッドから降りて、駆けだす大きな音。自分からしたくせに、恥ずかしくなっちゃうなんて、かわいい。電気を消して、それからベッドの上でごろごろと寝返りを打つ音。うちも、恥ずかしくなっちゃうじゃん、……でも、それよりも、ずっとずっと、嬉しいって気持ちのほうが強くて。

 言えなかっただけで、有里紗ちゃんもうちのこと、大好きだったんだ。照れ屋さんなのに、自分から、ちゅーしにきてくれるくらいに。

 それが、なんだかとっても嬉しくて、恥ずかしくて、愛おしい。

 うちも、大好きだよ、有里紗ちゃん。今日の夢は、きっと素敵なものになる。


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